議員宿舎からまもなく引っ越し 課題は「情報収集」

現在は東京・赤坂の衆議院議員宿舎で暮らす高市早苗首相。年末にはいよいよ首相官邸のすぐ横に位置する首相公邸へ引っ越す予定だ。

首相官邸(右)の横に位置する首相公邸(左)
首相官邸(右)の横に位置する首相公邸(左)
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 高市首相はこれまで、海外出張や国会日程が続いているため時間が取れない状況だとして、「一連の日程が落ち着いたら、なんとか引っ越ししたい」と話していた。

 官邸は海外の首脳や要人などとの面会や会議を行う「職場」であるのに対して、公邸は首相の「住まい」にあたる私的なスペース。官邸と同じ敷地内にあることから、警備・危機管理対応上、首相は引っ越すことが望ましいとされてきた。

「北海道・三陸沖後発地震注意情報」発表で「地震への備えの再確認」を呼びかけた(12月9日未明)
「北海道・三陸沖後発地震注意情報」発表で「地震への備えの再確認」を呼びかけた(12月9日未明)

 首相周辺は、12月8日午後11時過ぎに青森県で震度6強が観測された地震の際、高市首相が深夜に対応にあたったことを引き合いに、「あの時、高市首相の疲れはピークだった。緊急対応の際には、身支度など外に出るために時間もかかる。官邸に近い公邸に早く引っ越した方がいい」と話す。

 首相経験者である立憲民主党の野田代表も12月10日、「自然災害はいつ起こるかわからない。政府の役割、特に国のトップの役割は危機管理だ」と述べ、「歩いて0分の公邸に早くお住まいになるべきだ」と提案。「宿舎の警護も手厚くなっているというが、限界がある。ご自身とご家族の警護という意味でも早く公邸に入居されるのが望ましい」と指摘した。

立憲・野田代表も高市首相に公邸への早い引っ越しを提案(12月10日)
立憲・野田代表も高市首相に公邸への早い引っ越しを提案(12月10日)

 一方、デメリットはあるのか。高市首相は現在、議員宿舎内で頻繁に側近やキーパーソンの国会議員と会議や意見交換を行う独自の「情報収集」のスタイルを築いている。

議員宿舎内での動きは表からは見えないため、秘密裏に面会が可能だ。公邸に入れば、気軽な出入りができず、こうした面会が制限されることになる。

高市首相は、歴代首相のような夜会合が極端に少ない。10月の首相就任以降に行われた会合は、12月5日に行われた政権幹部らとの会合のほか、12月23日に行われた自民党総裁選の選挙対策本部のメンバーとの会合、12月26日に行われた自身が顧問を務める自民党保守系議員グループとの会合、総裁選の陣営幹部との会合の4件だ。

首相経験者からは「会合を積極的に開いて、自分から情報を取りに行かないといけない」と懸念も上がっている。引っ越し後は独自のスタイルが封印されることとなり、「情報収集」がスムーズに行えるかが課題となる。

秋の叙勲で高市首相の夫・拓氏が旭日大綬章を受章(11月11日・皇居)
秋の叙勲で高市首相の夫・拓氏が旭日大綬章を受章(11月11日・皇居)

 また、高市首相は多忙な職務の傍ら、議員宿舎で家事に加えて、元衆院議員の夫・拓氏の介護をしている。首相周辺によると、公邸はバリアフリーに対応していることから、拓氏とともに夫婦二人で入居する予定だ。しかし、厳しい警備が家事や介護の面で適しているのかは不透明な上、住み慣れた環境を変えることへの懸念もある。

岸田政権では、在任中の岸田文雄首相を支えるため息子の翔太郎氏が同居して生活必需品や弁当の買い出しを行い、岸田氏は野菜不足を補うため青汁も飲んでいたという。首相が単身で生活するには支援体制は不十分との指摘もあり、政権幹部は「大使館には料理人がいるのに、トップの首相にはいない」とこぼす。

