「連立の離脱には反対の声も多い」
「政権にいることで得られるメリットがなくなっていいのか」
これは、公明党が連立離脱を通告する前日の11月9日、党の会議に出席した公明党国会議員がオフレコで語った内容だ。
党内から反対の声もあがる中、なぜ公明党は26年間におよぶ友好関係を解消し、熟年離婚とも言われる連立離脱を強行したのか。私たちは、幅広く関係者から証言を得るとともに、地方組織に対して独自に調査を行い、過去の“蜜月時代”を知る元幹部からも話を聞いた。徹底取材から見えてきたのは“離脱の真相”と、新たな「連立政権」も直面するであろう課題だ。
中央では自公対決…地方選挙では異なる光景
野党に転じた公明党が高市政権と対峙する国会が開かれる中、私たちはある地方選挙の取材で、異なる景色を目の当たりにした。
11月9日に投開票が行われた東京都の葛飾区長選挙だ。候補者の事務所を訪れると…自民・公明両党それぞれからのたくさんの応援ポスターが貼られていた。連立のたもとを分かった両党が同じ候補を推薦していたのだ。
深夜に5期目の当選を決めた現職の青木区長に公明党の連立離脱の影響について聞いてみると、「それほど大きく影響してないという風に思っております。というのは、国政と地方はかなり違うものがありますし。個々に連携をしながらやってきています」と語った。
一方、同じ日に行われた葛飾区議会議員選挙では、自民党の候補が7人も落選する中、公明党は立候補した8人全員が当選を果たした。
再選を果たした公明党の岩田区議に、連立離脱後、自民党と疎遠になっているのかを聞くと、次のように語った。
「私たち地元・地域密着として働いておりますので、自民党の皆さんも同じ葛飾区を良くしようと思ってる方ばっかりですので、自民党と公明党が離れたからといって、仲が悪いとかそういったことじゃなくて、やっぱり地域に密着して働いていくというところで、私は変わらないんじゃないかと思っています」
やはり「関係は変わらない」という。
国政と地方政治では、温度差があるようだ。
公明党地方幹部に独自アンケート
そこで私たちは、全国47都道府県にある公明党の地方組織の幹部に対し独自に調査を行った。連立離脱の判断に「賛成」か「反対」か。その理由などを聞き、47都道府県全てから回答を得た。
連立離脱については、47都道府県ほとんどが「賛成」で、「反対」は1つもなかった。
賛成の理由としては、以下のような声があった。
「自民党の政治とカネ問題に対する対応が、あまりにも不誠実」(福島県)
「改革の姿勢を感じられなかった」(長崎県)
多くの県が、斉藤代表と同じく「政治とカネ」の問題を挙げていて、組織の結束力がうかがえる。
一方で「賛否両論があった」「党本部の判断だった」「やむを得ない」 といった回答もあり、地方組織の複雑な心境も垣間見えた。
自・公2人のベテラン語る連立崩壊の裏側
では、連立離脱は「政治とカネ」の問題だけが要因なのか。
私たちは、公明党の元議員・池坊保子さんに話を聞いた。
池坊さんは、最大最古とされる華道の流派、池坊の家元夫人で、「漢字検定」協会の理事長などを歴任し、現在は日本相撲協会の横綱審議委員会の委員を務めている。
公明党では、支持母体である創価学会の会員ではない衆議院議員として16年間活躍し、今も自民党議員と深い交流がある。池坊さんは、連立離脱について次のように語った。
「私は離脱でスッキリしました。良かったんじゃないのって。斉藤代表、偉かったよねって、よく決断したよねって。
高市総理の執行部の中に、公明党を理解している人が少なかったんじゃないか。その辺で連携が密に取れなかったんじゃないかという感じが私はいたします。
信頼関係があったら、もしかしたら乗り越えられたかな、離脱にはいかなかったのかな、みたいな感じはしますね」
さらに、自公連立の“蜜月時代”を知る自民党の大島理森元衆議院議長にも取材した。
大島氏は長年、幹部として政権運営に携わり、とりわけ公明党で国対委員長を務めた漆原良夫氏との密接ぶりが有名。その息の合ったところを「水戸黄門」などの時代劇に重ね合わせ、「悪代官と越後屋」の異名で呼び合うほどの仲だった。
大島氏は、「率直に言って残念だ。公明さんの政治とカネの問題の非常に厳しい姿勢というものをどの程度、自民党全体として受け止めたかどうか、こういうことであったと思います」と指摘し、次のように語った。
「高市総裁に決められた後、私はその前からでも参議院選挙終わってからでも、与党として26年間、違う政党が国の政治の責任を分かち合ってともに歩んできた仲間でございますので、いわば、この危機感の共有を自公でしてみて、そして何をどうすべきか話し込んでよかったんではないかなと思う」
