金正男氏暗殺の実行役として利用されたベトナム人のドアン・ティ・フオン元受刑者がFNNの取材に、事件に巻き込まれた一部始終を語った。フオンさんは金正男氏に「イタズラ」を仕掛ける際、一緒にいた北朝鮮工作員ミスターYが用意した黄色い液体を素手で扱っていた。その液体は猛毒の神経剤VX。顔にVXを塗りつけられた金正男氏は死亡。一方、VXを素手で触っていたフオンさんは生き延びた。
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その後、マレーシア検察は、2人が液体を毒物と事前に認識していたと主張したが、フオンさんらは一貫して否認してきた。彼女は本当に事前に毒物とは知らなかったのか。そしてなぜ彼女はVXを触っても生き残ることができたのだろうか。

猛毒のVXを素手で・・・
2019年2月13日午前9時過ぎ、クアラルンプール国際空港出発ロビー。「イタズラ動画」の女優として雇われたフオンさんは、マネージャーのミスターYとともにターゲットとなる俳優が来るのを待っていた。そして自動チェックイン機に近づいてきた男性を見つけると、ミスターYは用意していた黄色い異臭のするオイルをフオンさんの手に垂らしたという。フオンさんは、そのオイルを入念に両手でこすった後、正男氏の後ろに回り込み、両手で顔に塗りつけた。
このオイルは後に猛毒の神経剤VXと判明する。

ミスターYは相当な量の液体をフオンさんの手に垂らしたとみられている。監視カメラの映像には事件直後、手についた液体が長袖の裾につかないよう何度も腕を上げながら歩くフオンさんの姿が残されていた。

ーーなぜ腕を上げた?
フオンさん:
「白い服を着ていて長袖だったからです。袖が汚れてしまうでしょう。」
ーーどこに向かっていた?
フオンさん:
「トイレに向かっていました。」
彼女は本当に液体が毒物であることを知らなかったのだろうか。フオンさんは事件前の2日前、ベビーオイルを手につけて人を驚かすイタズラ動画を撮影していた。事件当日も同じく液体はベビーオイルだと信じていたと言い、毒物とは知らなかったと話す。フオンさんの弁護人も「毒物だと知っていたら素手で触るはずはない」と主張し、明確に殺意を否定している。
生死を分けたのはトイレ?
正男氏に液体を塗りつけた後、フオンさんは現場から立ち去り、一階下のトイレに向かった。そこで彼女は石鹸を使って入念に手を洗ったという。この行動が、後にフオンさんが液体を毒物と知っていたのではないかとの疑念も生んだが、本人はただ単に「汚い」と感じて自らの判断で手を洗いに行ったと話した。

ーー手を洗うのに時間はかかりましたか?
フオンさん:
「綺麗にしたかったので。油っぽいと感じましたが、まぁいいかと。」
ーー石鹸で洗いましたか?
フオンさん:
「はい。」
ーーけどまだ油っぽかった?
フオンさん:
「はい。けれども何ともなかったのでタクシーで帰りました。」
ーー手に違和感は?
フオンさん:
「ありません。痛くもなく普通です。」

もしフオンさんが自分の判断で、手を洗いに行かなかったらどうなっていただろうか。そして、もし液体がついた手で自分の目を触れたり、口に液体が入ったりしていたら…おそらくフオンさんは正男氏と同じ運命を辿っていたに違いない。
同じくVXに素手で触れたシティ・アイシャ元被告は、手を洗わずに空港を離れ、帰りのタクシー内で嘔吐した。実行役の2人は北朝鮮工作員にVXを素手で触らされ、生と死のすれすれの状況に置かれていたのだ。

工作員からの指示は?
ここで一つの疑問が生まれる。北朝鮮工作員は実は金正男氏とともに彼女たちも同時に殺害するつもりだったのではないだろうか。だがフオンさんの証言はその疑念を否定する。
実はフオンさんは事前にミスターYに、手を洗っていいか相談をしていた。ミスターYは「任せる」と応え、フオンさんの判断に任せていたことが分かった。

ーー手を洗うことについて指示は?
フオンさん:
「ありません」
ーーなぜ(1階下の)2階のトイレに行ったのか?
フオンさん:
「このトイレにしたのは、マネージャー(ミスターY)に手を洗う相談をしたら「任せる」と言われました。俳優の近くのトイレに行くと不自然なので2階のトイレに行きました。
ーーマネージャーが近くのトイレはやめろと?
フオンさん:
「そうです。汚いと思いました。マネージャー(ミスターY)が真っ直ぐ帰れと行ったら、それに従っていたでしょう。」
もしフオンさんを殺害するつもりであれば、ミスターYは手を洗うことを禁じていたであろう。北朝鮮工作員は、液体のVX濃度を調整し、正男氏暗殺後も女性2人が生き残ることを想定して作戦を立てていた可能性が高い。金正男氏が暗殺されて若い女性2人が実行役として逮捕された今回の暗殺事件。すべては工作員らのシナリオ通りだったのかもしれない。
