信頼関係を利用し暗殺実行へ
金正男氏暗殺の実行役として利用されたベトナム人のドアン・ティ・フオン元受刑者がFNNの取材に、事件に巻き込まれた一部始終を語った。ハノイで出会った北朝鮮工作員のミスターYはフオンさんをカラオケ店に誘ったり、プレゼントを渡したりするなど、様々な方法で彼女との距離を縮めていった。
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そして犯行直前には、一緒に水族館に行き、まるで恋人同士のように楽しげに会話をするほど親密な関係を築いていたことが入手した動画から明らかになった。ミスターYはこの信頼関係を利用しフオンさんを暗殺実行犯に仕立て上げていった。

「いたずら動画」撮影後にカラオケ店
暗殺2ヶ月前の2016年12月末。フオンさんはハノイ中心部で「ミスターY」と名乗る男(後に北朝鮮工作員と判明)とともに「いたずら動画」の撮影に臨んでいた。しかしターゲットとなる人が少なかったため、ミスターYは撮影を早々に諦め、フオンさんをカラオケに誘った。歌うことが大好きなフオンさんはミスターYの誘いに喜んで応じたという。


フオンさん:
「歌って飲むために、ミスターYとハナモニとカラオケに行きました。」
「たくさん歌いましたよ。私は4,5曲ほど歌いました。そして泥酔してしまいました。」
ーーミスターYは楽しそうでしたか?
フオンさん:
「そうですね、楽しそうでした。ハナモニもとても楽しそうでした。私は酔っ払ってしまいました。」
ーーカラオケに行くというのはミスターYのアイデア?
フオンさん:
「マネージャー(ミスターY)かな。」
ピンクのジャケットにお小遣い・・・様々な贈り物
カラオケ店で1,2時間ほど過ごした後、ミスターYとハナモニは食事をごちそうするとフオンさんをディナーに誘い、カラオケ店の隣りにある北朝鮮レストランへ向かった。しかし泥酔していたフオンさんは、店内で10分ほど過ごしたあと、家に帰ると2人に告げる。別れ際にミスターYはフオンさんに、クリスマスプレゼントとして小遣いを渡したという。フオンさんがキリスト教徒であることを事前に知った上でのサプライズだった。

フオンさん:
「その日は動画撮影をしていませんが、クリスマスプレゼントとして小遣いをくれたのです。私がキリスト教徒なのを知っていたんだと思います。」
カラオケ店で一緒に過ごした数日後、今度はミスターYはフオンさんをハノイ有数のファッション通りに呼び出す。そこでミスターYはイタズラ動画の撮影で着るための衣装として、日本円で4000円ほどの「ピンク色のジャケット」を買ってプレゼントしてくれたという。狭い店の中で、肩を寄せ合うようにして一緒に選んだものだった。

フオンさん:
「ピンクのジャケットを買いに行ったんです。
(ミスターYの)会社が動画のためにと買ってくれました」
ーージャケットは使ったのですか?
フオンさん:
「はい、けれども、どの動画で着たのかは覚えていません」
急速に縮まった2人の距離
フオンさんの心を掴むためカラオケ店に誘ったり、プレゼントを渡したりするなど、あの手この手を繰り出していたミスターY。2人の関係は日を追うごとに接近し、ミスターYはフオンさんの信頼を勝ち得ることに成功した。
当時の2人が「親密な関係」になっていたことを示す動画を我々は入手した。それは事件直前にマレーシア・クアラルンプールの水族館で撮影されたもので、動画には上下黒い服にキャップをかぶったミスターYが、流暢なベトナム語でフオンさんをエスコートする姿が映っていた。そしてまるで恋人同士のように話をする2人の肉声も収められていた。


動画に収められていた音声(ベトナム語)
ミスターY :「君の写真を撮ろうよ。写真を撮ってあげるよ」
フオンさん :「待って待って!動画を取り終わってからにして」
ミスターY :「写真を撮ってあげるよ」
事件直前には既にフオンさんと親密な関係を築いていたミスターY。彼にすっかり心を支配されていたフオンさんは、2月13日の動画撮影がまさか「暗殺作戦」だったとは夢にも思っていなかった。(第4回に続く)
FNNプライムオンラインでは、フオンさんの独占インタビューをもとに、金正男暗殺の舞台裏に迫ったリポートを計6回にわたって連載中。
9月23日(月)18時25分頃~ フジテレビ『 LiveNewsit ! 』特報 でも放送。
【金正男暗殺事件の全容 実行犯が初告白~独自入手映像で紐解く 北朝鮮の卑劣な罠~】
