10月に「運転手不足」を理由に富山地方鉄道が路線バスを17の路線で廃止してから2カ月が経ちました。
廃止となった地域では車を運転できない高齢者や高校生など、いわゆる「交通弱者」とされる人が大きな影響を受けています。沿線住民の声を取材しました。
富山市の中心市街地から20キロ以上離れた富山市細入地域の片掛。
*富山市片掛に住む高校3年生 圓山智亮さん
「ここにバス停があったけれど今はもう使われていない。通学だけでなく街中に出かけることが自分だけではできなくなったのですごく不便」
これまで圓山さんは片掛から地鉄バスに乗り富山市民病院で乗り換え高校まで通学していましたが、路線バスが廃止になり10月からは父親の車で高校まで送ってもらうようになりました。
*富山市片掛に住む高校3年生 圓山智亮さん
「家の人に送ってもらわないといけなくて、(家族の)負担が大きくなってしまうので申し訳ないといつも思う」
富山地方鉄道は深刻な運転手不足を理由に、利用者が少ない路線や鉄道など他の交通機関で代替可能と判断した県内17の路線を10月から廃止しました。
そのうちの一つが猪谷線です。富山市街地と細入地域を国道41号線でバスが1本で結んでいましたが、笹津の先、笹津橋詰~猪谷が9月末で廃止に。
現在、富山市中心部から細入地域に向かうには笹津駅でJR高山本線に乗り換えなければなりません。
放課後、圓山さんはこれまで通りバス2本を乗り継ぎます。ただ、笹津から先はもうバスが走りません。
家族は日中、仕事や用事で笹津駅へ迎えに行くのが難しい場合もありJR高山本線に乗り換え猪谷駅へ向かいます。
*富山市片掛に住む高校3年生 圓山智亮さん
「空き時間が通学は多いのでこういう時間でも(勉強を)やれたら良い」
ダイヤが限られる高山本線。バスの遅れなど乗り替えのタイミングが合わない場合は駅で1時間以上待つこともあります。
*富山市片掛に住む高校3年生 圓山智亮さん
「時間を気にして考えないといけない。ちょっとストレスになる」
この日は猪谷駅に祖父が迎えに来て帰宅しました。
*リポート
「富山市細入地域の庵谷です。住宅街の目の前にはJR高山本線が通っていますが、ここから最寄りの楡原駅までは3キロ以上離れていて歩いて向かうには決して便利だとは言えない環境です。ここに住む人たちの主な交通手段は自家用車か、すぐそばにバス停があり、これまでは路線バスが走っていましたが9月末をもって廃線となりました」
7つの自治会がある細入地域には1064人が暮らしています。このうち65歳以上の高齢者は498人、高齢化率は半数近い46・8%です。
庵谷地区には38世帯、79人が暮らし、高齢者も多くいますが、地域の足だった路線バスはもう来ません。
Q.高山本線が代替手段だが?
*庵谷地区自治会 坂野亨会長
「高山本線は地区の者にとっては利用価値ゼロ。まずそこまで移動できない。一番近い楡原駅でも30分歩かないといけない。車を運転できない人にとっては陸の孤島になってしまった。移動できないわけだから買い物にも行けない」
路線バスの廃止によって車を運転できない高齢者はいわゆる「買い物難民」に。
廃線を知った自治会長が業者に頼み込み、住民が買い物ができるよう10月から毎週金曜日に移動型スーパーが運行されるようになりましたが路線バスが無くなる不便は想像以上のものがありました。
*庵谷地区の住民
「病院行く時とか。(自分で運転して)行けないからバスを使っていた」
「これからのこと考えたら…」
「子どもたちがますますいなくなる」
こうした中、細入地域の自治会連合会は富山市に対し、コミュニティバスなど代わりの移動手段を要望、富山市は来年1月5日からこれまで大沢野地域が対象だったシルバータクシーを細入地域にも試験的に範囲を拡大することにしました。
*庵谷地区自治会 坂野亨会長
「子どもの帰宅時間にあわせて迎えに行くならフルタイムでの仕事が続けられるのかな。『そこまでしてここに住む必要があるの?』って。辛い思いをして時間に縛られる生活をずっと続けるのが辛くなると思う。それならバスの通っているところへ移ろうかなという考えが出るのは当然だと思う」
シルバータクシーはあくまで65歳以上の高齢者が対象で自治会連合会では、地域の将来を考え高校生など若い世代が利用できる交通手段を引き続き市に求めたいとしています。
地域の交通手段として路線バスが果たす役割は高齢化社会で大きくなる一方、経営不振や深刻な運転手不足で減便や廃線が相次いでいます。
今後の路線バスのあり方について、公共交通に詳しい専門家に聞きました。
*東京都市大学 西山敏樹教授
「大型2種免許を持っている人がいないから運転手の確保が難しい。3ナンバー(普通乗用車)のバンや5ナンバー(小型乗用車)の乗合の車両などを小型車両と大型車両を弾力的に代替していくことでうまくやっていく必要がある」
西山教授は利用客が少ない路線では大型バスではなく小型車両の活用で運転・運行のハードルを下げること、現在、滋賀県では公共交通を守るため広く県民の税金で賄う「交通税」を導入するか議論がされていますが、運転手の待遇面の補助や運行に関わる費用の支援など市民・行政の負担といった議論も今後必要だとしています。