2025年1月、郡山駅前で起きた事故。大学受験のために訪れていた大阪府の10代女性が車にはねられ、死亡した。車を運転していたのは池田怜平被告(35)。酒気帯びの状態で車を運転し、時速約70キロで事故現場の交差点に進入。10代の女性をはね、死亡させたなどとされている。
2025年9月、裁判が始まった。

初公判 被告が一部否認

事故から約8カ月…9月8日初公判が開かれた。
「赤信号を殊更無視したわけではありません」
罪状認否で池田被告は、起訴内容を一部否認。弁護側も危険運転致傷罪の成立について争うと主張した。

事故現場で手を合わせる被告
事故現場で手を合わせる被告
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冒頭陳述で検察側は、事故前の防犯カメラやドライブレコーダーの映像から複数個所での信号無視や逆走があったことをなどから、赤信号を故意に無視していたこと指摘。運転の形態が極めて悪質だったと主張した。

裁判の争点

今回、池田被告が問われているのが「危険運転致死傷罪」だ。危険な運転で人を死傷させた場合に科される刑罰で「アルコール・薬物の影響」「制御が困難な高速度」などいくつか適用される要件がある。
今回の裁判ではこのうち、「信号を殊更に無視して運転」、つまり故意に信号を無視していたかが争点となっている。

危険運転致死傷罪 適用される要件
危険運転致死傷罪 適用される要件

検察側は、池田被告が事故当時、複数の交差点で赤信号を無視し、事故現場でも信号が赤であったにも関わらず、横断歩道に進入したとして「赤信号と分かっていながら無視して進行した」つまり故意による危険運転だったと指摘している。

検察の指摘と被告・弁護側の主張
検察の指摘と被告・弁護側の主張

一方、被告側と弁護側は、飲酒の影響や注意力が散漫で赤信号を見落としていたことなどを9日の被告人質問などから主張し、信号無視が故意ではなく過失によるものと反論する考えだ。

遺族が裁判に参加

裁判には、10代女性の遺族も刑の重さなどを述べる被害者参加制度を利用して参加していて、8日は供述調書が読み上げられた。

福島地裁郡山支部
福島地裁郡山支部

「娘を返して欲しいと毎日考えている」
「事故直前に電話したときに、もう少し長く電話していれば事故遭わなかったのではないかと、今でも後悔している」
「娘は事故ではなく、犯人によって殺されたと思っている。許すことはできない」

こう胸の内を明かした。

事故現場に花を手向ける人も

福島県郡山市のJR郡山駅前。9月8日もこの場所には花を手向ける人が訪れる。
井上郁美さんと保孝さん。1999年東名高速道路で起きた事故で、井上さん一家が乗る車は酒酔い運転のトラックに追突され炎上、2人の娘を亡くした。井上さん夫妻がこの場所を訪れたのは、悲惨な事故を無くしたいという思いからだ。

JR郡山駅前の事故現場で手を合わせる井上郁美さんと保孝さん
JR郡山駅前の事故現場で手を合わせる井上郁美さんと保孝さん

井上郁美さんは「本人が悔しいでしょうし、ご家族の悲しみもあるでしょうし、やっぱり繰り返しちゃいけない、絶対なくさないといけないと誓いました」と話す。

被告人質問 故意か?過失か?

9月9日開かれた裁判の被告人質問。裁判の争点は、危険運転致死傷罪が成立するか?つまり、信号無視が故意によるものか、過失によるものかだ。
警察の調べに対し当初、「故意に信号無視した」「急いでいた」供述していたという池田被告。その後「覚えていない」と供述が変遷したことについて、弁護人に指摘されると「曖昧な記憶のまま調べを受けていた」などと述べた。

また「眠気があり目をこすったりしていた」「事故直前にエアコンを下げるために操作をしていて信号を見ていなかった」などと故意に信号を無視したことを否認した。

JR郡山駅前の事故現場
JR郡山駅前の事故現場

一方、検察側は、事故後捜査した車両にエアコンの温度を下げた形跡がないことを指摘。「数百メートルの距離をずっとよそ見をしながら運転していたのか」という検察の質問に対し、池田被告は「それは分かりません」と答えた。

検察 懲役16年を求刑

9月10日開かれた論告・求刑公判。
検察側は、赤信号を確認する時間が十分にあったこと、蛇行することなく道路状況に応じて運転操作をしていたことなどから、信号表示に従う事ができる状況であったと主張。その上で4ヵ所の信号を繰り返し無視し、加速しながら交差点に進入していることから、信号表示に従う意図は無かったとして「故意による信号無視」であったと指摘した。
検察側は2人が死傷した結果の重大性、そして極めて悪質な犯行であることから懲役16年を求刑した。

JR郡山駅前の事故現場
JR郡山駅前の事故現場

一方、弁護側は池田被告が飲酒をし、注意力が散漫になっていたと主張。事故直前はエアコンのダイヤル操作で視線を落としていて、信号を故意に無視したとは言えないとして、危険運転致死傷の罪は成立しないと主張した。
最後に証言台に立った池田被告。「一生かけて償いをさせていただきたく思っております。私が何百回謝っても遺族に被害女性を返すことは出来ません」と述べた。

