林業の盛んな宮崎県で、山林の無断伐採が後を絶たない。木を盗む目的で伐採する行為は「盗伐」と呼ばれ、森林窃盗罪に問われる可能性もある。被害者にとっては、納得しない形で勝手に木を切られ、罪に問えないことへの怒りがある。一方で、伐採した側は、あくまで「誤って切ってしまった」と主張している。現場を取材した。

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山林で木を伐採する場合は、市町村に伐採届を出すよう法律で義務付けられている。違反すると森林窃盗の罪などに問われる。無断伐採のうち、木を盗む目的で山林の所有者に無断で木を伐採することを「盗伐」という。

無断伐採、被害者の怒り

宮崎市の70代男性は、自身の山林が伐採されていることに気づき、深い怒りを抱えている。

2021年5月、串間市市木にある男性名義の山林が伐採されていることを、近隣に住む兄からの「山が切られてるぞ」という連絡で知ったという。

盗伐被害を訴える男性:
山に上がってきてみたら、まるっきり木がない状態だったのでびっくりした。

発端は、2020年秋ごろにかかってきた一本の電話だった。「山を売ってほしい」と持ちかけたのは、近くの山林の所有者だったという。

盗伐被害を訴える男性:
杉の値段など相場がいくらなのか全く知らなかったので、「今聞かれてもわかりません」と言って断った。

上空から確認された無残な光景

その半年後、兄からの連絡を受け、急いで駆けつけた男性の目に飛び込んできたのは、無残に伐採された山林だった。

無断伐採から4年半たった今、現場となった山林に取材に入った。山は荒れ果て、うっそうとした草木に覆われていた。

伐採された木が無造作に置かれ、その周りには草が生い茂っている。

上空からドローンで撮影してみると、山林にはすっぽりと穴が開いたように木々が失われているのが見て取れた。

盗伐被害を訴える男性:
盗伐する人も考えて分からないようにと思って切ったんだろうと思う。

検察は不起訴処分 民事訴訟で損害賠償請求へ

男性は、伐採業者や山林ブローカーなどを告訴した。

警察は森林窃盗罪と不動産侵奪罪で書類送検したが、検察は証拠関係に鑑みて不起訴処分とした。

不起訴処分を受け、男性は他の県内の被害者2人と共に、伐採業者や仲介者、さらに原木市場を相手取り、民事訴訟で損害賠償を求めることになった。

男性は、飫肥杉500㎥分・600万円と慰謝料など1353万円の損害賠償を求めている。

伐採業者は「誤伐」と主張する

原告側の只野靖弁護士は伐採の手口について「伐採届が出ていないにもかかわらず、許可なく伐採が行われている。手口としては、近隣の山林の伐採届が出ている」と話す。

弁護士によると、伐採届を提出した山林の周辺の木を誤って切ってしまった、というのが典型的な手口だという。

近くの山林所有者は「盗伐ではなく誤伐だった」と説明したという。

しかし、被害者男性は、汗を流して体力を使って大事に育ててきた山が一瞬にして失われたことに、「なぜ山主の許可もなく木を切ることができるのか。私の気持ちは激怒しかありません」と語気を強める。

「最後まで戦う」受け継がれてきた山林への思いは

祖父から父、そして子へと受け継がれてきた山林。

盗伐被害を訴える男性:
宮崎県の木材は日本一ということでうたっているが、その裏では盗伐で切られた杉などがかなりの量出ているんだなと感じた。それを許してはいけないと思い、最後まで戦おうと思っている。

木はなぜ無断で伐採されたのか。男性はその真相が知りたいと、戦い続けている。

なぜ無断伐採はなくならないのか

県の調査によると、無断伐採が確認された件数は2017年は42件とピークで、2024年は5件だった。なぜ無断伐採はなくならないのか、専門家に聞いた。

森林総合研究所・林業システム研究室 御田成顕室長:
森林所有者の世代交代も進んでいて、自分が所有する森林がどこにあるのか分からない、面積も分からない、境界も分からないといったような森林所有者が増えている。一方で、現在は木材が売れるようになったので、無断伐採が増えているのではないかと考えている。

林業が盛んな宮崎県では、全国的に見ても無断伐採の被害が多いという。というのも、宮崎県では木材の加工を行う製材業も盛んな地域のため、高い価格で木材が取引されている。そのため、杉は「盗む価値のあるもの」となっているのだという。

また、様々な場所で伐採が進んでいるため、白昼堂々と無断伐採が行われていても、あまり目立たないという状況もある。

持続可能な山林のために

無断伐採された山は再造林されにくい。そのため、山崩れや土砂流出といった土砂災害のリスクも高まる。

原木市場や行政には、伐採届の提出だけでなく、実際に現地を確認するなどの、より一層の確認体制が求められる。

森林総合研究所・林業システム研究室 御田成顕室長:
リスクの高い地域については、より一層の一段高い確認をして対応していくことが大事になってくる。行政には、所有者の境界を明確にしていくことを進めること、「無断伐採しにくい環境づくり」が、長い目で見たら重要になってくる。

一代で育てられるものではない木々。祖父や父が子や孫のことを思って育ててきた木が奪われることは、その思いまで一緒に刈り取られる苦しい心境なのかもしれない。自治体や司法、林業関係者、そして消費者も一体となって、無断伐採を防ぐ仕組みを構築し、持続可能な山林を目指す必要があるのではないか。

(テレビ宮崎)

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