「バイデン(前大統領)やハリス(前副大統領)という“共通の敵”が存在しなくなった今、MAGAの分裂はより鮮明になっている」
2025年12月、こう語ったのは熱烈なMAGA=トランプ支持者を自負する保守系シンクタンク「クレアモント研究所」のウィリアム・ティボー氏だ。ティボー氏は、「2026年はMAGAに限らず、共和党・右派内部でも亀裂と崩壊が続く」と予測する。
第2次政権発足から11カ月、トランプ氏が国内政策よりも外交政策に注力したとのMAGA内部での対立論争があることに加え、早くも2026年11月の中間選挙後を見据えた“トランプなき次の時代”に向けた党内の方向性をめぐる議論が始まっていることが理由と言う。ティボー氏は、次の時代を見越した分裂拡大含みの動きは現在進行中だと語る。
政権発足1年 “大口叩き”や“誇張”に早くも期待外れの声
2024年11月、長引くインフレをはじめ、バイデン政権の国内外の政策に嫌気がさした多くの有権者は、トランプ氏の大統領返り咲きを後押しした。最大の原動力となったのがバイデン・ハリス政権への反感や失望、不満を抱いた中間層と呼ばれる無党派を中心とした有権者に加え、保守層、中でも強固な支持基盤となるMAGA(アメリカ第一主義運動)派の存在だ。
保守層の中でも右派の強硬勢力とも呼ばれるMAGAの存在は、極右活動家で、トランプ氏の熱烈な支持者として知られるローラ・ルーマー氏を筆頭に、政権の人事や政策を変えてしまうほどの大きな影響を持つ。しかし今、その「最も強固な岩盤支持層に亀裂が入っている」との声は小さくない。
さらに2024年の大統領選挙で支持した中間層が、早くもトランプ氏から離反する動きも表面化してきている。選挙戦のさなか、トランプ氏は「1日で戦争を終わらせる」「エネルギー価格と電力料金を半分に引き下げる」などと繰り返し訴え、支持者や有権者に大きな期待を抱かせた。選挙から1年が過ぎ、かつての発言と実態経済などの乖離(かいり)に対する不満が広がり、ブーメランとしてトランプ氏に返ってきているのだ。
ジョージ・ワシントン大学で政治学を専門とするサミュエル・ゴールドマン准教授は、「トランプ氏が掲げた“壮大な公約”の実現性に対する不満が、MAGAだけでなく国民全体の間で高まっている」と指摘する。ゴールドマン氏のトランプ氏の11カ月に対する評価は厳しい。「トランプ氏が掲げた国内製造業の復活は程遠く、数千万人の不法移民の強制送還は法律上実現不可能で、多くの国民が関心を寄せる生活費高騰の問題には無関心に見える」と、辛口だ。
さらに「一部のMAGA派はトランプ氏のイスラエルとの蜜月関係に同調しておらず、距離を置くことを望んでいる」とも語り、「当選のためにトランプ氏に同調しなくて済むようになる中間選挙後には、共和党議員らの不満が表立って噴出する」と予測する。また「ウクライナ、中東をはじめ世界で起きる戦争の停止に注力してきた方針を転換し、国内経済に力点を置かなければ中間選挙で結果となって現れる可能性」があると方針転換がなければ議会の主導権を失うとの見方を示した。
右派分裂と内紛の懸念を抱え迎える2026年
こうしたトランプ離れの「兆候」が表れたのが、2025年11月に行われた南部・バージニア州と東部・ニュージャージー州の知事選挙、そしてニューヨーク市長選挙だった。
3戦とも2026年11月の中間選挙の前哨戦とされたが民主党が全勝した。いずれも元々民主色が強い地域だが、トランプ氏は直後に「政府機関の閉鎖が原因で我々は敗北した。これは共和党にとって大きなマイナス要因だった」と言及し、焦りを隠せなかった。
さらに翌12月、保守色の強い南部・テネシー州で行われた連邦下院の補欠選挙では、民主候補が敗れたものの予想を覆し善戦した。2024年の大統領選挙でトランプ氏はこの選挙区で民主党のハリス氏に22ポイントの差で圧勝したが、民主党候補は共和党候補との得票差を9ポイントほどに縮めた。足元の経済への不満が顕著にあらわれたとの見方が大勢だ。
