道路脇の側溝などに使う鉄製のフタ“グレーチング”をはじめ、25年6月から新潟県上越市で金属類の窃盗被害が相次いだ。一方、新発田市や五泉市などのダムでは避雷針が盗まれる被害が。なぜ、県内で金属類が立て続けに狙われたのか。その現場を取材した。
住宅街にある小学生の通学路で盗まれたグレーチング
「何でこんなところを狙ったのか、怒りを持っている」
こう怒りの声をあげるのは、上越市上昭和町の町内会長を務める髙宮宏一さんだ。
近くにあるショッピングセンターの駐車場の出入り口付近には、カラーコーンがずらりと並んでいた。すべてグレーチングが盗まれた跡である。
上越市によると、上昭和町地区では6月17日から18日までに複数箇所で合わせて17枚のグレーチングが盗まれる被害が発生。被害額は約21万円に上っている。
髙宮会長は「今までこのような事案は上昭和町ではなかったので、私も安心していたが、グレーチングが盗まれたと聞いてびっくりした」と話す。
人や車が安全に通行できるように道路の排水溝や側溝などに設置されるグレーチング。
被害現場にはコーンが置かれ、安全対策が取られていたが、小学校の通学路になっている箇所もあり、髙宮会長は児童のケガにつながりかねないと懸念を示す。
「大変子どもたちにとっては危険な場所、余計登下校で通るときに側溝に落ちる可能性があるのではないかと心配している」
さらに、被害は別の場所でも発生していて、上昭和町地区から5kmほど離れた北陸道・上越インターチェンジ付近でもグレーチング6枚が盗まれている。
グレーチングを盗んだ疑いで無職の男を逮捕
上越市富岡の上越インターチェンジ付近の市道上に設置されたグレーチング6枚(時価合計約6万6000円相当)が盗まれた事件をめぐっては、25年10月に上越市西城町に住む無職の男(64)が逮捕された。
さらに、警察が余罪捜査を行ったところ、男は25年5月27日から7月19日までの間、上越市内の他の地域でも、側溝にあるグレーチングや農業用水路に設置された鉄製のフタなどを盗んでいたことが発覚。
男は、グレーチングなどの鉄合わせて120点(合計約87万7500円相当)を盗んでいて、全て上越市内の金属買取業者に売っていた。
警察の調べに対し、「全て私がやったことです」と犯行を認めている男。動機については「生活費や遊ぶ金ほしさにやった」などと話しているという。
男を逮捕も…終わらない窃盗事件
男の逮捕により一安心かと思われた一連の窃盗事件。ただ、警察は上昭和町地区の窃盗については、男の犯行ではなく、別の犯人によるものとみている。
さらに、男の逮捕後の25年9月には、上越市春日野の住宅街にある2つの公園でステンレス製の車止めが盗まれる被害が発生。
桜の名所としても知られる高田城址公園では、25年8月に公園内に設置された全26基のブロンズ像のうち、女性の顔とカラスをモチーフにした2基が台座部分を残してなくなった。
実際に現場を訪れた公園を管理する上越市都市整備課の担当者は「なんでこんなことをするのだろうという気持ちが先に来た。警察に協力させていただいて、手元に戻るような形になることを願っている」と嘆いていた。
広がる盗難被害 上越市から150km離れた新発田市でも盗難被害が…
25年9月、新発田市にある内の倉ダムの島潟警報局で盗まれたのは、約10mの高さにある長さ約3mの避雷針と、そこにつながる約12mの避雷導線だ。
河川の警報局は、ダムの放流によって水が急激に上昇する際に、サイレンで警報を出して河川から退避してもらう機能があり、周辺住民にとっては重要な施設である。
県の調査では、このほかにもダムや農業用水などを取水するための堰・頭首工で警報強や水位局の避雷針や避雷導線などが、村上市・胎内市・新発田市など県内18カ所で被害が確認されている。
県は警察とともにパトロールを強化しているほか、避雷施設で、人が上れないように足場を撤去するなど再発防止対策を進めているが、すべての盗難箇所の復旧には、700万円以上の費用がかかる見込みだ。
なぜ盗難被害は相次ぐのか?背景には金属価格の高騰
なぜ、県内で金属類を狙った盗難被害が相次いでいるのか…背景には金属価格の高騰があるとみらている。
日本鉄リサイクル工業会によると、鉄スクラップ1tあたりの価格は5年前に比べ、約2倍高くなっている。
また、銅についてもJX金属が発表している国内取引価格の基準は、25年11月時点で1tあたり約170万円と、5年前の同じ時期に比べ100万円近く高くなっている。
鉄や銅の需要が高まっている理由として、電気自動車の普及などが挙げられるが、こうした状況に目を付け、盗んだグレーチングや銅線などを金属買取業者に売りに来るケースも増えている。
新潟市北区で金属の買取などを行っている北辰通商では、犯罪防止対策として個人との取引をすべて禁止とし、金属の買取は会社のみとしている。
ただ、正規で金属を売りたい人も一定数いて、そういった方々も断らなければいけない状況に「心苦しい」と船山大介代表は話す。
「今は正規に売りたいという個人客も断らないといけない状況なので、心苦しい。個人で大量の銅線やグレーチングを売りに来ても、一目で盗難品だとプロであればすぐ見抜けるので、公共のものを盗む行為はやめていただきたい」
警察は、現在も被害があった市などと連携しながら、盗難事件の捜査を続けている。
公共の金属類を盗むことで思わぬ事故につながる場合も考えられる。
生活費なのか、遊ぶ金ほしさなのか。犯人の目的はわからないが、犯罪行為は絶対にやめてほしい。
