とべ動物園のアイドル・ピースに世界初の治療成功
とべ動物園のアイドルホッキョクグマのピースは今月26歳の誕生日を迎える。ピースは、長い間持病の「てんかん」に悩まされてきたが、今その発作を抑える研究が進んでいる。
飼育担当・高市敦広キーパー:
「これがピースが生まれたときの写真なんですけれど、今この部屋に入っていただくんですけれど、生まれた時、目も空いてない、耳も、耳たぶが閉じて生まれて、それが何日かしたときパカッ開いて、毛がはえてくる」
誕生日を前に、とべ動物園に集まった4人のピースファンのみなさん。
参加者:
「うわぁ~。ピーちゃん」
高市さん:
「外でご覧になるより大きく見えるでしょ。」
ピースはまさにとべ動物園のアイドル
ファンの皆さんは、とべ動物園で月に4回開催されている「ピースフルタイム」のために、県外からやってきた。「ピースフルタイム」では普段立ち入ることができないバックヤードで、ピースに間近で会うことができたり、高市キーパーから日々の様子を直接聞いたりすることができる。
東京から夫婦で参加:
「遠くから見てもかわいいけど、近くで見たらもっとかわいいね。最初からずっと今もなお大切に育てられているんだなというのが、多分ご本人(ピース)が分かっていて、高市さんの愛情が伝わって健やかなんだなという感じ」
毎回、県の内外から会いに来る人が絶えず、ピースはまさにとべ動物園のアイドルだ。

3歳から始まった持病の「てんかん」の発症
1999年12月2日。とべ動物園に体重680グラムのホッキョクグマの赤ちゃん、ピースが誕生。出産直後、母親のバリーバが興奮状態になったため、ピースは当時成功例がなかった人工哺育で高市キーパーが育てることになった。
飼育担当・高市敦広キーパー:
「680グラムで生まれて片手で持てるくらい、こんなちっちゃい子が、本当バリーバみたいに200キロ、300キロとか、本当になるのかなって不思議な感覚になったのを覚えてるんですよ」
しかしピースが3歳になった年、命に関わる大きな出来事が起きた。持病の「てんかん」の発症だ。ピースがプールで遊んでいる時に発作が起き、髙市キーパーが間一髪で助けた。

てんかんの発作を抑える”アザラシオイル”
「何とか、てんかんの発作を抑えたい」試行錯誤していた高市キーパーが、2023年12月から与え始めたのが、アザラシのオイル。
高市敦広キーパー:
「おそらく体が欲してたんでしょうね。(オイルを)あげたら本当にむさぼるように舐めてたので」
すると予想しなかったことが起きた。10年以上毎年春になると必ず起きていたてんかんの発作が、アザラシオイルを与え始めてからこの3年、一度も現れていない。
高市キーパー:
「毎年必ず春に来てたんですよ、10年以上。3月にもうそろそろ来る、もう来ると思ってますから、もう身構えたんですけど、来なくっておかしいなと思って」
高市キーパーはそこで初めて「てんかんの発作」に、アザラシオイルが関係しているのではないかと考えた。

アザラシオイルを与えることでてんかんの発作を抑えられるかも
高市キーパー:
「インターネットで、『オメガ3脂肪酸』『てんかん』っていうワードで検索してみたんですよ。そしたら東京大学の大学院の米澤先生っていう方の論文が見つかって、その先生の研究ではてんかん持ちの犬に、オメガ3脂肪酸の中のDHAっていうものを多く摂取させると、てんかん発作をぐっと抑えられたっていう結果が見つかってですね、出てるんですね」
脂肪酸とてんかんの関係性を研究している東京大学の米澤准教授に連絡すると、「貴重な症例」と関心を示し、7月にピースの様子を視察に訪れた。

アザラシオイルの食事は理にかなっている
東京大学・獣医臨床病理学研究室・米澤智洋准教授:
「近年の研究では、ホッキョクグマが肝臓の病気であったり、腎臓の病気などを避けるために、他の動物よりも大量の脂肪をとり続ける必要があることがわかっていて、そうした意味でもアザラシオイルの食事は理にかなっていると思います」
米澤准教授は、今年7月に東京で開かれた「日本ペット栄養学会」のシンポジウムでも、ピースの事例を紹介。とべ動物園と東京大学は「ピース」の血液の解析を進めるなどして、「てんかん」の原因を解明できるか検討していくことになった。

動物園と大学は連携して研究を進めている
高市キーパーは、東京大学米澤教授とオンラインでつなぎ、動物園の獣医らも交えて今後の研究の進め方を話し合った。
獣医師:
「例えばてんかんについてのオメガ3の影響を見るというのであれば、2023年頃と2024年頃と季節ごとぐらいで、(データを)とっていけば見られると思っている」
今後も園と大学は連携して研究を進めるとしている。
米澤智洋准教授:
「高市さんがピースさんに行われたことは、いわば世界初のホッキョクグマの治療の成功例であると思います。私はこれまでイヌやヒトのDHAとてんかんの関係性について調べてきました。ここにこれがホッキョクグマでも見られるとなると動物種を超えた神経の根本的なメカニズムに関与していると想定されます。これをもとにして生き物が生きる仕組みを一部でも明らかにできたらなと思っています。」

ピースが生きてきたことの功績
ホッキョクグマの平均寿命は25~30歳と言われていて、12月に26歳を迎えるピースはホッキョクグマでいえば高齢期。高市さんがピースの老いと向き合う中で始まったこの研究は、大きな可能性を秘めている。
高市キーパー:
「ピースのこの事例が今度、科学的に立証されていって、世の中に貢献していくことになれば、さらにピースが生きてきたことの功績というか、世の中の役に立ったということにもつながることになっていくと思う」
ピースを長年見守ってきた髙市さんの観察の積み重ねが、研究につながるというのは本当にすごいことなのだ。

