秋の味覚・サンマ。今年は水産関係者から“奇跡のサンマ”という言葉が出るほど、身が大きく、脂乗りが良い魚体が水揚げされている。近年、小ぶりや不漁に直面しているサンマだが、今年は何が違うのか。専門家に聞いた。
無料イベントは大盛況

9月7日、宮城県名取市のゆりあげ港朝市で開かれた「さんま祭り」。今年で40回目の開催となったこのイベントでは、北海道の釧路港で水揚げされた2400匹のサンマが無料で振舞われ、朝早くから多くの人でにぎわった。サンマの大きさは、去年より30グラムほども大きい、150グラムほど。整理券は午前5時半に配布が始まり、1時間ほどで無くなる盛況ぶりだった。
「安く大きい」奇跡のサンマ

9月に入り、宮城県内の漁港でも、水揚げが始まったサンマ。
価格も去年までの高騰と打って変わって、安定する見込みだ。気仙沼市魚市場では約100トンが初水揚げされ、初入札では1キロあたりの平均価格が386円と、去年より800円以上安く取引された。
各地の水産漁業関係者も、今年のサンマの大きさには目を見張る。
第5太喜丸 深堀将吾漁労長:
今年はいいんじゃないですか。去年に比べると脂も乗っている
仙台水産遠海部 本郷淳部長:
私たちから見れば“奇跡のサンマ”と言えるくらい、大きいサイズのサンマが入ったと思う
“奇跡のサンマ”の要因は 専門家に聞く

魚のプロがうなる、“奇跡のサンマ”。
今年、気仙沼や女川で初水揚げされたサンマのサイズは140グラム前後。去年は、シーズンを通じて100グラムほどが中心だったというのだから、その違いは明らか。
今年のサンマは何が違うのか。毎年、太平洋でサンマの調査を行っている専門家・水産研究・教育機構の冨士泰期主任研究員に話を聞いた。
水産研究・教育機構 冨士泰期主任研究員:
要因として、餌の量がここ数年の中では良くて、サンマが大きく成長できたということが可能性として考えられると思います

一般的にサンマは、冬に黒潮が流れる暖かい海域で産卵し、その後、夏にかけてエサのプランクトンを豊富に抱える親潮海域まで北上する。その後、栄養を蓄えて秋に再び産卵のため南下。日本の漁船はその際に日本近海を通る、大きく成長したサンマを漁獲する。
サンマのエサとなるプランクトンが少ない黒潮海域に対して、漁獲前に過ごす親潮海域は栄養が豊富。大きく育つには絶好の環境だ。

一方で、おととし以降は、栄養分が少ない黒潮続流と呼ばれる海流が本州の沿岸部に張り出す現象が発生していて、栄養が豊富な海域が少なくなっていた。

これがようやく去年12月ごろから解消され、さらに、親潮も南の海域に張り出し、日本近海で栄養が豊富な海域が広がったのだという。
水産研究・教育機構 冨士泰期主任研究員:
黒潮と親潮はそれぞれ別のメカニズムで動いているので、黒潮が引っ込めば、親潮が出てくるというわけではないんですが、今年に関して言えば、たまたまその両方が起きていて、サンマの餌が増えやすい状況を作った可能性はあると思います
奇跡は期間限定?

近年は深刻な不漁が続き、それに伴い価格も上昇しているサンマ。美味しいサンマを安く食べたい!というのが、我々庶民の一番の思いだが…
現在、水揚げされている大きいサンマは10月ごろまでしか食べられない可能性が高いという。
水産研究・教育機構 冨士泰期主任研究員:
要因は非常に難しいんですが、今年6月から7月に調査を行って分かったことは、日本に近い海域にいるサンマは比較的大きくて、それより沖側に行くとだんだん小さくなっていくという傾向があったことは分かっています。10月以降、漁期の後半になると、ややサイズが小さくなってくるというのが、これからの見通しです
水産研究・教育機構の調査では今年のサンマの日本近海への来遊量は昨年並みの低水準と予想されている。
もはや「高級魚」になりつつあるサンマ。再び「庶民の魚」に戻ることはあるのだろうか。
仙台放送