2022年に安倍晋三元総理を銃撃し殺害した罪などに問われた山上徹也被告(45)の裁判員裁判は事件から3年以上たった2025年10月に始まり、12月18日に結審した。
裁判で山上被告は起訴内容について「全て事実です。間違いありません」と認め、弁護側が一部の罪の成立について争っている。
山上被告に「どのような重さの刑を科すべきか」も争点で、弁護側は、山上被告の母親が進行していた旧統一教会による「宗教被害」が事件につながったと主張。
「生い立ちはそれ自体を考慮すべきではない」として無期懲役を求刑した検察側に対し、「最も重くとも懲役20年までにとどめるべき」と主張した。
そしてその不遇な生い立ちは、法廷で本人やその家族の口から語られていた。
資格母親が語った信仰「食事は3日分作って冷蔵庫に入れ」子供置いて韓国に
母親は長男(=山上被告の兄)が病気に苦しんでいた1991年7月、自宅に旧統一教会の女性信者が訪ねてきたことがきっかけで入信し、1年足らずの間に自殺した夫(山上被告の父)の保険金を元手に5000万円を献金したそうだ。
そして「献金することで教団側にちやほやされ、有頂天になった」(証人尋問の内容より)母親は、信仰にのめりこんでいき、当時14歳の山上被告、1歳上の兄、まだ10歳だった妹を置いて、1人で教団行事に参加するため、韓国に渡ったこともあると話した。
<証人尋問より>
(Q.世話は誰が?)
山上被告の母親:父がしてくれていました。
(Q.前もって言ったのか?)
山上被告の母親:そう思います。食事は3日分作って冷蔵庫に入れて行きました。
そして母親は自身を「加害者」と表現したこともあった。
山上被告の母:私が加害者だと思っています。献金を黙ってしていたし、子供たちを置いてほったらかしでやってきたのも事実。教会に尽くしたら(家が)よくなると思ったので。それを利用したのは教会だと思う。
■母親の信仰に反対する祖父に家から追い出され「徹也と児童養護施設にでも行けば」と妹
続いて証人尋問で法廷に立った山上被告の妹は生い立ち自体を「話すと涙が出てきて口に出すのがつらく、なるべく忘れようと生きてきました」と話し、旧統一教会の信仰にのめりこんでいく母親の姿とそれによる苦しい生活を語った。
山上被告の妹:なぜ先祖ばかり大切にするのか、生きている人を大事にしてほしいと言いました。母は、いかに先祖が悪いことをして、財産を持っているのが悪いことかをいっていました。
(Q.それを見てどういう気持ちになりましたか?)
山上被告の妹:受け入れることはできなかった。おかしなことをしているというか、気持ち悪い。
また母親と対立していた祖父に「出ていけ」と家から追い出されたこともあったという。その時のことを振り返り次のように語った。
山上被告の妹:(祖父から)『出ていけ』と追い出され、家の隣の駐車場に立っていたことがあった。部活帰りの徹也が帰ってきて家に入ろうとしたとき、おじいさんは『出ていけ』と徹也にも言い、徹也は出ていってしまった。私と徹也の2人だけでも、あのとき児童養護施設にでも行けばよかったと後悔している」
■語られた“困窮”「金の無心でしがみつく母を50メートルぐらい引きずって…」
母親の多額の献金によって、経済的に苦しんだという。
山上被告の妹:破産前、クレジットカード会社から督促状が届いたり、電話がかかってきたり。 私の、銀行口座の残高が、ゼロになったりしていました。私のお年玉をためたものでした。
山上被告の妹:母が連絡するのは私が出て行ってから金の無心のみ。私の腕にしがみついて私が50メートルぐらい母を引きずって歩いて行って恥ずかしくてみじめでつらかったです。
山上被告の妹:私に関心ないくせに、その時だけは『払え』と鬼の形相。その時だけ母として偉そうに言うのに腹が立ちます。その時私の母ではないと思った。母のふりをして私に言ってきている。(泣きながら)私はつきはなせなかった。
■母親の信仰とそれに反対していた兄の自殺きっかけに…
そしてこうした母親の信仰とそれに反対していた兄の自殺が、山上被告が旧統一教会への恨みを募らせ、幹部の襲撃を決意るきっかけにもなっていったという。
山上被告の兄は母親の信仰に反対していて、暴力を振るっていたこともあったという。その兄が自殺した際、家を出ていた山上被告は「自分の責任」と受け止めたというが、母親はそうではなかったようだ。
兄の通夜では旧統一教会式の儀式が行われ、山上被告は「やめてくれ」と訴えたものの、そのまま続けられたうえ、その後に山上被告が母親と兄の死について話したところ、次のようなことが語られたという。
<被告人質問より>
山上被告:母と話して統一教会と兄のことを突っ込んで話した。兄が亡くなったあと、母は『統一教会に献金をしたことで兄も天国で幸せに暮らすことになった』と。
山上被告:それについて、母が献金をしていたおかげで、『兄の死についてはこれでいいんだ』と思っていると感じた。
山上被告:自分は兄が死んだことに悔やんで、責任を感じていた。母は信仰で乗り越えた。自分とは全く違う方向にいる。
この会話の後、山上被告は韓鶴子総裁やその家族など、旧統一教会の幹部の襲撃を考えるようになり、それがなかなか実現できない中で、安倍元総理を襲撃するという事件に発展したという。
これらが法廷で語られたことだった。
こうした裁判の内容はは裁判員たちにどのように受け止められただろうか。後編では検察側の主張についてみていきたい。
