フランス人は、あらゆることに文句を言うことが多いことで有名だ。良くも悪くも不満が多く、褒めるときも「悪くないね」と、控えめに評価する。

そんな文句好きなフランス人が、オリンピックの開会式後、意外にも後悔していた。

世界を感動させた激闘の2週間、閉幕迎えたオリンピック

第33回夏季オリンピックは、100年ぶりにパリで開催され、17日間にわたって世界のトップアスリートたちの激闘の舞台となった。

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開会式当日には、高速鉄道TGVで3つの路線のケーブルが放火され、複数の県で通信回線のケーブルが切断された。

それでもテロ警戒レベルを「最高」に引き上げたまま、開催されたパリ五輪は、大混乱につながる大きなトラブルもなく、8月11日、閉幕した。

五輪期間中、パリ市内の公共交通機関の様子
五輪期間中、パリ市内の公共交通機関の様子

実は、今年に入って開会式が迫るにつれ、メディアやパリ市民の間に不安の声が広がっていた。地下鉄の混雑に対する不満や、テロに対する懸念などから、期間中に「パリ脱出現象」も見られた。

開会式直前には警察官が刃物で襲われ、警備体制が不十分との声も上がった。

さらに政治も混迷を極めた。6月10日に、マクロン大統領が国会下院の解散を発表し、その後の総選挙で、与党は過半数の議席を確保できず、アタル内閣が総辞職することになった。

次期首相は未だに任命されていない。

「見逃しちゃダメ!!」テレビ見て後悔したフランス人

自らの誤りを簡単に認めないフランス人だが、開会式をテレビで見ながらハッと気付いた。

自国で開催されるこの歴史的一大イベント。文句ばかり言っているうちに、喜びや感動を逃してしまうのではないかと。

聖火台を見に来た女性2人(30歳・29歳)は「元々、五輪を見に来る気はあまりなかったけど、開会式を見てすぐにパリに来ることを決めました!パリで開催される五輪なんて、素晴らしいことだと気づきました!」

「メディアでは警備の話がいろいろと流れてきて、安全に開催できるか心配でしたが、開幕してパリ五輪が大きなお祭りだということがわかりました!運営も素晴らしく、フランスのイメージアップにもつながります!」と話す。

今までの心配がウソのように、多くのフランス人が開幕以降、五輪に対する見方を変えた。

街で拾った声は全員が、「安全」、「素晴らしい」と運営を称賛していた。

マラソン・スイムを観戦した夫婦(74歳・68歳)は「開幕する前は怖かったけど、今はフランス人として、このような素晴らしい大会を開催できて誇りに思っています!ロサンゼルスで、これ以上輝かしい五輪を見せてくれるか見てみたいです!」「警備体制も徹底しているし、安全だと感じています」

パリで働く男性(20)も「前はSNSでニュースを見ながら、警備や主催の面で、五輪なんて開催するのは無理だと思っていましたが、今は問題ないと思います」と歓迎ムードだ。

気球型のパリ五輪の聖火台
気球型のパリ五輪の聖火台

予想されていた混雑や混乱はなく、期間中のパリが、通常より過ごしやすいとの意見も聞かれた。

聖火台を見に来た女性2人(30歳・29歳)は「パリジャンは街を出てしまったので、どこも混んでいなくて過ごしやすくてラッキーです!」と歓迎。

パリで働く男性(20)も「電車は時刻通り到着するし、公共交通機関では人が減ったような気がします。警察官は多くて、普段より安全に感じます」と喜んでいた。

現地メディアも、フランス人を魅了した今大会を絶賛している。

スポーツ紙のレキップは、「永久に残る五輪」という見出しで、「17日間という短期間でフランスを幸福のバブルに包んだ。週明けの出勤の時にバブルがなくなるのは悲しい」と報じた。

また、ル・パリジャン紙は五輪に対するフランス人の誇らしさを伝え、市民の67%が五輪を称賛しているとの世論調査の結果を紹介した。

オリンピックの開催を称賛する地元新聞、『ル・パリジャン』と『レキップ』
オリンピックの開催を称賛する地元新聞、『ル・パリジャン』と『レキップ』

一方、大会のレガシーにしようとセーヌ川で競技が開催されたことに対しては、水質データが不透明だと、今も疑問の声は根強く残っている。

また、五輪で得られた幸福感が収まり、治安の問題やインフレへの懸念、次期内閣が決まらないことの不安などが改めて現実的な課題として浮上している。

五輪の魔法にかかったフランス人 今度は「五輪ロス」!?

聖火台の写真を撮るために毎日多くの人が集まっていた
聖火台の写真を撮るために毎日多くの人が集まっていた

美酒に酔いしれた日々も過ぎ去り、2週間余りの祭りの興奮と感動が冷めていくなか、人々は徐々に日常生活に戻りつつある。

100年に一度の歴史的大イベントを経験したフランス人は、どう受け止めているのか?

パリを観光中のフランス人男性(36)は「ちょっとした苦味を感じるというか、仕事から帰ってメダルが何個取れたかテレビで見るのが毎日の楽しみでした。スポーツに対する情熱と国歌斉唱であふれた短い間でしたが、最高の2週間でした!」と振り返る。

パリ在住の女性(22)も「確かに少し懐かしく感じます。期間中は街の雰囲気もよく、観光客も多かったけど混雑するほどではありませんでした。閉幕して、音楽で言えばブルースのように寂しげで、何か足りない感じがします」と話した。

パリの中心部が競技会場となったことで、地下鉄の駅は閉鎖され、レストランや地下鉄が値上がりし、パリ市民の日常に大きく影響した。

閉会式から10日ほど経った今、パリはまだ夏休みということもあって、街は閑散としてやや寂しい雰囲気に包まれている。市内はオリンピックからパラリンピックに模様替えが始まり、新たな期待が高まっている。

陸上を観戦した男性(18)と女性(17)は「次のパラリンピックも楽しみです!障がいを乗り越えて頑張ってきた選手たちの真剣な姿には尊敬しかありません!」
「街には五輪の空気がまだ残っていますが、パラリンピックが終わったら元通りになると思います。いつも通り、性格の悪いパリジャンに戻るでしょう」と語った。

パラリンピックが閉幕したら、人々はいつものひねくれたパリジャンに戻るのだろうか。

期間中の明るく素直なフランス人がすでに恋しい。

ルアナ・モセ
ルアナ・モセ

異文化と多様性を目指す

フランスとブラジルのハーフ。 フランス国立東洋言語文化大学で日本語と国際関係を勉強した後、立教大学に留学し社会学を専攻。 大学中からFNNパリ支局で取材を手伝っている。