福岡で“新しい酒造り”が、始まっている。研究者から職人へと“進化”した男性が携わる酒造り。コメの個性をそのまま生かす『どぶろく』造りを取材した。

微生物の研究員だった男性が…

福岡・糸島市の住宅街に佇む『Cultiva 糸島醸造所』。大きな木桶のなかで漂っている白く濁った液体が『どぶろく』だ。

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どぶろくとは、コメ・米麹・水を原料に発酵させた、搾りや濾過の工程を一切行わない、白く濁ったお酒のこと。これをしっかり濾過すると清酒、日本酒になる。

「大学時代は微生物、酵母の研究をしていて、そこで発酵学に興味を持って…」と話すのは、糸島醸造所を2025年の夏に立ち上げた副田大介さん。

「大学時代は微生物、酵母の研究をしていた」と話す副田大介さん
「大学時代は微生物、酵母の研究をしていた」と話す副田大介さん

もともと焼酎メーカーで研究者として関わっていた。微生物の研究経験を持つ男性が何故、どぶろくの製造に挑戦し始めたのか。

「精米具合といって、コメを磨く工程があるんですけど、それは日本酒にとって雑味をなくす大事な工程ではあるんですが、同時にコメの個性も失っているのではないかと研究者眼線で思ってしまって…」と話す副田さん。酒の原料を研究するなかで、疑問を抱くようになったという。

コメの個性を生かしたい。その答えとして選んだのが、どぶろく作りだったのだ。

白濁した液体から放たれる芳醇な香り

どぶろくに特化した酒造り。副田さんが、糸島を拠点に選んだ理由も原料へのこだわりがあったからだ。実は、糸島は、全国的にも有名な代表的酒米の山田錦の一大産地。その地だからこそ、どぶろく作りにも意味があると副田さんは考える。

糸島産の山田錦を使い、精米歩合90%という“削り過ぎない”状態でどぶろくを仕込み、さらに自然の力で酵母を育てる伝統的な製法『生酛(きもと)造り』を取り入れた。

生酛造りとは「蒸した米を一晩、冷蔵庫で冷やしてゆっくりコメを溶かし、少し冷ませて固くなったコメを使う」製法だという。

これを約1カ月間、発酵させる。そのあとコメと麹を追加し、さらに1カ月発酵させるとどぶろくが完成する。白濁した液体からは、芳醇な香りが振りまかれる。

「これぐらい山田錦の特徴が出ていれば」と差し出された副田さんのこだわりが詰まったどぶろく。一口、試飲した記者によると「コメの甘みがしっかり感じられて、グビグビ飲めそう」な印象だったという。

副田さんはさらに、コメの個性をより分かりやすく伝えるために酒米の山田錦ではなく、食用米のヒノヒカリを使った商品も開発した。

食用米ヒノヒカリで仕込んだどぶろくを試飲してみると「甘みとトロみが際立っていて、酸味も山田錦に比べてヒノヒカリの方が、しっかり感じられるような気がします」(記者談)。

お酒をコメの品種で選ぶようになれば…

コメの品種や育て方、土地による味わいの違いをどぶろくで表現したいと話す副田さん。

「同じ山田錦でも栽培方法によってタンパク量が異なってくる。それが土地ごとの山田錦の違いとしても表現できるかもしれない」。

これまで日本酒造りでは、どのように作るかという製法の部分に重きが置かれていたが、副田さんは、素材であるコメに注目した酒造りを行っている。そのため、素材であるコメの品種を変える一方で製造プロセスは統一しているのだ。

研究者の視点から生まれたコメの酒造り。日本のお酒に新たな可能性を見い出す挑戦は始まったばかりだ。

「お酒をコメの品種で選ぶようになれば、飲み手にとっての楽しさが広がるだけでなく、農家にとっては品種を生かしたブランド米を育てるきっかけになる。そこの土地で作られたコメをどぶろくに仕上げて、その土地の持っているストーリーをここで表現できればいいなと思っています」

日本のお酒の可能性がどんどん広がっていきそうだ。

(テレビ西日本)

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