大島氏と池坊氏に共通するのは“自民党側からの緊密な連携が足りなかった”との認識だ。
加えて、池坊氏は公明党支持者の中にあった「不満」についても指摘した。
「公明党の方ってね、特に(創価)学会の方は婦人部の方がすごく応援してくださるんだけれども、私利私欲ないから、本当に日本のために良くしたいと考えていらっしゃるんですよ。
皆して、自公だから応援しようよって言われたら、嫌だな、変だなと思いながら、自公の連立のためには応援しようと思って、応援していらした方が私、たくさんいらしたんじゃないかと」
実際、私たちが、連立離脱後、公明党本部が初めて開いた街頭演説会で支持者の声を実際に聞いてみると「やっぱり、さっぱりしたかな。公明党はもともとクリーンな政党ですので、本当に初心に戻って、これからまた、活躍していただけるかなって期待を持っております」という声が聞かれた。
公明党関係者が語った“離脱の引き金”
さらに、私たちの取材の中で、ある公明党関係者が、オフレコで次のような“内情”を明かした。
「連立離脱の流れができた大きな要因は、公明党の支持母体である創価学会の不満。衆院選、都議選、参院選の3連敗で運動員が相当疲弊していた」
そして高市首相によって、溜まった不満が爆発することになったという。
公明党関係者(オフレコ):
「直接的な引き金と言えるのは、高市政権の人事だ。公明党を『がん』と言った麻生さんを副総裁にし、公明党の推薦を要らないとしている木原稔さんと小野田さんを、ことごとく重要なポストに起用しようとした。これが引き金」
公明党支持者への取材でも、70代の夫婦から「今回の政権が誕生した時の人事のところとか、その辺を見ると、まさしく公明党どうでもいいやという、そういうような人事の形が見られた。どうせ下駄の雪だろうとしか思われてない。麻生さんが副総理になって、それから萩生田さんが幹事長代行、公明党なんかどうでもいいやという、そういう人事にしか見えないですよね」との声が聞かれた。
また、カメラを回さないことを約束に話を聞いた支持者の多くも、人事への不満を口にしていた。
公明党内に残る連立への未練
一方で、ある公明党関係者は、「本音では、高市政権が代われば連立に戻りたいと思っている」と、将来的な自民党との「再連立」の可能性に言及している。
私たちが47都道府県の地方組織の幹部に対して行った調査でも、興味深い結果が出ている。
今後も自民党と連立すべきでないと答えたのはわずか2県。「その他」の回答として、「政策、理念が一致すればありうるかもしれない(京都)」、「政策を実現することは重要であり、先々において自民党も含めその選択肢は様々ある(和歌山)」という声が寄せられるなど、45の都道府県が、将来的な連立に含みを持たせているのだ。
「決別」の一方に残る、自公の「友好関係」への未練とも言える思い。
26年間の関係の解消は、何かのきっかけで破綻する可能性を常にはらむ「連立」という政権の本質を表しているのかもしれない。
大島氏と池坊氏が語る自民・維新連立の課題
では、今回、高市首相が構築した、自民と維新による新たな連立政権の行方はどうなるのか。
連立の歴史を知る池坊氏と大島氏は、次のように語った。
池坊元議員:
「維新が好き嫌いは別ですよ。維新とあっという間に連立組んじゃったみたいな、そういう姿はね、ちょっと危ういなという感じがいたします。
連立を組むということは、一台に2人の運転手さんがいるということだと。自転車で2人乗りのがありますね、あれと同じだと思うんで、あれが噛み合わなかったらやっぱり進まないじゃありませんか、転んじゃいますでしょう。
国民のためにいい政治をするために、お互いに良い点を大切にしながら、進んでいきましょうという理念がないので、それはやっぱり、細やかな人間関係なのではないかなと思います。高市総理は正直言って誕生はあまり嬉しくなかったです。でも、今、一生懸命頑張ってらっしゃるなという気はする。
未来のため、10年後、20年後の日本を見据えてほしいと。私は切に希望します」
大島元衆院議長:
「連立というのは違う党が国の政治全体に対する責任を負わなければならないという基本を忘れてはならないことだと思うんです。途中でやめたっていうわけにはいきませんね」
「作ったらば維持していただかないと。政党と政党の信頼、議員と議員の信頼、リーダーとリーダーの信頼みたいなものが重なっていくことによって(自民・公明の)26年間の信頼関係が構築されてきたと私は思いますし、そういう努力をしていかなければならない。
何をやるにしてもよく話し合うことですよ。信頼を重ねるしかないんです」
【執筆:フジテレビ政治部】