もう一人の被害者の思い

9月10日の裁判では、事故に巻き込まれたもう一人の被害者、そして亡くなった10代女性の母親の意見陳述も行われた。
この事故では、自転車に乗っていた20代の女性も軽傷を負った。この女性は医療系の学校に通う学生で、「あの時適切な行動とっていれば、10代の女性を救えたのではないかと思い、本当に自分が医療の道を目指していいのかと悩むようになった」と述べ、涙ながらに10代女性の遺族に「申し訳ありませんでした」と述べた。
そして、亡くなった10代女性の母親は証言台に立ち、こう述べた。

被害者意見陳述書 全文掲載

1月2 2日の前日の21日から、私たちの娘は予備校生で大学の特待生の受験のために郡山市を訪れていて、21日は事故現場のすぐ目の前のホテルに泊まりました。
2 2日早朝、娘は飲酒運転でスピードを出したまま4力所も赤信号を無視した池田被告の車に轢かれ、跳ね飛ばされ殺されました。
郡山駅からすぐの横断歩道がある場所、しかも目の前には交番、こんな安全な場所で轢かれるなんて本当に何で何で何故?
警察の方から事故の状況を間いたとき、何度も繰り返しました。今でも毎日考えますがその答えは分かりません。

1月2 2日は、午前10時頃から試験会場で試験を受ける予定でしたが、朝6時頃、娘から電話がありました。昼はコンビニでおにぎりを買って食べるから朝ごはんは外で食べる、買い物に行くついでに駅前の飲食店Aか飲食店Bで朝ごはんを食べてくると言っていました。
あと1分でも2分でも長く電話で話をしていたらと思うと無念でなりません。
後で警察の方から、結局娘は飲食店Aで朝ごはんを食べたと聞きました。

事故直前の様子
事故直前の様子

生まれたとき、娘は2 4 0 0グラム位で少し小さく産まれ心配でしたが、体を震わせて泣く位元気な子でした。
本当にかわいくて、この子の為に生きていこうと強く思いました。
自分の命より大切な命。
1年半後には息子も生まれ小さいながらも息子のお世話を一生懸命してくれました。
息子をとてもかわいがり、息子には母が2人いるような感じで私よりもいつも息子を気にかけていました。
明るい性格でいつもたくさんの友達に囲まれていて、誰とでも分け隔てなく接し、控えめながらも自然と人をまとめる力を持っていました。

浪人してから3 6 5日朝から晩までほぼ毎日予備校に通い真面目に勉強していました。
朝は予備校が開く前から行き、帰りは予備校が閉まるまで勉強し、帰りはいつも夜10時過ぎでした。
現在娘が生きていたら国公立の大学の歯学部、万が一落ちていた場合でも2つの私立大学の歯学部の特待の合格通知が届いているのでどこかの大学の歯学部で楽しくも忙しい大学生活を送っていたと思います。
夢を叶えていたのです。
娘は高校まではずっとダンスをやっていたので、大学生になったらヨットやゴルフなどの今までとは違うスポーツにも挑戦してみたいと言っていました。
部活かサークル、バイト、恋愛、色々したかったことは沢山あったのに本当に娘がかわいそうでなりません。
娘は手先が器用だったので歯科医師に適任だったと思います。
ママのインプラント、じぃじの入れ歯作ってあげるなんていいながら楽しそうに話をしていた姿が忘れられません。
デンタルクリニックでママは受付ね、なんて言っていました。私も歯科助手をしていた経験があるので娘はそう言っていたのだと思います。
息子が歯科技工士になってくれたらみんなで働けるねとも話をしたり、夢と希望で満ちあふれていました。
将来結婚し孫も出来ていたでしょう。

事故現場に手向けられた花
事故現場に手向けられた花

娘が浪人してからは自分の部屋だと寝過ごしてしまうという理由で、娘は私の部屋で一緒に寝ていました。
娘は毎日勉強で疲れ果てていてすぐに寝てしまいました。
娘の寝顔を見ながら、受験が終わるまであと少しの辛抱、がんばれ、と私は陰ながら応援していました。
親子ですから口けんかをすることもありましたが、娘の受験が終わったら落ち着いてもっと色々話をしたいと思っていました。
娘もそう思っていたと思います。
娘と私達家族の未来は全て池田被告に奪われました。

1月2 2日から私達家族の時間は止まったままです。
娘が過ごした部屋などはあの日のまま手をつけられずにいます。
机の上には共通テスト、歯学部の教科書、将来の夢をつづったノートが置かれたまま。
ノートには「自分が小さい頃から歯の矯正を始めていたから、歯医者になって周りにも歯の矯正をしてあげたい」などと将来の夢が書かれていました。
やっと将来の夢が叶う時に、今頃は歯科大学の大学生で楽しく毎日を過ごしていたと思います。
何を見ても何をしても娘が生きていたらと考えてしまいます。
娘が自分より早く死んでしまうなんてあり得ません。
自分が替わってあげたいと思います。

