球界の耳目を集める発表だった。12月18日、球界のレジェンド・桑田真澄氏が、NPBイースタンリーグに所属するオイシックス新潟アルビレックスBCのチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)に就任することが発表された。東京ドームホテルで行われた会見で、桑田氏から発せられた言葉はオイシックス新潟アルビレックスBCのみならず、日本球界の発展を期待させるものだった。

CBOの役割とオイシックス新潟アルビレックスBCが掲げる目標

オイシックス新潟アルビレックスBCの池田拓史社長は会見の冒頭で新たにCBOに就任する桑田氏への期待について話した。

オイシックス新潟アルビレックスBC 池田拓史 社長
オイシックス新潟アルビレックスBC 池田拓史 社長
この記事の画像(26枚)

「球団をより多くの方に愛される強いチームにしていくということで、私どものオイシックス新潟アルビレックスBCのオリジナルの、ブランドの構築というか、そういった球団を、さらに磨いていくために、多面的な形で桑田さんのお持ちのご経験、知見を球団に注入していただければというふうに思っている」

聞き慣れないチーフ・ベースボール・オフィサーという言葉。一体どんな役割なのか…チームのサイトではこう説明している。

「CBOとして桑田氏には主に球団の基盤強化・発展、およびチーム編成の強化を担っていただきます。具体的には、監督・コーチ・チームスタッフへの助言・指導、選手育成のための育成メソッド考案への助言に加え、練習環境の構築・整備、選手の評価など多岐にわたる助言を行っていただきます」(引用:オイシックス新潟アルビレックスBC公式サイト)

桑田真澄 氏
桑田真澄 氏

日本ハムの投手として活躍した武田勝さんが監督を務めるオイシックス。25年シーズンの成績は47勝73敗1分けで、順位は8球団中7位。前年の最下位から順位を1つ上げ、イースタンリーグ参入2年目のシーズンを終えた。

観客数についても、「平均値では前年の比較で30%以上のアップと、多くの人にホームゲームを盛り上げていただいた」と池田社長は話す。

また、2025年は球団史上最多となるドラフト指名を3人(本指名1人、育成指名2人)輩出した。ただ、チームの目標はさらに高いところへと置かれている。

池田社長は、26年シーズンの目標について「球団として勝率5割以上でAクラス、そして入場者数が25年は平均で1673人だったが、26年は3000人、そして毎年この球団から5人の選手がNPBはもちろん、海外のリーグも含めてステップアップをしていけるような輩出実績を積み重ねていきたいと思う」と話した。

これらの目標達成に向け、桑田氏の力を借りたい考えだ。

球界レジェンドがオイシックスのオファーを受けた理由

25年シーズンを読売巨人軍の2軍監督として、チームをイースタンリーグ優勝に導いた桑田氏は25年10月にチームを退団。

26年は「充電期間にするつもりだった」と明かすが、オイシックスからのオファーを引き受けた理由についてこう語った。

「ジャイアンツを退団して、26年はちょっと充電期間というか、ゆっくりしようと思っていた。メジャーリーグ視察に行って、情報をアップデートしたり、ワインづくりとかお米づくりとか、そういったことをしながら野球界全体を見て充電しようかなという思いでいたが、高島会長はじめ池田社長、そしてフロントの皆さんから熱心に誘っていただき、彼らの熱い思いに心打たれ、新たな挑戦をしてみようというところに行き着いた」

オイシックスの熱意とビジョンに共感したという桑田氏。記者から特に共感した部分を問われると「もう全て。そして、しっかりとビジョンを持たれているというところが、特に僕は心をひかれたというか、そのビジョン達成のために力になりたいなと思った。ここ(資料)にビジョンも書かれているので、すごいな、しっかりと目標を立ててされているんだなと思って。きちっとした数字も入っているので、力になりたいなと思った」と話した。

何よりも「日本球界の発展につながる」と感じたことが桑田氏を決断させたという。

「サイエンス・バランス・リスペクト」会見で語った桑田流

会見では次々と桑田氏らしい話が繰り広げられた。

記者から選手の育成・指導方針を問われると「指導のスタイルも、僕は現役時代から変わらず一貫しているので、サイエンス・バランス・リスペクト。『こうやれ』という指導はしないし、バランス感覚は持ちながら。今、こう練習したら上手くなるという野球界の何なんですかね、お守りか何か知らないが、そういうものがある。でも、このサイエンスからすると練習、練習、練習だと上手くならない。やっぱり練習して、栄養を取って睡眠、休養。この睡眠、寝ている時に筋肉は再生し、強くなり、そして練習した技術は脳や神経が覚えていくというのがもう分かっている時代なので、翌日もやっぱり元気で集中していい練習をしてもらいたい。そういった意味でサイエンス・バランス・リスペクトという言葉を、3つ掲げているが、現場では、そうやって指導していきたいなと思っている」と熱く語った。

桑田氏は、2010年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を修了し、修士号を取得。

2013年から2年間、東京大学で特別コーチに就任し、2014年には東京大学大学院総合文化研究科に在籍、2016年3月からは特任研究員として研究活動を継続している。

