4年ぶりのカムバックまで3週間を切った。期待に胸躍らせ待ち望む人、戦々恐々と怯える人、その時が刻一刻と迫る。1月20日の正午(日本時間21日午前2時)、ドナルド・トランプ氏(78)は就任式で宣誓し、アメリカ大統領としての2期目がスタートする。この4年、捜査や起訴、裁判、有罪評決、2度の暗殺未遂事件を経験した。そして7700万票余りの得票を得て、上下両院も手中に収め、大統領に返り咲いた男は、多くの国民の期待を背負い、アメリカ第一を掲げた公約を実行する4年間をスタートさせる。
2017年、第45代大統領に就任したトランプ氏は、ワシントンの常識を覆し、自由貿易がアメリカ企業や消費者に利益をもたらすという民主、共和両党のコンセンサスを否定し、貿易や移民などの問題に新たなアプローチをとった。場当たり的な政策に加え、チーム内での不協和音も絶えなかった。歴代大統領で最も多い2度の弾劾訴追も経験した。

しかし、2期目のトランプ氏は、多くの人が懐疑的だった1期目の状況とは全く違う。周囲には多くの人が集まり、世界中のリーダーが面会を求め続け、大手企業が多額の寄付を行い、トランプ氏を中心に世界が回っているようにみえる。ホワイトハウスを去ってから4年、トランプ氏は強大な権力と国民人気を背にカムバック初日から政策を国内外に発信することになる。
近年に例のない政策実行で1月20日に世界が変わる
初代大統領のジョージ・ワシントンから第46代大統領のバイデン氏に至るまで、アメリカの歴代大統領は在任中、数々の大統領令を矢継ぎ早に出し、その権力を誇示してきた。トランプ氏も1月20日の就任初日に数々の大統領令に署名することを明言している。現地メディアによるとその数は25以上に上るという。
大統領令は、議会の承認を経ずに大統領が政策を決定することを可能にするもので、連邦政府や軍に対して行政命令を出すことができ、法的拘束力を持つ。その権限は、移民や通商政策、規制の撤廃など幅広い分野に及ぶ。
歴代大統領の大統領令を見ると、リンカーン大統領(16代)は、南部の奴隷を解放する奴隷解放宣言(1863年)の大統領令を出した。ケネディ大統領(35代)とジョンソン大統領(36代)は、住宅や雇用政策の人種差別を禁止した。また、ルーズベルト大統領(32代)は、世界恐慌(1929―30年代後半)への対応となるニューディール政策や戦時政策に大統領令を使用した。その一つが第2次大戦中の日系アメリカ人の強制収容(1942年)だった。

連邦官報によると就任初日に大統領令を出した大統領は、2021年のバイデン氏が9つ、2017年のトランプ氏、2001年のジョージ・W・ブッシュ氏、1993年のクリントン氏が1つで、2009年のオバマ氏がゼロだった。歴代大統領が就任初日に出した大統領令の数だけ見ても2期目のトランプ氏が初日に出すと予想される数は、近年に例を見ない数といえる。トランプ氏の1期目初日の大統領令は、医療保険制度改革(通称:オバマケア)の廃止に向けた規制の緩和だった。
移民や教育、エネルギー政策まで劇的な政策転換か
大統領令に関するトランプ氏のこれまでの発言を振り返ると、移民や教育、エネルギーまで幅広く、国内外の政策が対象となる。

不法移民の強制送還に向けては、メキシコとの国境に軍を派遣し、国境の壁の建設を再開する計画も掲げる。さらに両親に関係なく、アメリカで生まれた人に市民権が与えられる出生地主義の廃止も検討している。
選挙戦で直ちにインフレを収束させると訴えたトランプ氏は、「インフレを阻止し、物価を下げるためにすべての閣僚や政府機関に対し、あらゆる手段と権限を行使する大統領令に署名する」とも述べている。貿易面では、メキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を課し、中国に対しても10%の追加関税を課す大統領令に署名する構えだ。
陣営の関係者によると、トランプ氏は大統領令によって、政府の政策を劇的に転換させる思惑があり、「初日に大きな話題を作ることで1期目よりも迅速に行政権を行使する狙い」があるという。

さらに、トランスジェンダー教育を推進する学校への連邦政府の助成金の削減、ワクチンやマスクを義務付ける学校には「1銭も与えない」とも言及している。
1次政権でイスラム教徒が多数を占める7カ国からの入国を禁止した大統領令を復活させることも明らかにしている。

選挙戦で「掘って、掘って、掘りまくれ」と繰り返したエネルギー政策では、国内の石油と天然ガスの生産量を増やすと強調し、洋上風力発電計画の中止を誓った。第1次トランプ政権で離脱し、バイデン政権で復帰した温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの再離脱に向けた準備も進めているという。
大統領令以外でも「初日に、迅速に行動」
さらに、大統領令に署名せずとも大統領の権限で実行できるのが恩赦だ。バイデン大統領は、2024年12月、銃を不法に購入するなどし、連邦犯罪に問われていた息子のハンター氏への恩赦を発表したほか、一日で実施した減刑、恩赦としては最大規模となる、約1500人への減刑と39人の恩赦を発表した。

トランプ氏は、2021年の連邦議会襲撃事件で有罪判決を受けた支持者らについて「就任初日に恩赦」を与えることを明らかにしている。この事件では1500人以上が逮捕された。司法省によると、そのうち200人以上が不法侵入や警察官への暴行など、さまざまな罪で有罪評決を受けている。トランプ氏は「初日に迅速に行動する」と言及していて、恩赦の規模も注目となる。
さらに「早期の戦争終結」を訴えるロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢への対応も焦点となる。トランプ氏は、第2次政権発足から100日以内に結果を出すよう、閣僚らに指示すると話している。まずは2年後の中間選挙を見据えて、不法移民の強制送還など、政策の軸足が国内に置かれるのではないかとの見方が強い。
専門家「世界の混乱と関税への悪影響」指摘も…国民は期待大
2期目のトランプ政権について、アメリカの外交・経済の専門家は、バイデン政権からの大きな変化への備えを訴えている。
外交政策が専門のクレアモント・マッケナ大学のジェニファー・トウ准教授は、「世界的な経済危機と中国やイランとの戦争の可能性を予想している」と語り、「その結果はいずれも、日本にとって深刻な影響を及ぼすことは確実だ」と警鐘を鳴らす。
さらに金融・経済学が専門のケネソー州立大学のマイケル・パトロノ上級講師は、トランプ氏の関税政策について「一部の産業では、刺激効果があるかもしれないが、より高い価格を支払わなければならない消費者への悪影響の方が強いだろう。安全保障問題などの例外を除いて、関税は良い効果よりも悪い効果の方が大きいと考える」と語る。

しかし、実際には、共和党支持層を中心とした国民の評価と専門家の指摘の間には、開きがあるようだ。トランプ氏に投票した有権者からは、大統領就任で、ガソリン価格は下がり、金利も下がり、生活費が削減されるという期待の声が絶えず、アメリカ第一への支持は根強いのが実情だ。
トランプ氏は「就任初日に独裁者になる」と訴え、公約実現に意欲を燃やしている。復権一日目から世界が注目している。
(FNNワシントン支局長 千田淳一)