都心にもかかわらず木々に囲まれる首相公邸
都心にもかかわらず木々に囲まれる首相公邸

 ある首相経験者は公邸での暮らしについて「窓の外を見ても木々ばかり。窓はほとんど開かず、外の空気が吸えない。警備の都合で庭にも出られなかった」と話す。

 歴代首相も入居した公邸

高市首相が住むことになる現在の公邸は、1929年に竣工され2002年まで官邸として使用されていた。現在の官邸ができる際に新公邸として改修し、2005年に完成。昭和の建築物として高く評価されている旧官邸の雰囲気を残しつつ、居住性に配慮したものとなっている。

首相公邸で取材に応じる高市首相(10月24日)
首相公邸で取材に応じる高市首相(10月24日)

 かつて官邸として使われていた当時の間取りを生かしながら、閣議が行われた部屋は応接間に変えるなど、首相が日常生活を送る場所として大改装が施された。賓客をもてなすための和室、茶室なども作られ、晩餐会などにも対応できるようになっている。

安倍晋三元首相(2022年)
安倍晋三元首相(2022年)

 2005年の完成後は、当時の小泉純一郎首相が約1年5カ月居住。2006年には、安倍晋三元首相が昭恵夫人とともに移り住み、引っ越しの日には「今日から24時間勤務態勢に近い態勢になると、そういう覚悟を決めて公邸に移る」と表明した。

 その後、2008年に福田康夫元首相、2009年に麻生太郎元首相、鳩山由紀夫元首相、2010年に菅直人元首相、2011年に野田佳彦元首相と途切れることなく公邸に住み続けたが、野田氏の後に2度目の首相就任となった安倍氏は都内の私邸から、続く菅義偉元首相は衆院議員宿舎から官邸に通い、公邸には入居しなかった。

公邸に入居しなかった菅義偉元首相(中央)後の岸田文雄元首相(右)と石破茂前首相(左)は入居した。
公邸に入居しなかった菅義偉元首相(中央)後の岸田文雄元首相(右)と石破茂前首相(左)は入居した。

 2021年、岸田元首相が「公務に専念するためにも引っ越すのは意味があると考えた」と語り、9年ぶりに「主」が入居することとなった。2024年の年末には石破茂前首相も引っ越し、2025年秋まで住んでいた。そして、まもなく高市首相も入居することとなる。

 幽霊が出る?語り継がれる噂

現在の公邸は、1932年の5・15事件で犬養毅元首相が暗殺され、1936年の2・26事件では青年将校がクーデター未遂を起こした舞台にもなった。現在も玄関には、2・26事件の際の弾痕が残されている。そして、2・26事件では青年将校ら17人に死刑判決が下されている。関係者の間では「公邸に幽霊が出る」との噂が語られている。

1932年の5・15事件や1936年の2・26事件の舞台になり「幽霊が出る」と噂もある首相公邸
1932年の5・15事件や1936年の2・26事件の舞台になり「幽霊が出る」と噂もある首相公邸

 2013年には、政府が、公邸に幽霊が出るとの噂について「承知していない」とする答弁書を閣議決定した。答弁書は、当時の安倍首相が、就任後5か月が経過しても公邸に引っ越していないことを踏まえ、「公邸に2・26事件等の幽霊が出るとの噂は事実か」とする当時の民主党の加賀谷健参議院議員の質問主意書に答えたもので、政府は「承知していない」としたもの。

 その後、岸田元首相は、記者に「幽霊を見たか」と質問され、「今のところまだ見ていない」と述べた。また、石破前首相は「私ども世代は『オバケのQ太郎』世代なので、大して恐れない。実際見たら怖いかもしれないが、それを気にするということはない」などと語った。

「最恐コンビ」と称される高市首相と片山さつき財務相(国会内)
「最恐コンビ」と称される高市首相と片山さつき財務相(国会内)

 インターネット上では、片山さつき財務相とともに「最恐コンビ」とも言われている高市首相。引っ越し後に何を語るかも注目だ。

 (フジテレビ報道局政治部 官邸担当 若田部遥) 

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