2019年7月18日。京都アニメーションの第一スタジオが放火され、36人が死亡、32人が重軽傷を負った。殺人などの罪に問われている青葉真司被告(45歳)。2023年9月から4カ月以上に渡って行われた裁判は、1月25日に判決を迎える。

大切な家族を突然奪われた遺族が、判決を前に何を思うのだろうか。

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妻を亡くした夫:その場(法廷)に立つと感情が抑えきれない。

娘を亡くした母:私は、苦しんで苦しんで死んでほしいって思ってる。ようけ人殺しといてな、なんで自分だけが生き延びなあかんの。おかしいやん。

 青葉被告の判決を前に、それぞれの遺族の思いがあった。

■「母親を失った息子についてどう思いますか?」

寺脇(池田)晶子さんの夫:息子は寂しさに耐え、文句も言わず、我慢して前向きに進んでいます。それを見ていると、親としては本当につらいです。青葉さん、私たちがあなたを許すことができると、あなたは思いますか?

妻を亡くし、遺族として法廷に立った男性は、声を震わせながら、青葉被告に何度も問いかけた。

事件で犠牲となった寺脇(池田)晶子さん(当時44歳)は、人気アニメ作品「涼宮ハルヒの憂鬱」のキャラクターデザインを手がけるなど、京アニを代表するアニメーターだった。

晶子さんが亡くなってから、寺脇さんは息子と2人で暮らしている。事件直後、息子は布団の中で1人隠れて泣いている日もあった。それから4年半。今では晶子さんの作業机で勉強するようになった。

寺脇(池田)晶子さんの夫:普通の状態に戻るまで結果的にやっぱり4年かかってしまった。もっと早くデフォルト(普段)の状態に戻るだろうと思っていたけれど、そうはいかなかった。

そして2023年9月から始まった裁判。青葉被告は、犯行について京アニの小説コンクールに落選し、「アイデアを盗まれたから」と起訴内容を認める一方、時には理解しがたい考えを法廷で語った。

弁護人:誰が小説を落選させたと思いますか?
青葉被告:ナンバー2です。
弁護人:どうしてナンバー2は落選させたと思いますか?
青葉被告:自分に発言力を持たせたくなかったのでは。

そんな青葉被告に対し、寺脇さんは“そばで見てきた息子”のことを伝えたいと、裁判への参加を決め、直接問いかけてきた。

寺脇(池田)晶子さんの夫:事件前に放火殺人をする対象者に家族、特に、特に子供がいる事は知っていましたか?
青葉被告:そこまで考えなかったのが、自分の考えであると思います。

この質問の後、寺脇さんは青葉被告の身勝手な言動に耐え切れず、法廷から退席した。

寺脇(池田)晶子さんの夫:その場に立つと、感情が抑えきれない。(妻の)名前を出すと、その人との記憶が走馬灯みたいにして、思い出してしまう。(青葉被告の)話している内容が幼稚すぎて、聞いててしんどかった。

それでも、初公判から3カ月がたった2023年12月。寺脇さんは、自分の耳で聞いて2人に報告したいと、再び青葉被告と向き合うことにした。

寺脇(池田)晶子さんの夫:母親を失って寂しい思いをしている息子について、どう思いますか?
青葉被告:自分もひとり親だったので、その辺については、やはり申し訳ない部分がございます。
寺脇(池田)晶子さんの夫:晶子に対して今、どう思いますか?
青葉被告:申し訳ない気持ちです。
寺脇(池田)晶子さんの夫:青葉さん、あなたはこの事件を起こしたことを後悔していますか?
青葉被告:しております。

青葉被告が初めて「謝罪」と「後悔」を口にした瞬間だった。最後に寺脇さんはこう訴えかけた。

寺脇(池田)晶子さんの夫:下される判決は、12歳の息子が聞いて理解できるような内容であってほしいですし、ここに立ちたかったであろう晶子が受け入れられるような判決を、仏前に報告できるよう、強く、強く、本当に強く望んでいます。

■判決を見届ける前に亡くなった遺族も

事件から4年以上がたち、始まった裁判。判決を見届けることなくこの世を去った遺族もいる。 27年間、京都アニメーションで色彩設計の担当として作品に携わってきた、石田奈央美さん(当時49歳)。 奈央美さんは父と母と3人で暮らしていた。

石田奈央美さんの母:年月たってもやっぱり忘れられへんと思います。まさかこんな形で終わると思わへんかった。ほんまショックです。まだ死んだみたいに思わへん。時たま、帰ってくるかなと錯覚起こす時もあります。

石田奈央美さんの父:あいつ(奈央美さん)の位牌の前に立つと、どうしても“うぉー”ってなってくるんですよ。さっきまでそこで一緒にしゃべってたのに、それがパッとおらんようになってしまった。

4年の月日がたち、母は奈央美さんの部屋を片づけることにした。

石田奈央美さんの母:こんなんやで、何にもあらへんで。これ(ぬいぐるみ)はお父さんがお土産で買ってきたんや。これ弟にも買ったけど弟はもうくちゃくちゃなってしまって、あの人(奈央美さん)は何でも物を大事にするから、まださら(新品)で置いてある。

思い出の品もほとんど処分したが、奈央美さんが携わった作品のDVDや、火災の中、スタジオ内から見つかった奈央美さんのノートは捨てずに大切に保管していた。 あまり仕事のことは話さなかったという奈央美さん。事件後、両親は奈央美さんが色彩設計を担当した作品を初めて見た。

石田奈央美さんの母:すごいな。きれいやな。暗いところなんか、すごくきれい。

娘の仕事ぶりを知り、「なぜ事件に巻き込まれたのか知りたい」。そんな思いで1日でも早く裁判が開かれることを願っていた。

石田奈央美さんの母:青葉被告がどう言うかや、公判の時に。(Q.なぜやったのか?)どういう証言をするか、そこが一番問題やと思う。それしかないのちゃう?」

しかし、初公判の1カ月前、父は87歳でこの世を去った。母は父の死を受け、裁判に参加しないことにした。

石田奈央美さんの母:お父さんが生きてる時に『(裁判に)行こうな』って言うてたけど、そりゃあもう行けんようになってしまったから、どうしようもない。息子が(裁判に)行った時に『行かん方がいい』って言ってた。『思い出すから行かん方がいい』って。だからやめたんです。

裁判の内容をニュースで聞くようにしていた母。青葉被告が法廷で初めて謝罪しても、反省の意思は感じられなかったという。

石田奈央美さんの母:口先だけやと思うわ。ほんま自分の心から思ってへんわ、あの人。(Q.青葉被告は罪に向き合っていると思う?)そんなん思わない。そんなん思ってるか。自分の犯した罪、何も思ってへんわ、そんなん。ほんま憎たらしい。(奈央美さんは)それで死なないとあかん寿命やったんやって思うねん。助かった人は寿命があったから助かった。そう思ってる。そう思わなかったら、生きていけないわ。

娘の死と向き合い続けた母にとって、青葉被告の言葉は最後まで納得できるものではなかった。今、ただ望むのは「求刑通りの死刑判決を下してほしい」という思いだ。

石田奈央美さんの母:私は苦しんで、苦しんで死んでほしいって思ってる。ようけ人殺しといてな。なんで自分だけが生き延びなあかんの。おかしいやん。死刑になっても子供は帰ってこないけど、だけどそんだけ殺したら自分の命をあれ(死刑に)しないと、納得できひんよ、私ら。

36人の命を奪った京都アニメーション放火殺人事件。判決は1月25日に言い渡される。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月23日放送)

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