「子どもには自ら育つ能力が備わっている」ジェフ・ベゾスや藤井聡太も学んだモンテッソーリ教育の可能性

黒板も教壇もない教室で自発的に学ぶ

  • モンテッソーリ教育は知的障がい者の為に生まれた教育メソッドだった
  • 教師が一方的に教えることをせず「やってみたい」環境を整える
  • 独立心を養い能動的に活動に取り組むことで脳の発達が促進される

「子どもには自ら育つ力が備わっている」

子どものもつ潜在的な才能を伸ばす教育として、欧米を中心に世界140か国以上で実践されているモンテッソーリ教育。知的障害がある子どもへの教育メソッドとしてイタリアで生まれ、100年以上の歴史を持つ。

最近ではアマゾンの創設者ジェフ・ベゾスやグーグルの創業者ラリー・ペイジらがこの教育を受けたことで知られ、藤井聡太七段もこの教育を受けて才能を開花させたとして、親や教育関係者の間でがぜん注目が集まっている。

ではモンテッソーリ教育を実践する学校では、どんな教育が行われているのだろう。鈴木解説委員が「体験入学」して探った。

(a+b)²=a²+2ab+b²の意味は?

「鈴木さんは、(a+b)²=a²+2ab+b²は知っていますね?」「ええ、まあ」「ではこの意味はわかりますか?」「!?」

都内港区にある「ザ・モンテソーリ・スクール・オブ・トウキョウ」を訪れると、副校長のジェームス・ムーアさんは、まず筆者にこう聞いてきた。

「いみ、ですか・・・」

社会人になって以降さすがに因数分解の方程式を使う機会は無くなったが、学生時代には徹底的に暗記させられた。しかしあらためて「意味は?」と問われると答えられない。

某番組なら「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と怒られそうだが、ジェームスさんは優しくこう説明してくれた。

「aとbの長さの直線を足して二乗するということは、a+bの辺の正方形の面積を求めることになりますね。それを図に表すとこうなりますよね」

左)ジェームス・ムーア副校長

視覚的にみると「なるほど、そうだよね」とあらためて納得する。

そして「今度は三乗してみましょう」とジェームスさんが取り出したのは、「教具」と呼ばれる積み木のようなブロック。この学校の子どもたちは、ブロックをいじりながら、因数分解を視覚的・触覚的に学んでいくのだ。

子どもの「やってみたい」を学べる環境を整える

ザ・モンテソーリ・スクール・オブ・トウキョウには、2歳から15歳までの約170人の子どもが通っている。国籍は30か国以上。校内は英語がメインで使われているが、子どもたちの使用言語は20にわたるという。

「一般的な学校では教師が円の中心にいて、外側に子どもがいます。教師はカリキュラムに沿って子どもに教えるので、子どもは同じ教育を受け、同じ体験をします。一方、モンテッソーリ教育では、円の中心にいるのは子どもです。外側にカリキュラムがあり、教師は子どもとカリキュラムの間の架け橋となり、子どもの興味や好奇心に合わせて、学ぶ環境を用意するのです」

モンテッソーリ教育では、教師が一方的に教え込むことはしない。教師が子どもの好奇心や発達段階を理解し、それぞれが「やってみたい」「触れてみたい」と思うものを学べるように環境を整える。つまり、子どもそれぞれに学びが最適化されているだ。

読み書きだけでなく感じることで学ぶ

ジェームスさんに校内を案内してもらうと、日本の教室と違って黒板や教壇、整然と並ぶ机と椅子はない。かわりにあるのは、子どもが動きやすいよう配置されたテーブルや椅子、一見玩具のような「教具」だ。

訪れたのはちょうどお昼過ぎだったので、教室内は照明を落としていた。なぜなら幼稚部の子どもは、お昼寝をするグループと、教師が本の読み聞かせをしているグループに分かれているからだ。自分がお昼寝をするか、本を読むかを決めるのは子どもたち。教師からの指示は無い。

教室の外には小運動場くらいの庭があり、子どもたちは自然の中で草木を植えたり、ガーデニングをしたり、さらに絵を描いたり工作をしたりする。

「子どもたちはここで植物や昆虫に触れ、読み書きだけでなく感じることで生命を学ぶのです。庭に芝を植えたり、高学年になるとコンポスター(※)を作って、環境問題を学ぶこともあります」(ジェームスさん)

(※)枯れ葉や生ごみを発酵させて、「たい肥」にする容器

自発的な学びと生活面の自立を養う

ここまで読むと、「子どもを放任する教育なのか」と感じる読者も多いと思う。

しかしモンテッソーリ教育は、子どもの自発的な学びを促すだけでなく、生活面で自立し社会で生きていくための力も養う。この学校では、幼児のころから教室の掃除を自分たちで行う。また、教師にコーヒーやお茶を出すし、簡単な調理も行う。庭にある手すりを紙やすりで磨くなど、普段自分たちが使う施設の修繕を行うのも子どもたちだ。

では子どもたちに、「学校はどうか」と聞いてみた。将来の夢はNASAかユニセフという小学校高学年の女の子は、「好きな教科は数学。ほかにも墓地の清掃などボランティア活動や演劇が好き」と答える。また「将来は音楽バンドを作りたい」という男の子は、「先生たちもとてもいい人たちだし、楽しいし、よく笑うし、いつも助けてくれるよ」と語った。

学校では数学や化学などの教科以外にも、様々なボランティア活動や、音楽バンド、演劇、課題図書のグループ討議などの活動がある。さらに「ごみをゼロにする」など課題解決型のプロジェクト学習、皆で円周率を無限に覚える「πデー」などこの学校独自のものもある。

ペーパーテストは年に一回、読解力や数学の力を見るために外部テストを受けるだけ。宿題はなく、課題は学校の中で片づける。日本の学校に通う子どもが聞いたら、羨ましくなる話ばかりだ。

自分で選ぶと脳の発達が促進される

この学校に子どもを通わせるお母さんはこう言う。
「モンテッソーリ教育の考え方に共感し、この環境の方が子どもの良さが引き出されると感じたので通わせました。子どもは学校に行くことが今までよりも楽しくなって、リーダーシップを発揮する場面も増えたと思います」

ジェームスさんは言う。
「子どもたちの好奇心を刺激して、独立心を養い、各々が能動的に活動に取り組むことで脳の発達が促進されると言われています。自分で選び、自分たちで環境を作る。さらに社会とつながることが大切ですね」

日本では2020年に教育大改革が行われる。しかし、教師が一方向で子どもたちに教える教育だけでは、来るべきSociety5.0を生き抜く子どもを育てることは不可能だ。

いまの教育は時代から取り残されていることを、親と教育関係者は気づかないといけない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

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