原告は「貞操権侵害」主張

貞操権とは、性的関係を結ぶかどうかを自分自身で決定する権利であり、性行為を強要されたり、だまされて性行為をさせられた場合に、貞操権侵害にあたる可能性が出てくる。

原告女性は、被告がアプリで独身だと偽り、「既婚者、彼女持ちお断り」とプロフィールに記載していた自分に対し、結婚の可能性がある交際だと誤信させて性交渉に応じさせたと主張。被告が避妊せずに「責任を取る」と言いながら性交渉し、「他に大事な人はいない」「一緒に楽しく長生きしよう」などと将来を見据えた発言もしており、既婚者であれば通常は取らない言動を行ったとした。

さらに、被告が突然連絡を絶ったため、探偵に費用を支払って調査せざるを得なくなったと主張。調査によって既婚の事実が判明したため、仮に調査をしていなければ“独身偽装”による不法行為が明るみに出なかった可能性が高く、調査会社への支出が損害に当たると訴えた。

原告女性は、潔癖な性格から不貞関係にだけは巻き込まれたくないと考えていたが、被告の巧妙な嘘で複数回の性交渉を持った後に突然連絡を絶たれ、探偵の調査で既婚者であると知ったことで強い精神的ショックを受けた主張。

一連の“独身偽装”を巡って、原告の女性は適応障害や帯状疱疹を発症し、治療を受けざるをなくなったと主張。また、心身の不調の影響で仕事のパフォーマンスが低下し、結果的に収入減少につながったとも訴えた。

「真剣交際ではなかった」被告の反論

一方、被告の男性は2人の関係について「結婚を前提にした真剣交際」ではなく、あくまで性交渉を目的にしたものだったとし、貞操権の侵害を否定。

お互いの自宅を訪問したことはなく、同棲や結婚などの具体的な提案や、家族への紹介など結婚の可能性を示唆する行為に及んだこともないとした。

さらに、原告が主張する治療費や収入源についても、「因果関係がない」とし、損害に当たらないと主張した。

「真剣交際」とみるのが相当

東京地裁は、原告女性が当初から「真面目なお付き合い」を望み、既婚者との交際を拒む意思を示していたことなどを重視した。

被告男性が独身で交際相手がいないと述べたり、避妊具をつけずに性行為を行ったりしたことを踏まえ、「客観的には、婚姻の可能性を前提とした交際とみるのが相当」と判断。

「被告が既婚者であることを意図的に秘して原告と性行為を繰り返したことは、原告の貞操権を侵害する故意の不法行為にあたる」と断じた。

東京地裁
東京地裁

探偵費用は、その調査によって被告に配偶者がいることなどの不法行為の証拠を得られたことから、全額を損害として認定した。

一方、収入の減少は因果関係のある損害とまでは認められず、慰謝料の算定で考慮することが相当とした。

東京地裁は12月8日、被告の男性に対して、精神的苦痛への慰謝料や探偵費用など合わせて約151万円の支払いを命じた。

プライムオンライン編集部
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