全国で深刻な社会問題となっている空き家の増加。千葉県内では、2023年の調査で39万4100戸が確認され、5年間でおよそ1万戸も増えた。特にいすみ市は市内の住宅の3割近くが空き家状態。人口減少に伴い公立高校に生徒が集まらない問題も起きており、遠隔地からの生徒募集という新たな一手を打った。

遠隔地から生徒募集

県立大原高校では、2015年の開校以来、応募人数が募集人数を下回る「定員割れ」が続く。

4年前は160人募集したところ、75人しか応募がなかった。最近では100人ほど応募が続いているが、定員割れしているのが現状だ。

そんな中、元々空き家だった古民家を寮代わりにし、遠くに住む地域の生徒の募集を開始した。

県立大原高校
県立大原高校
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県立高校に入学する場合、本来は保護者と同居している場所から通学することが原則だが、遠隔地生徒募集により、通学が困難な生徒も入学が可能となる。

大原高校は、いすみ市の中心部・大原商店街を通り抜けた駅徒歩10分の場所にある。

2年次から農業や水産業など専門性の高い授業を選択することができ、千葉県内でも3校しかない水産業を学べる高校の一つ。ダイビングといったマリンスポーツの授業があるのが特徴だ。

サメを使った水産業の授業
サメを使った水産業の授業

下宿先は築150年の古民家

生徒の下宿先となる場所を探していた大原高校。そこで名乗りを上げたのが、東京からいすみ市に移住してきた安藤徳彰さんだ。

いすみ市の民間団体がボランティアで行っている、空き家を売りたい人と買いたい人を繋ぐサービス「空き家オークション」で、築150年の古民家空き家を購入した安藤さん。購入後、総工費およそ1500万円をかけて大規模改修をする。

大原高校の下宿先になる古民家
大原高校の下宿先になる古民家

安藤さんは、この古民家で幅広い世代の人たちが気軽に農業を通じて生活を送る「多世代共生型ファーム 『結いとぴあ』」を運営する計画だ。利用者の体力や目的などに応じて農作業や料理など分担し、共同生活を送ろうと考えている。

安藤さんは、高校生の成長にも繋がると考え、大原高校の下宿先募集に名乗りを上げ、受け入れを決めた。

安藤さん:
色んな人と関わることによって精神的に成長していくと思う。ただ下宿で食事を出すっていうだけでなく、一緒に生活して交わることで、高校生たちも目標にしたい人を見つけるなどチャンスがあるのではないか。

2026年4月に入学する新入生から安藤さんが身元引受人になり、『結いとぴあ』にある農園で作った野菜を使うなどして、日々の食事を提供するという。

大原高校の渡辺嘉幸校長は、「今の生徒は高齢者や多様な方と接する機会が少ないと思う。色んな方と接して学びの幅を広げていってほしい」と期待を寄せた。

渡辺嘉幸校長
渡辺嘉幸校長

現在、大原高校の遠隔地生徒募集に数人が興味を持ち、近々下宿先となっている結いとぴあを見学する予定だという。今後の遠隔地からの生徒が増えた場合は、駅から学校までの間にある大原商店街の空き家を活用して下宿先にしたい考えだ。

水産業を学びたい高校生が、いすみ市の空き家問題を解消する鍵になるかもしれない。
(千葉支局 斉藤昌昭)

斉藤 昌昭
斉藤 昌昭

投資用不動産の営業マンから記者に転身。内勤を経て2024年7月から社会部。警視庁クラブでは捜査一課・三課を担当し首都圏で相次いだ闇バイト強盗事件やFNN取材団で大船渡市山林火災などを取材。2025年7月から千葉支局に異動。千葉県内の事件・事故・裁判・行政を取材中。座右の銘は「雲外蒼天」。