カバノー氏が最高裁判事に選任

議会上院で行われたカバノー氏の承認人事の 投票  賛成50 反対48の 僅差で可決
議会上院で行われたカバノー氏の承認人事の 投票  賛成50 反対48の 僅差で可決
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「今回の訴えは刑事裁判ではないので、合理的な疑いを挟む余地がないほどに立証されなければならないとは思いません。しかしながら、公平性を担保するためには少なくとも我々に『あったのかもしれない』と思わせることが求められます」

スーザン・コリンズ上院議員(共和党メイン州選出)が、カバノー最高裁判事の選任に賛成の意思表示をした演説の一部だが、ここ1ヶ月間米政界を空転させた問題が「あったのかもしれない」とも思わせない事実無根の中傷によって引き起こされたと言ったのだ。

「周到に準備された政治的攻撃」か?

9月27日上院で行われた聴聞に応じるブレット・カバノー氏
9月27日上院で行われた聴聞に応じるブレット・カバノー氏

カバノー判事の選任についての審査は7月から上院法務委員会で行われ、法律問題に関する聴聞も終えて採択が視野に入ってきた9月中旬になってカバノー氏のスキャンダルを暴露する手紙をダイアン・フェインシュタイン上院議員(民主党カリフォルニア州選出)が持っているという噂が広がった。

その手紙は9月16日ワシントン・ポスト紙に全文が掲載された。1982年の夏、当時15歳だったクリスチン・フォードさん(現在カリフォルニア州パロアルト大学心理学教授)は、あるホーム・パーティで当時17歳だった高校生のカバノー氏に寝室に押し込まれベッドに押し倒されて洋服を脱がされそうになったのを辛うじて逃れたと訴えた。

民主党はカバノー氏の適性を再審査すべきだと主張、共和党とのやりとりの結果9月27日上院でフォードさんとカバノー氏に対する聴聞が行われた。

フォードさんは自分の主張は「100%間違いない」と言いながらも、問題のパーティがどこで何時行われそこへどう行ったのかも記憶していないと証言、彼女の主張を裏付ける第三者の証言や証拠も提出できなかった。一方のカバノー氏は容疑を全面的に否定すると共に「これは周到に準備された政治的攻撃だ」と非難した。

「まともな検事なら立件しないケース」

クリスチン・フォードさん
クリスチン・フォードさん

この聴聞に共和党側は、男性議員がフォードさんを追求するような印象を与えないように配慮して女性のレイプ専門の検察官に質問をさせたが、後日この女性検事は「まともな検事なら、このケースを立件することはないだろう」と委員会に報告している。

フェインスタイン議員がフォードさんの手紙を2ヶ月も握りつぶしていたことが示すように、民主党はこの審査をできるだけ先延ばしして11月6日の中間選挙で女性の同情票を集める作戦だったことは明白で、さらなる調査が必要だと主張して投票を拒み続けた。

そこで共和党側は一週間の期限を切って連邦捜査局(FBI)に調査を依頼し、今月4日その結果が上院議員に限って公表された。

報告は秘密扱いになっているが、問題のパーティがあったことも知らないと証言したフォードさんの友人が、その後証言を翻すようにフォードさん側から圧力をかけられたとFBIに話していたことが漏れ伝わった。

トランプ大統領が謝罪

 
 

いずれにせよこのFBI報告は、共和党でもリベラル派のコリンズ議員にさえ「あったのかもしれない」とも思わせなかった内容だったわけで、上院の空気は一気にカバノー氏の承認に傾くということになった。

「カバノー氏とその家族が受けたひどい仕打ちに対して国を代表して謝罪したい」

トランプ大統領は、8日(現地時間)ホワイトハウスで行われた判事の就任式の挨拶で異例の謝罪をしたが、これで「婦女暴行の疑いをかけられた最高裁判事」というカバノー判事の汚名はそがれるのだろうか?

就任式に家族と臨むカバノ―氏
就任式に家族と臨むカバノ―氏

(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

(イラスト:さいとうひさし)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。