公式記録を再度検証する

ウクライナのゼレンスキー大統領(左)とトランプ大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領(左)とトランプ大統領
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いわゆる「ウクライナ疑惑」をめぐって様々な情報が乱れ飛んでいるが、ことの起こりは今年7月25日のトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、トランプ大統領が4億ドル(約440億円)の供与をたてにバイデン前副大統領親子の疑惑捜査を行うよう圧力をかけたという「内部告発者」の指摘からだった。

そこで、その疑惑を明確化するためにもホワイトハウスが発表した公式記録を検証してみたい。

電話会談はトランプ大統領側から選挙でゼレンスキー大統領陣営が勝利したことに祝意を述べ、ゼレンスキー大統領がこれから国内でトランプ式の改革に着手すると持ち上げた後本題に入った。

「見返りが必要だというわけではない」

トランプ大統領
「それは嬉しいことだ。
我々はウクライナにいろいろと尽くしてきている。
多くの努力と時間を費やしてきている。
欧州の国々が費やしているよりもっと多くをだ。

彼らはもっと貴国を助けるべきだと思う。
ドイツは貴国に対して実質的に何もしてきていない。
彼らは口先だけなのだ。
あなたはこれについて彼らに問うべきだと思う。

私はアンジェラ・メルケル(独首相)と話すと、彼女は「ウクライナ」とよく言うが、彼女は何もしない。
欧州の国々の多くも同様だ。
だから貴方はこの問題について取り組むべきだと思う。

それに比べて米国はウクライナに対してとても、とても良くしてきた。
だからと言ってウクライナ側から見返りが必要だというわけではない。
いろいろと良くないことが起きているが、米国はとてもよくしてきたはずだ。」

ゼレンスキー大統領は米国の支援に重ねて感謝し会談は続く。

公表されたウクライナ大統領との電話会談のやりとり
公表されたウクライナ大統領との電話会談のやりとり

「あなたが調査してくれることが大事なのだ」

トランプ大統領
「一つお願いがあるのだが。
というのも米国ではいろいろと問題があってそれらがウクライナと関係があるようだからだ。
そこで調べてもらいたいのがこの問題に関してウクライナで何があったのかということだ。

クラウドストライクが関係していると言うものがいるし、貴国の資産家も関係しているらしいし、あのサーバーだ。
ウクライナにあると言われている。
それらをめぐっていろいろなことが起きた。
ウクライナにはそれに関係したものがいるだろう。

司法長官にあなたか関係者に連絡を取らせるので、この問題を根底から探り出してもらいたい。
ご承知だろうが、このナンセンスは無能なロバート・ムラー(特別検察官)の捜査で「空振り」に終わったが、問題の多くがウクライナで始まったとされる。
どのような結論が出るにせよ、もし可能ならばあなたが調査してくれることが大事なのだ。」

ゼレンスキー大統領は協力を約束し、トランプ大統領は安心する。

ロバート・ムラー特別検察官
ロバート・ムラー特別検察官

「4億ドルの援助」「援助の見返りに」という発言はない

トランプ大統領
「それは良かった。
というのもお国には優秀な検事が居たものの外されたと聞いたのでそれは不公平だと思っていた。
その優秀な検事が外された経緯で悪い人間が関与して居たと言う話はこちらでもよく耳にする。

ジュリアーニ氏は尊敬される人物だ。
彼はニューヨーク市長をしていた。
偉大な市長だ。
私は彼をあなたに連絡させる。
司法長官にも連絡をさせます。

ルーディ(ジュリアーニ)は起きたことについていろいろと知っているし有能だ。
彼と話してもらえればとても良いことだ。
前の駐ウクライナの米国大使、女性だが、は悪いニュースだ。
彼女がウクライナで付き合っていた人物も悪いニュースだ。
そのことをあなたに知っておいてもらいたかったのだ。

別の話だが。
バイデンの息子についての話が流布されている。
バイデンは訴追を止めたが、多くの人がそれについて知りたがっている。
ですので何をするにせよ司法長官と協力してください。
バイデンは訴追を止めたと自慢して回っている。
ですからこの問題を見てくれるといいのだが・・・ とにかくひどい話だ。」

電話会談はこの後両首脳が相互に招待することなど儀礼的なやりとりをして終わるのだが、見ればわかるように「4億ドルの援助」とか「援助の見返りに」という発言は一切ない。それどころかトランプ大統領は「ウクライナ側から見返りが必要だというわけではない」とはっきり言っているのだ。

弾劾訴追の条件を証明できるか

追及を強めるナンシー・ペロシ下院議長
追及を強めるナンシー・ペロシ下院議長

民主党側は、トランプ大統領の発言は「マフィアのボス」のように口に出さず「遠回し」に圧力をかけたものだと主張するが、それで弾劾訴追の憲法上の条件である「反逆罪、収賄罪その他の重罪または軽罪」を証明できるのだろうか。

またトランプ大統領が依頼したのはほとんどが「クラウドストライク社」や「サーバー」など2016年の大統領選をめぐる疑惑捜査で、バイデン親子の話は「別の話だが」と付け足しのように話していて「選挙法違反」ということも証明しにくいはずだ。

この疑惑を論ずる時は、確たる証拠に基づいて判断する必要があると思うのだが・・・

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。