全国で活動する警察犬のおよそ9割を、民間で訓練された「嘱託警察犬」が占めている。しかし、民間スクールでは、エサ代の負担や訓練士の後継者不足といった課題を抱えている。こうした中、岐阜県警などでは犬種の制限を設けず、小型犬の活用を広げる動きも出ている。
■全国の警察犬 9割近くが『嘱託警察犬』の現状
2025年12月17日、三重県警伊賀署に集まった4頭のシェパード。今年1年間、「警察犬」として捜査にも加わることとなった。
三重県警伊賀署 清水浩之署長:
「今日委嘱された4頭については、かけがえのない伊賀警察署の“署員のひとり”だと考えておりますので、有事の際には出動の方よろしくお願いします」
三重県警では、昔から設備や資金の面もあって警察犬を育てる能力などがないことから、民間に依頼してきた。彼らは、警察犬でありながら「民間犬」だ。

都道府県警直轄の警察犬の方が、圧倒的に少ない現状をご存知だろうか。
有事の際に、民間の訓練士が飼育する犬に出動してもらう『嘱託警察犬』だけに頼っている三重県警。全国ほとんどの道府県警で、この嘱託犬を採用している。実は、全国にいる警察犬の9割近くが嘱託警察犬だ。

しかし、ハードルは高く、毎年審査会で厳しい項目をクリアした犬だけが嘱託警察犬として認められる。
■捜索で役立つ嗅覚はもちろん…三重県警では7犬種を認める
嘱託警察犬に合格したシェパードのオス・ピーター(6)と、訓練士の中誠太郎(なか・せいたろう 72)さん。
40年で30頭以上の嘱託警察犬を育てた凄腕訓練士の中さんと、3年連続で審査に合格したピーターは、犬の訓練技術を競う世界大会で、日本代表にも選ばれた名コンビだ。

中さんが校長を務める三重県伊賀市のドッグスクール「伊賀第一ドッグスクール」で、ピーターも緊急出動に備えて日々鍛錬を重ねている。
人の数千倍ともいわれる自慢の嗅覚で、犯人や行方不明者のニオイを追跡。遺留品を見つけたら「伏せ」をして知らせる。“鼻の捜査官”のお家芸だ。

警察犬の出動要請のほとんどが、行方不明者の捜索だ。認知症による行方不明者数が増加傾向にある日本で、早期発見にひと役買っている。
訓練士 中誠太郎さん:
「(行方不明者を)4~5回くらいは見つけてるかな。要請で行って『探せ』って言ったら畑の中に入っていって、小屋があってそこに寝ていたっていう」
相棒から「いけ!」と指示があれば、体重30キロ以上の体で飛び掛かる。危険な相手に対しても臆せず勇敢に立ち向かう必要があるため、三重県警などの多くの警察では、シェパードやラブラドルレトリバーといった、協会が定める大型の7犬種のみを使っている。

訓練士 中誠太郎さん:
「野生界では獲物を捕ることをやっている。バランスよく楽しく教えるということ。見たら分かるでしょ、しっぽ振ってずっと上見ているってことは、それだけ集中しているということ」
■エサ代に後継者不足…抱える課題
警察犬として健康や体力を維持するためには、値が張っても、質の高いエサにはこだわりたいところだ。しかし、中さんによると、1回の出動で警察からもらえる謝礼は数千円ほど。その「仕事」も、年間で5~6回程度だという。
訓練士 中誠太郎さん:
「1袋で1万8000円とか、2万円近くなるでしょ。やっぱりいいエサを与えてあげたいですね。ワンちゃん飼うんだったら、お金のこと言ってたらダメですけど。かわいい子なんだから」

さらに、後継者も不足している。
訓練士 中誠太郎さん:
「ああ疲れた。若かったらいいけど年齢行ってくるとそれなりにすぐ僕も疲れたりするからね、なんぼ好きなことであっても、結構疲れますわね。人手が足らないもんで。すぐ辞めてしまうね、最近の子は。熱意は持って来るんだけどね。でも続かないんだな。昔はものすごく厳しかったけど、今は『よしよし良い子』って言ってても全然…」
後継者不足は、訓練士だけではない。行方不明者の数が増える一方で、嘱託警察犬の数も、10年前から1割以上減少している。
■犬種の制限がない岐阜県警 “小型犬ならでは”のメリットも
2025年11月、岐阜県瑞穂市で行われた「嘱託警察犬審査会」。優秀な嘱託警察犬確保の可能性を広げるため、岐阜県警では犬種の制限を設けていない。
こうした動きは全国的にも広がっていて、香川県警でも2025年、犬種の制限をなくした。

小型犬として岐阜県初の嘱託警察犬になった、ミニチュアシュナウザーのオス・テトラ(5)。
指導手 古杉未波さん:
「背が低いからか、シェパードより臭いが拾いやすい。鼻の特性は小型の方がいい気がします」
従来の警察犬のイメージとはギャップがあるが、“小型犬ならでは”のメリットもたくさんある。
指導手 古杉未波さん:
「小型犬なら(捜査していても)“散歩してるじゃん”っていうくらいで、気づかれない場合もあるので狭いところに入っていけるのも特殊。シェパード1頭は、1袋15kgのフードが1カ月半弱でなくなるかもしれない。でも小型犬なら15kgのフードが下手したら半年もつ」
嘱託警察犬の犬種が広がった背景には、小型犬のペット需要が高まっていることもあるという。

爆発物などを探す訓練で、テトラの能力を見せてもらった。
訓練では、並べられた5つの箱の中から、火薬が入っている箱を嗅覚だけを頼りに見分けなくてはいけない。中に入っている火薬は、人間では臭いを感じ取ることはできないが…。

テトラは、3回連続で見事に正解し、その高い能力を示した。愛らしくて頼もしい、「鼻の捜査官」の活躍に期待だ。
指導手 古杉未波さん:
「人だけでは頼れないところがあるので、小型犬は小型犬で良いところはあるので、そういうところは生かせていけたらと思う」
■トレーナーを目指す若き女性「根気も時間も苦労もいっぱいかかる」
担い手不足を嘆いていた、伊賀市の「伊賀第一ドッグスクール」。
ドッグトレーナーを目指し、門を叩いた若い女性がいる。山本華帆(やまもと・かほ 24)さんだ。いまは週に2回、中さんから指導を受け、いつかは警察犬の訓練士になるかもしれない。
見習い訓練士 山本華帆さん:
「生き物なので、1回教えたらできるわけじゃないし、根気も時間も苦労もいっぱいかかると思うので、犬が好きというだけではやっていけないと思います」

訓練士 中誠太郎さん:
「4~5年前に専門学校出てから、今のところアルバイト的な感じですけど。頑張ってやってくれて、どんどん良くなってますね。素材がいい子はセンスあるからいいと思う。気遣いとか細かいところまでできるので貴重ですね」
活躍が期待できる逸材はウェルカム。そしてそれは、警察犬も同様だ。

訓練士 中誠太郎さん:
「三重県の場合は今のところ7犬種だけど、警察から相談がたまに来るんですけども、『他の犬種入れてもいいですかね?』という話はあるんだけど。色々ものすごい素晴らしい犬種もいっぱいいます。対応や活躍できる犬種だったら、警察犬に入れてもいいんじゃないかと思う」
