パリオリンピック開会式を目前にした7月26日。フランスの高速鉄道「TGV」の路線で、“同時多発的”に信号機器が燃やされ、火災が発生するなどの破壊行為が発生した。

現地でオリンピックを取材していたFNNの取材団が直面した“テロの脅威”と、関係者でさえも常に身分証明書が必要だったパリの街の“厳重警備”の裏側とは…。

「パリで“破壊行為”」心配が現実に…

「パリの街で“破壊行為”が起きた」との一報に、パリ五輪取材団に緊張が走った。

7月26日、パリオリンピック開会式まで、あと数時間と迫ったパリの街の様子を伝えるべく、我々取材団は開会式会場のセーヌ川沿いにいた。

セーヌ川での開会式
セーヌ川での開会式
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当初行う予定だった「開会式直前の会場の様子」という中継内容から、急遽変更する形で放送することとなった。現場はどこなのか、誰が“破壊行為”を起こしたのか…。

現地のラジオを聞き、情報を集めた。ケガ人はいるのか、いるとすれば大勢なのか。犯人は逃亡しているのか、それとも捕まっているのか。

パリには、日本からも多くの人が訪れている。彼らは安全なのか。とにかく急いで、情報をかき集めた。

トライアスロンが行われたセーヌ川
トライアスロンが行われたセーヌ川

一方で、我々の身の安全の確保もしなければいけなかったわけだが、その点は、あっさりクリアした。というのも、セーヌ川沿いは、すでに身分証を当局にチェックされ、通行パスを持っている人しか近づくことができない状況だった。また、周りには、銃を持った憲兵隊たちばかりだった。

自分たちの身の安全は確保したうえで、わかる情報を速報で伝えることに努めた。

十分な情報が得られないまま、我々取材団も身の安全を最大限に確保しながら放送対応に当たった。

“同時多発的”な破壊行為と判明

まもなくして、フランスの高速鉄道「TGV」の北部と西部など3つの路線で、“同時多発的”に信号機器が燃やされ、火災が発生するなどの破壊行為が行われていたことが判明。

フランス高速鉄道・TGV
フランス高速鉄道・TGV

多くの列車が運休となるなど、世界中から集まった報道陣や観光客で賑わう鉄道の運行が大きく乱れた。検察当局は、「組織的な犯罪」とみて捜査を開始した。

犯行グループの確保にも至っていない中、数時間後に控えた開会式は行われるのか、付近で警備に当たっていた警察官も「今言える事は何もない。我々は我々の持ち場を守るだけだ」と緊張した面持ちで答えるのみだった。

IOC・バッハ会長
IOC・バッハ会長

この事件を受けて、IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長は、大会への影響について、
「心配していない。全ての対策は講じられている」との見解をすぐさま示し、その通りに開会式はその後無事開催されることとなったが、またいつ起きてもおかしくない“テロの脅威”に、取材団の緊張は続いた。

花の都パリに似合わぬ“物々しさ”

パリの街で行われていた警備の態勢について紹介したい。

1つ目に、明らかに日本とは違う警察官の出で立ちだ。

開会式10日前のシャンゼリゼ通りの様子
開会式10日前のシャンゼリゼ通りの様子

パリの街の警察官は、通常時は数名で見回りする程度なのだが、オリンピック開催が近づくに連れて、常に数十人単位で通りを警戒したり、通行人の手荷物をチェックする様子が見受けられ常に大きな銃を手に持ち警備に当たっていたのが印象的だった。

大きな銃を持ち警備にあたっていた
大きな銃を持ち警備にあたっていた

実は、大会期間中に、イスラム組織ハマスの最高指導者がイランで殺害されたことで、中東情勢が緊迫したこともあって、フランスの治安当局は1日3万人の警察や憲兵を警備にあてていたという。

こうした、警察や憲兵の“見せる警備”もあって、他に大きな混乱は起きなかった。

関係者も常に身分証提示

そして二つ目に、事前に申請の通ったマスコミや住人、関係者などしか通行出来ない通りでも、身分証や許可証の提示が常に求められた。

開会式6日前のエッフェル塔周辺
開会式6日前のエッフェル塔周辺

通常、パリの街では観光客が自由に観光名所を行き来できるが、今回はその名所を利用した会場となっていた。

筆者がQRコードを求められる場面(開会式当日セーヌ川沿いオルセー美術館付近)
筆者がQRコードを求められる場面(開会式当日セーヌ川沿いオルセー美術館付近)

オリンピックが近づくにつれ、競技会場付近や開会式エリアに入るには「QRコード」を用いて通行許可を得たり、QRコードを持っていてもパスポートの提示を求められる事があった。

ネズミ一匹通さない警戒の一方で、目的地に辿り着けず途方に暮れる観光客の姿も見られた。

セーヌ川を警備する船
セーヌ川を警備する船

初めて競技場の外で行われる開会式ならではとなる、セーヌ川を警備する船も見られた。

「感動」と「安全」の狭間で

“テロの脅威”がささやかれる中、100年ぶりにパリで開催されたオリンピック。

パリでは2015年11月に、イスラム国による同時多発テロが起きており、オリンピックという国家をあげてのイベントの中で、またいつテロが起きてもおかしくないと言う点が心配されていた。

テロが懸念されていたパリ
テロが懸念されていたパリ

その心配が、まさか開会式当日に“同時多発的な破壊行為”という形で現実の物となり、“交通の中枢”を狙った大規模な“破壊行為”に、我々のような全世界から集まった取材団だけでなく、多くのフランス国民にも影響を受けた。

実は、フランス検察当局によると、期間中にテロ計画3件が未然に阻止されていたというから驚きだ。いかに警備に力を入れていたのかを世界に示す形となった。

次回の2028年にはロサンゼルスで夏季オリンピックが開催される予定となっているが、安全の担保と感動を生む舞台を整える警備は、これからも突き詰めるべきテーマであり、開催国の腕の見せどころでもあると感じた。
【取材・執筆:撮影中継取材部 増子駿一、元FNNパリ支局員 森元愛(関西テレビ)】

フジテレビ
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撮影中継取材部
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