世界文化遺産の「軍艦島」にある、国内最古の鉄筋コンクリート造りのアパートで風化による崩落が続いています。これまでも度々崩落を繰り返してきましたが、今は危険で内部に入れず作業もできない状況だといいます。観光名所になっているこの場所を保存していくことはできるのでしょうか。
軍艦島「30号棟」崩落危機「いつ壊れてもおかしくない」
天井部分に大きな穴があき、朽ちかけた建物。長崎市にある世界遺産「軍艦島」にある国内最古と言われる鉄筋コンクリート造りのアパート「30号棟」。今、崩落の危機を迎えているといいます。
この記事の画像(8枚)「保とうということ自体が難しいんじゃないか」と話すのは、軍艦島の調査を続けている東京大学大学院の野口貴文教授。2021年11月の時点で、「30号棟」の余命はあと半年だと指摘していましたが、現在の状況は…
東京大学大学院工学系研究科 野口貴文 教授:
地震がきたらもう一気に全体が崩落になってしまう可能性も高いと思います。震度2ぐらいでもたぶん壊れちゃう。そういう意味で言うと、いつ壊れてもおかしくないという状態になっています。
明治から昭和にかけて炭鉱の島として栄え、全国に先駆け鉄筋コンクリートの高層アパートなどが建てられた軍艦島。2015年に世界文化遺産に登録され、社宅や小中学校として使われていた30棟が今も残っています。しかし、劣化が進み、特に最も古い「30号棟」はいつ倒壊してもおかしくない状態だというのです。
大雨で崩落進み…ツアー中にも
2014年に撮影された「30号棟」の姿を見ると、全体的に、骨組みがしっかり残っています。この6年後、2020年3月26日。建物の表面が広く剥がれ落ちているのがわかります。
さらにこのわずか7日後、4月2日の姿を見ると、天井部分や壁の一部が崩れ落ちていました。長崎市によると、大雨が降った影響で一気に崩落が進んだといいます。台風の猛威にもさらされる軍艦島。
時間を追うごとに崩れゆく中で、2022年10月29日、天井部分がさらに大きく崩落。ちょうど観光客らが上陸ツアーを行っている目の前で崩れたといいます。
「軍艦らしさを失う」保全措置も困難
世界遺産・軍艦島の中でも刻一刻と崩落への道を進む「30号棟」。元・島民の方に話を聞くと…
元島民 NPO法人軍艦島を世界遺産にする会 坂本道徳理事長:
もうこのままでいいですよ。このまま、ゆっくりゆっくり壊れていく方がいいですよ。やっぱりその時が来たんだなって思う。島民にとってはね悲しいことだけど。
「時の流れに任せる」と話す元島民の坂本さん。建物の修復については…
元島民 NPO法人軍艦島を世界遺産にする会 坂本道徳理事長:
修復したら結局本物じゃなくなるでしょう。修復でこの島自体が全部プラモデルみたいにしてしまえばいいわけだから、軍艦島というふうにね。そうじゃないところがあるからみんな来るわけで。
また、調査を続けてきた野口教授は…
東京大学大学院工学系研究科 野口貴文 教授:
崩壊させてしまうと島のシルエットも変わってしまうんですよね。軍艦島が軍艦島じゃなくなってしまうという。結局すべての建物が今の状態で残っていると、軍艦島として一番魅力のある、シルエット上も軍艦らしさが残っているというふうに思います。
30号棟が崩壊してしまうと、軍艦島らしさを失ってしまうといいますが、修復するのも、今のまま残すのもそれぞれ難しさがあるといいます。
長崎市は、軍艦島の世界遺産登録決定時に、島全体を守るために優先順位をつけて整備を行ってきました。30号棟は、劣化度が最も高い「大破」と診断され、作業員が近づくことさえできない状況にあること、現時点で技術的に劣化の進行を抑えることは不可能と判断されるため、保全措置は大変困難であると考えています。
(めざまし8 11月18日放送)