全国で相次ぐクマの出没。福井県内でも11月に入り、立て続けに80代の男性2人が自宅周辺でクマに襲われ顔などにけがをした。街中や集落で急増するクマによる被害。なぜ、人里に出没するクマが後を絶たないのか。ハンター歴50年の男性に同行取材し、山で起きている変化やクマ出没への認識を聞いた。
山を知り尽くす猟師の目
「自分の猟のポイントは全部覚えているんですよ」そう言って車を走らせるのは、猟師歴50年の竹内作左エ門さん(78)。
1カ月に10回は通っているという丸岡町竹田地区に同行させてもらった。
車を降り「あそこほら、見て」と竹内さんが指差した方を見ると、河川敷に土を掘り起こしたような場所が。イノシシの痕跡だ。

「古いものなら木の葉が落ちているけど、ないから昨日かその前に掘り起こしたと判断して、どこから来たのかを見る」という。
またしばらく進んで見つけたのは、幹の皮が大きく剥がされたネムノキ。「シカの大好物」だという。
半世紀にわたる狩猟経験から、獲物の痕跡を読み取る目は鋭い。
「50年間、猟をやっきて一番感じるのは、やはり環境の変化だね。きょう始まったことではないんですよ。現実に。ずっとこう積み重ねてきてこういうことが起きている」
悪化の一途をたどる山の生態系
竹内さんは、山や川、そこに暮らす野生動物や植物にとっての環境が悪化していると強く感じている。その最大の要因は、人間の営みが山から離れてしまったことだという。
「山に誰も入る人がいなくなったんで、木がだんだん大きくなって樹齢を重ねればその木もやっぱり枯れる。循環性がないんです」

特に、広葉樹が減少していることが野生動物の生態系に大きな影響を与えていると指摘する。「広葉樹がないところには野生の動物はやっぱり生活できないんですよ」

さらに、降雪量が減少したことも大きな環境変化をもたらしている。竹内さんは、雪が少なくなったことでシカやイノシシの分布域が広がり「クマやカモシカなどが本来の生息域から追いやられている」と説明する。こうした変化が、ここ20年間、積み重なるように起きてきたというのだ。
山を追われたクマが里に
取材中、竹内さんは突然、運転する車の速度を落とし始めた。「クマが木に登っているといいけどな…」と、黒く見える枝を注意深く観察。竹内さんによれば、クマは特定の木にしか登らないという。
近年、問題となっている人里でのクマの出没について、竹内さんは「里に出るクマは山のクマではない。はっきり言って、里山のクマなんだ。そういうクマは山に帰ることはない。なぜかというと、山のことが知らないから」
竹内さんによると、山から追いやられた「里山のクマ」は、畑の農作物や人が植えたカキなど栄養価の高い餌を食べるため体も大きく、一度に産む子供の数も増えるという。これが近年のクマによる人身被害増加の一因と考えられる。
クマだけでない野生動物全体の管理
ただ、クマによる人身被害を減らすためには、単にクマだけを駆除するだけでは不十分だと竹内さんは指摘する。「クマを減らしただけで済むかといったらそうではない。イノシシやシカを減らすことも重要。それらが増えてきたから、クマに居場所がなくなり里に出てきている可能性もある」
竹内さんは、山の野生動物全体を適切に管理することの重要性を訴える。
かつて竹内さんは3、4人ものハンター仲間と共に狩猟を行っていた。しかし、皆が高齢となり、今では竹田地区でハンターとして活動しているのは竹内さんただ1人となってしまった。

「クマを獲って帰って地域の人と一緒になって食べたり騒いだりして。今考えるとああいうことは、20年ぐらい前からはもうほとんどない。クマを獲るメンバーはもう誰もいない。それをまた教えるということも、もうできない」
人と野生動物の新たな関係
人の生活が山から離れつつある今、人と野生動物との適切な境界線が問われている。
「山が変化すれば人も変化するし、同時に地域も変化していく。田舎だからこそできることを生かして、解決策にできれば一番いいんだけどね」そう語る竹内さん。
急増するクマによる人身被害。人間と自然との関係、そして地域社会のあり方を見つめ直すことが求められているのかもしれない。
