コメ不足やコメの価格高騰などが大きな問題となった2025年。農林水産省は“おこめ券”の活用などを各自治体に呼びかけているが、いまだにコメをめぐる問題は収束していない。一方で、コメの生産量が全国一を誇る新潟県では、安定的なコメの供給が求められている。異常気象が続く中、注目されている新たなコメの栽培方法について取材した。
価格の高止まり・水不足による生育不良…
日本人の食卓に欠かせない主食・コメ。
スーパーで販売されるコメの価格は、備蓄米の放出を受けて25年6月以降下がっていたが、新米の流通を受けて再び上昇に転じた。

農林水産省によると、11月24日の週の販売価格は5kgで4335円と過去最高値を更新。依然としてコメの高止まりが続いている。
また、25年は全国的に高温少雨が叫ばれた。特に新潟県上越市では正善寺ダムの貯水率が20%を切るなど深刻な水不足に陥り、出穂期の渇水は、田のひび割れや稲の黄色化などを引き起こすなど、コメ農家に打撃を与えることとなった。
安定的なコメの供給が求められる中、新たなコメの栽培方法が注目されている。
節水米で注目“節水型乾田直播”の田んぼで稲刈り
新潟市の農業法人『ベジ・アビオ』が管理する新潟市北区の田んぼで、25年10月に稲刈りが行われていた。
黄金色に実った稲は『にじのきらめき』と呼ばれる暑さに強い品種だが、この栽培に採用されたのは“節水型乾田直播”と呼ばれる一風変わった稲作方法だった。
水を張らないコメ作り“節水型乾田直播”
コメ作りといえば、田起こしのあと水を張った田んぼに苗を植える水稲栽培が一般的だが、“乾田直播”は水を張らない乾いた状態の田んぼに直接種をまく。

その中でも、田植えから収穫まで一切水を張らないのが“節水型乾田直播”と呼ばれる革新的な稲作方法だ。
「水稲栽培では水の管理は毎日するものだが、節水型乾田直播は水を張らずに週に1回流す程度なので、毎日の水管理から解放されて労力が削減できる」こう話すのは、ベジ・アビオの加藤和彦取締役だ。
節水型乾田直播には、25年に初めて挑戦したが、実際にベジ・アビオが管理する田んぼでは、週に1回の走水を5回行うにとどまったという。
農林水産省によると、節水型乾田直播を採用すると作業コストが6割削減できるほか、水を長期間張らないことで、温室効果ガスであるメタンの排出も削減できるとされている。
また、水の使用量を抑えられることから、猛暑や水不足といった気候変動に左右されないコメ作りも期待できる。
水がないことで生じるデメリット“雑草問題”
大きなメリットがある一方で、BASFジャパンの坂田益郎マネージャーは「水がない状態だと、わんさか色んな雑草が、色んなタイミングで生えてしまう」と懸念を口にする。
水を張る通常の栽培では、水自体が雑草に対して一定の抑制効果を発揮するが、水がなく除草剤のタイプも異なる乾田直播では雑草の管理が困難さを増す。
水稲栽培では、1回の除草剤の散布で済むこともある雑草対策だが、ベジ・アビオが管理する田んぼでは除草剤を5回まいている。
その点では労力とコストが上がっていると加藤和彦取締役も眉をひそめたが、25年に学んだ除草剤の特性を26年以降に生かすと話した。
気になる収量と出来栄えは…
稲刈りの取材から2カ月が経った12月。初の試みとなった節水型乾田直播での栽培と収穫を終え、25年の収量が発表された。

ベジ・アビオによると、作付面積57アールから、1650kgのコメが収穫されたという。
これを受け、加藤取締役は「初年度として掲げていた目標収量を達成することができた。雑草などいくつか課題も見えていて、検証と改善を行いながら26年度はさらなる増収を目指していく」と26年のコメ作りに意欲を見せている。
コメの高値や厳しい気象条件が続く中、生産コストを下げ、安定供給が見込める新たな栽培方法には大きな期待が寄せられる。
節水型乾田直播がコメ作りの主流になる日は果たしてくるのか…今後の動向に注目だ。