また12月9日に行われたフロリダ州マイアミの市長選挙では、民主党の候補者がトランプ氏が支援する共和党の候補者を抑えて28年ぶりに勝利している。
連邦議会のMAGA代表格として誰よりも声高にトランプ氏の支持を訴えてきたマージョリー・テイラー・グリーン議員は、11月にトランプ氏との決別と議員辞職を表明した。この動きは、MAGA支持層や今後の選挙戦にどう影響を及ぼすのか、不安要素として侮れない可能性もある。
グリーン氏は、政権の物価高対策や医療政策、性的人身売買の罪で起訴され、自殺したジェフリー・エプスタイン氏に関する文書の公開などをめぐりトランプ氏との対立を深め、トランプ流の執拗な攻撃にもさらされ、再選の道を断念した。
グリーン氏は、SNSへの投稿でトランプ氏との離別を表明。公の場で耐えてきた「終わりのない個人攻撃や法廷闘争、途方もないウソ」に言及するとともに、「共和党の中間選挙の敗北」やトランプ氏が「再び弾劾に直面する」との見通しを示した。共和党内で唯一無二の絶大な影響力を持つトランプ氏にとっては選挙戦を共に戦い、副大統領候補を示唆したことのある人物の離反は、大きな傷となる可能性もある。グリーン氏は「虐待された妻のように事態が収まるのを待つような真似は絶対にしない」とも語り、トランプ氏への対抗姿勢をあらわにした。
トランプ流“懐柔術”敵を味方に「裏切れば道を閉ざす」
トランプ氏はこれまでも、自らに対する共和党内の批判者を抑えて取り込むという手段で、強大で盤石な権力を手にしてきた。
今では懐刀とも言われるバンス副大統領やルビオ国務長官さえも、かつてはトランプ氏を批判していた。一方、その方針転換を行わなかった共和党員は、その後の道に例外なく行き詰まってきた。グリーン氏の決別表明は、結果どの方向に進むのかは見通せないが、トランプ氏がその後に示したグリーン氏への「和解」の示唆は、これまでのトランプ流「取引」の一環なのか、懸念の表れなのかは分からない。
ただ、トランプ氏がグリーン氏のような過激なMAGA支持者に大きな約束(選挙公約)を果たせていない現実に直面していると指摘する専門家もいる。
中西部カンザス大学でコミュニケーション政治学などを専門とするロバート・ローランド教授は、グリーン氏の議員辞職表明は、MAGA亀裂拡大の明確な兆候だと警鐘を鳴らす。
ロバート・ローランド教授:
政権の経済実績は、共和党が中間選挙で議席減を喫する可能性を示唆している。経済政策でトランプ氏と対立したグリーン氏の指摘は的を射ている。トランプ政権への経済政策に対する不満は少なくなく、MAGAが女性からの支持を失えば政治的に壊滅につながる可能性もある。グリーン氏の辞職はその兆候に過ぎず、政権への不満とともに亀裂はさらに拡大するだろう。
ローランド氏はさらに「経済が好転し、物価が下がる可能性もあるが、不況時を除けば物価が下がることはまずない。トランプ氏が経済を好転させられるとは思わないが中間選挙で必要とする支持基盤と大統領選で彼を支持した中間層の両方を満足させる方法が見当たらない」と述べた。
吉と出るか凶と出るか…中間選挙を見据え経済政策に大舵も
トランプ氏は12月9日、2026年秋の中間選挙を見据え、政権の経済政策を訴える演説を開始した。政権幹部によると、2026年に行う経済政策を柱にしたキャンペーンは大統領選挙並みに国内各地で実施するという。
中間選挙は上院(定数100)の35議席、下院(定数435)の全議席で争われる。仮に民主党が下院で過半数を奪還すれば、トランプ氏は再び弾劾の懸念にも直面する。2026年はトランプ氏の息のかかったFRB=連邦準備制度理事会の新議長も誕生し、市場や国民はこれまで以上にトランプ色の濃い経済政策と向き合うことになる。筆者が取材したいずれの専門家からも楽観論は聞かれなかった。
80歳の節目の年に迎える2026年は失速か加速か、トランプ氏の行く末を左右する1年となる。
(FNNワシントン支局 千田淳一)