娘が亡くなった後、私達家族の生活も一変しました。
息子は、しばらくの間私と一緒に寝てくれたり、今でも話を聞いてくれたりしてくれますが、事件の後学校でも好奇の目で見られたり辛い思いをしたと思います。
娘の祖父母である私の両親も、体調を崩してしまいなかなか元のような生活ができなくなってしまいました。
それでも裁判の直前まで両親もこの裁判を見屈ける予定でしたが、体調を崩してしまい大阪から郡山までは来ることができませんでした。
私もあの日から泣かない日はありません。
最近やっと仕事にも行けるようにはなったものの、以前のようには仕事をこなすことができず、何とか仕事をしているときは気も紛れますが、仕事から帰ると涙が止まりません。

先月の8月2日は娘の20歳の誕生日で、私の両親たちと一緒に誕生日のお祝をしました。
翌日の8月3日には予備校で娘と仲が良かった4人のお友達が来てくれて、娘が好きだったりんごジュースを持ってきてくれました。
それぞれ他県の大学に進学していて、帰省中に来てくれたようでした。
私はお友達がわざわざ来てくれて、娘と一緒にランチに出ていたときの話なども色々聞けて嬉しかったのですが、何で娘だけいないのだろう、娘も進学して大学生活を楽しんでいたはずなのになと、寂しく感じてしまいました。
だけど、お友達が娘と私のためにわざわざ来てくれて、一緒に充実した時間を過ごしてくれたので、きっと娘も喜んでくれたと思います。

池田被告は酒を飲み、スピードを出したまま4か所信号を無視し娘を轢き殺しました。
池田被告がこのような運転したのは、新しいパソコンが屈いたから早くデータを移すためのUSBを買うために2 4時間営業している店に早朝からわざわざ行き、財布を忘れたから急いで自宅に取りに戻りたいなどという本当に些細などうでもいい理由でした。
無謀で危険な運転を正当化できる事情は一切ありませんでした。
娘を轢き殺したのと同じです。
4か所も信号を無視しているのに、赤信号を見落としたなどと主張しているのが信じられません。
自分がしたことの重大さを自覚しているとは到底思えません。
池田被告がこのようなことを未だに言っていることが悔しくてたまりません。
これからも私達家族の苦しみは続きます。
池田被告は、お酒を飲んでスピードを出したまま4力所も信号無視をするような人から、あなたの大事な人が娘と同じ目に遭わされたらどう思いますか。
許せるのでしようか。
娘は何も悪いことをしていません。
自分の命より大切な娘の命を一瞬で失う遺族の気持ちが分かるのでしようか。
大阪から遠く離れた福島に受験に行き元気に行ってきますと言っていた娘が数日後棺で家に帰ってくる、どんな気持ちか分かるのでしょうか。

池田被告は、ぶつかる直前に娘の姿を見てどう思ったのでしょうか。
娘がどんなに驚き怖かったか。
どんなに痛かったか。
どんなに悲しかったか。
どんなに無念だったか。
どんなに辛かったか。
池田被告からも池田被告の親族からも謝罪の手紙なども一切ありません。
数ヶ月前に私の調書を読んだ後でも、謝罪をしようと思えば出来たはずなのにその後も一切ありませんでした。
法廷でも、自分の都合の良い所は覚えていて都合の悪い所は覚えていないと言うなど池田被告の態度を見ていても反省しているようには見えませんでした。
池田被告は自分が犯した罪に真摯に向き合っていないと強く感じました。

事故当時に供述していた故意に赤信号を無視したとした内容を覆し、事故直前のことは「覚えていない」「記憶がない」を連発して、「信号機を見ていない」事を強調し、その埋由を飲酒の影響のせいにして、自分の犯した罪から逃れる言い訳に終始した態度だったからです。
これは、遺族だから感じたというだけではなくて、おそらく傍聴されていた人の多くも同じく感じられたと思います。
このように言い逃れしていることからも、池田被告が自分で言っていたように身勝手で自分に甘い性格だといえます。
このような池田被告の発言は到底信じられませんし、許されてはいけません。

最後となりますが、娘の命を奪ったこの事件が社会に軽く見られるようなことがあれば、また新たな犠牲者が生まれるかもしれません。
命を奪った責任には社会全体に対する影饗もあるということをどうか裁判官と裁判員の方々には重く受け止めて頂きたいです。
池田被告が選んだ身勝手で無責任な行動によって私達の未来は一瞬で壊されました。この怒りと悔しさと深い悲しみは言葉で言い尽くせません。
娘の命の重み、失われた未来を考えれば軽い刑罰では到底償いきれません。
このような悲劇を2度と繰り返さない為にも社会全体に対する警鐘となる判決を下して頂きたいと思います。
私達は池田被告の処罰を強く望みます。今回の事故は事故ではありません。
私は池田被告に娘を殺されたと思っています。
子供でもお酒を飲んでスピードを出して信号を無視し続けるような危険な運転をしたらどうなるか分かることです。
身勝手な運転で人を死なせた人が今後社会に出て免許を取得し、日常生活を送るなんて許せません。
娘と同じ目に遭わせてほしいと思います。
池田被告には最も重い刑罰を科していただきたいです。

判決は9月17日に言い渡される。

(福島テレビ)

福島テレビ
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