科学的知見に基づいた理にかなった指導をしていく考えを改めて示した。

巨人での指導者時代と同様に、勝利至上主義ではなく、人材育成主義でやっていく意思も口にした。

また、選手や組織育成では“プロフェッショナル”の育成を重視する考えを示した。

「高い技術を披露すること、ファンやメディア、スポンサーへの対応とか全てできてプロフェッショナルだと僕は思う。ただ、野球界の人は大体が高校野球を引きずったまま、プロ野球選手を過ごし、指導者で過ごしていく人が多い。いつも巨人の選手にも『部活じゃないぞ』と言っていた。我々はプロだぞと。プロフェッショナルという言葉も大切にしながら、チームづくり、球団づくり、文化づくりをやっていきたいなと思っている」

「なかなか苦戦した」対戦相手として見たオイシックスというチーム

巨人の2軍監督としてオイシックスと17試合を戦った桑田氏。戦績はオイシックスが4勝、巨人が13勝だったが、オイシックスの印象を問われると、「なかなか苦戦した。武田監督の下、選手たちが粘り強く戦って、みんなでオイシックスの粘りってすごいよなとか、そういう反省会をしたことを思い出した。新潟は長男がお世話になっていて、その間に試合もよく見に行ったし、いい球団だなと」と答えた。

オイシックス新潟アルビレックスBC 武田勝 監督
オイシックス新潟アルビレックスBC 武田勝 監督

オイシックスのホームグラウンドのハードオフエコスタジアム新潟(新潟市中央区)については、「個人的にはすごく好きな球場。引退してからも色んな球場に指導者として行くが、どうしてもマウンドに上がって、投げてみたくなる。マウンドからの景色というのは独特で、自分の持っている基準とか視点があるので、エコスタのマウンドにも何度かシートをちょっとはがして登ったりとかさせてもらいながら。バックネットまでの距離はこれくらいかとか、思ったよりも風があるなとか、そんなことを感じながら。また1軍も試合をするので、2軍の選手としたら素晴らしい球場で野球をさせてもらってありがたいなと思っていた」と話した。

2015年には長男の真樹さんが当時の新潟アルビレックスBCに所属していた。また、桑田さん自身も2度の始球式経験があるなどといった新潟との縁についても話が及んだ。

「この若い球団で僕自身が新しい挑戦をすることで日本野球界の発展につながっていくのでは」

プロの世界の第一線で戦ってきた桑田氏。勝負師として現状も冷静に分析している。

「僕ひとりが来たから急に強くなるというわけにはいかない。やはり勝負の世界で長年生きてきたので、厳しさというのもよく分かっているし、戦力的に見ても非常に苦しいと思う。しかし、若い球団だからこそ、チームの文化をしっかりつくって、そして育成をシステムを構築し、選手の強化を短期中期でやって、長期的には勝てるチームに、育てていきたいなと思っている」

プロの世界、収益などビジネス面についても伴走していく姿勢だ。

「フロントもそう。収益拡大していかなければいけないと思うし、ブランド力の構築と、認知度向上、これも球団として上を目指さなきゃいけないことだと思うので、フロントの方とも、しっかりと面談をしながら、また時には池田社長、高島会長とも話し合いをして、前に進んでいきたいと思っている」

そして、桑田さんは日本球界の現状についても言及。

「日本の野球界は非常に危機的状況。中学生の競技人口を見ると、10年前から今で6割減。だから僕は何十年も前から言っているが、野球は将来はマイナースポーツに落ちる可能性が非常に大きいと思っている」

日本の野球人口(競技統括団体に登録している選手数)は、2007年から2023年にかけて約161万人から約93万人へと約67万人減少。(日本野球協議会普及・振興委員会の野球普及振興活動状況調査2024報告書より)特に、小学生の野球離れが危惧されている。

CBOとして目指すのは、オイシックスの強化だけに留まっていない。

「オイシックスが強くなって、ファンに愛されるチームになって、そして良き文化をつくって将来的に新潟県の子どもたちにも野球を普及しながら、それを全国に広げていってほしいなという未来図を持っている。僕は可能性のあるチームだと思っている。新しいスタッフ、仲間と僕自身も学びながらやっていきたい」

新潟のファンへのメッセージ

新潟のファンへのメッセージを求められると桑田氏は「新潟の皆さんにまた見に行きたいな、応援しにいきたいなと思ってもらえるようなチームに育てていきたいと思うし、僕自身も皆様から色んなアドバイスをいただき、色んなことを学んでチームに貢献していきたいと思う」と語った。

26年シーズンに向けて、元広島・松山竜平選手の選手兼打撃コーチ就任をはじめ、元日本ハムの石川直也投手、元巨人のアダム・ウォーカー選手、元阪神の渡邉諒選手、元楽天の宮森智志投手、元オリックスの井口和朋投手の6人の元NPB選手が加わることになったオイシックス。

球界の酸いも甘いも知る名士とともに、過去最高のシーズンを目指す。

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(26枚)
NST新潟総合テレビ
NST新潟総合テレビ

新潟の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。