【世界初】目と鼻に直接VXが…「いたずら」再現で見えた暗殺の巧妙手口

金正男暗殺・元受刑者の涙の告白(4)

カテゴリ:ワールド

  • 犯行当日の監視カメラ映像を自ら説明
  • フオンさんの両手をとっさに掴んだ金正男氏
  • 狙われた目と鼻…「いたずら」再現から判明

金正男氏暗殺の実行役として利用されたベトナム人のドアン・ティ・フオン元受刑者がFNNの取材に、事件に巻き込まれた一部始終を語った。世界を震撼させた金正男氏暗殺の瞬間を捉えた防犯カメラ映像。そこにはフオンさんが正男氏の背後から近づき、手で顔を覆う姿が映っていた。マレーシア検察はフオンさんが「意図的に目を狙い」殺意があったと主張。これに対しフオンさんは「イタズラ動画の撮影だった」と殺意を否認してきた。しかし肝心の部分は監視カメラには映っていない。

【関連記事:実行犯が初めて語った金正男暗殺の手口 「サプライズキス」撮影のはずが・・・(1)
【関連記事:実行犯の新証言:工作員2人に連れられた「北朝鮮レストラン」が作戦拠点か(2)
【関連記事:あの手この手の恋人作戦…女心を掴んだ北朝鮮工作員(3)

「いたずら」を再現

今回、フオンさんに当日の「いたずら」を再現してもらった。すると、北朝鮮工作員が考え出した一見奇抜なこの「いたずら」が、実は猛毒のVXを金正男氏の目に確実に塗りつけられるために考え抜かれた方法だったことが判明した。

金正男氏に後ろから近づき、手で顔を覆うフオン元受刑者

監視カメラに映った犯行動機

本人の証言によると2016年2月13日早朝、ミスターYに呼び出されたフオンさんは、マレーシアのクアラルンプール国際空港に到着した。待ち合わせの時間より早く着いたため、フオンさんは空港内で朝食を取り、その後、到着ロビーでミスターYと落ち合ったという。

ミスターY(北朝鮮工作員「リ・ジヒョン容疑者」)

フオンさん:
「朝、6時くらいでしょうか。空港に着きました。マネージャー(ミスターY)からイタズラ動画を撮影すると言われたからです。到着ロビーで待ち合わせることになっていました。(空港に)早く着きすぎたので朝食を食べました。」

空港の監視カメラは、ミスターYとフオンさんが到着ロビーで一緒に歩く姿を捉えていた。フオンさんに実際に映像を見てもらい、当時の状況を詳しく説明してもらった。

監視カメラ映像を確認するフオンさん

フオンさん:
「これは私とマネージャー(ミスターY)です。」

ーーこれは撮影前ですか?
フオンさん:
「一緒に歩いています。何時かはわかりませんが、いたずら動画撮影(犯行)より前です。」

ーー.マネジャー(ミスターY)から指示はありましたか?
フオンさん:

「イタズラ動画を撮影すると。確かチェックインマシーンを見ろと」

躊躇せずに近づけるように・・・「男性は雇った俳優だ」

到着ロビーで合流したミスターYは、フオンさんにターゲットの男性について「雇った俳優だ、動画を面白くするために来た」と説明したという。そして、その俳優こそが金正男氏だった。なぜミスターYは正男氏のことを「俳優」と説明したのだろうか。おそらく今回のイタズラが仕込みであると信じ込ませ、フオンさんが躊躇せずに「イタズラ」できるよう誘導していたとみられる。

フオンさん:
「ミスターYはイタズラ動画の撮影で新しい俳優と女優が来ると言いました。」
「俳優は事務所から、動画を面白くしてYoutubeに載せるために来たと言われました。」

両腕を掴まれた・・・金正男氏襲撃の瞬間

そして運命の瞬間がやってくる。「イタズラ」を仕掛ける直前、フオンさんはミスターYから、手に黄色い液体を塗りつけられる。これは以前からやっていたのと同じ方法だったので、本人は特に気にすることはなかったという。そして後ろから金正男氏に近づき、液体を塗りつけた。

フオンさんは、その瞬間を鮮明に記憶しているという。

クアラルンプール国際空港での金正男氏

フオンさん
「彼(金正男氏)は私の腕を強く掴みました。でも(イタズラの対象が)どんなリアクションでも、もう気にならなくなっていました。彼が私の方を向いたので…ごめんなさいと言って立ち去りました」

ーー彼(金正男氏)は何か言っていましたか?
フオンさん:
「いいえ、私はごめんなさいと言って、すぐに去ってしまったので」
「彼は誰が触ったか知りたかったんだと思います」

おそらく金正男氏は一瞬、何が起きたのかわからず、フオンさん両腕をとっさに掴んだのだろう。しかし、そこにいたのは見知らぬ若い女性だった。正男氏は最期まで自分に何が起きたのか分からず、亡くなったと推測される。

再現から見えた「目と鼻」

イタズラを仕掛けられた後、容態が急変し、死亡した金正男氏。その遺体の目からは猛毒の神経剤VXが検出された。一般に皮膚などと比べて粘膜のほうが毒物の吸収が早い。このためマレーシア検察は、2人が意図的に目を狙ったとみて、殺意があったと主張した。

はたしてフオンさんは意図的にターゲットの目を狙ったのだろうか。
監視カメラではフオンさんの後ろ姿しか映っておらず、確認することができない。そこでフオンさんに当日の「イタズラ」を再現してもらった。すると彼女の両手はターゲットの目や鼻などの部分に自然と触れていたことが分かった。

マネキンを使って当日の「イタズラ」を再現するフオンさん

ーー強く顔を触りましたか?

フオンさん:
「いえ。普通です。触っただけです。」

手についたVXが自然と目に入る「イタズラ」。一見奇抜なこの方法は、実は計算しつくされたものであった可能性が高い。北朝鮮工作員らは、実行役のフオンさんの手に塗られたVXが金正男氏の目を捉える方法を研究し、「イタズラ動画撮影」の名のもとで、フオンさんに教え込んでいたとみられる。

(第5回に続く)

FNNプライムオンラインでは、フオンさんの独占インタビューをもとに、金正男暗殺の舞台裏に迫ったリポートを計6回にわたって連載中。

【執筆:FNNバンコク支局 佐々木亮】

「隣国は何をする人ぞ」すべての記事を読む

隣国は何をする人ぞの他の記事