昭和の名残を残しながら今も続く喫茶店。そこには、それぞれのストーリーがある。魅力がたっぷり詰まった福井のレトロな喫茶店を訪ね、店主たちの思いに迫った。
モカにこだわったコーヒー、グリルサンドが自慢
まず訪ねたのは、福井市にある福井赤十字病院の近く、シックな茶色のタイルで覆われた喫茶店「珈琲ハウス 珈琲貴族」。
昭和54年のオープン当時から、中世ヨーロッパをイメージしたという店内は変わっていない。カウンター奥のタイルが、格調高い雰囲気を醸し出している。
そのタイル製の壁画は、理想を追い求めた騎士「ドン・キホーテ」だ。
50年近くこの店を守り続ける、オーナーの細川洋子さん。
「少しモカにこだわって、うちらしいブレンドじゃないとダメだなって。ここのコーヒーがおいしいと言ってくださるお客さんが残ってくださるかなと思って」
こだわりのコーヒー以外にも、バナナジュースとグリルサンドが自慢。紅茶のカップは、100年以上続くデザインのニッコー「SANSUI」だ。
かつては客でごった返した店内
開店当時は店の近くに県庁建て替えのための仮庁舎があり、多くの客でごった返すほどにぎわった。「すごかったですよ。県職員も寄ってくださり、朝から晩までいっぱいでした」(坪川さん)
当時はあちらこちらに喫茶店があり「ビルができたら1階には喫茶店が入るという時代で、次から次へと」客が訪れ、芸能人も足を運んだ。
昭和にブームが起こり、急増した喫茶店。しかし、全国の喫茶店の数は1981年(昭和56)年の15万5000軒をピークに減少の一途をたどっている。県内の喫茶店の数は最新のデータで約550軒と、10年でほどで100軒以上減少している。
そんな中でも地道に経営を続けた細川さん。「珈琲貴族」には今も、静かにコーヒーを味わいたい人や細川さんに話を聞いてもらいたい人が足を運ぶ。
ここには、穏やかでどこか優雅な時間が流れている。
「みんなお客さんと楽しく話していて…そういう風に笑い合えるお客さんに長く来ていただこうとなると、自分も健康でいないとね」と細川さんは優しく微笑んだ。
母の味を受け継ぎ…3代目の覚悟
続いて訪れたのは、昭和56年に開店した赤い屋根が印象的な福井市板垣の「喫茶ちんちろりん」。店名は、虫の鳴き声が由来だ。
真っ赤なビロードに包まれた店内は、訪れた人を一気に昭和の世界に誘う。天井には傘を広げたような装飾があり、照明もレトロな雰囲気。
店を切り盛りするのは、3代目店主の片岡沙弥さん、26歳。2代目として長年、店を支えた母の弥生さんが3年前に亡くなり、沙弥さんが跡を継いだ。
姉弟がいて、真ん中で育った沙弥さん。幼いころから料理が好きで、よく母の弥生さんのお手伝いをしていたという。
「ずっと続いてきた店で、小さい頃から私を知っているお客さんもいるので、何とか途切れさせたくない」と店を継ぐことを思い立った。
常連客だけでなく若者の心もつかむメニュー
店の自慢は、母から受け継いだ「大人のお子様ランチ」。たっぷりのケチャップが輝く大きなオムライスに唐揚げにエビフライ。まさに大人のボリュームだ。
「食べて少なかったとか、満足いかないってのは嫌なので『おいしかった、満足した』と言ってもらえるように頑張っている」と沙弥さん。
昔ながらのプリンは、もちろん“硬め”。レトロなメロンフロートも若者に大人気だ。
ほっと一息つける“街の喫茶店”
今は、食後にほっと一息つけるような沙弥さんならではのコーヒーの味わいを研究中だという。「この雰囲気を大切にしつつ、この地域の“街の喫茶店”みたいな感じで、皆さんが気軽に来られるような店をできるといいなと思う」
昭和の風情漂う喫茶店の魅力は、若き店主の心にも、しっかりと受け継がれている。
古びた扉を開けると、出迎えるのは昭和の時代から染みついたコーヒーの香り。昭和から続く喫茶店には、それぞれのストーリーと長く愛される癒やしの空間があった。
