特殊詐欺による被害が富山県内で急増している。先月までの被害額は9億円あまりと、すでに昨年1年間を大きく上回り、過去最悪を記録した。特に警察や検察を騙るオレオレ詐欺が全体の半数を占めており、新たな手口としてインターネットバンキングを悪用したケースが急増している。

被害額は去年の16倍 1億円超の高額被害も
「ある事件の犯人の自宅から、あなた名義の通帳が発見されました」
今年3月、富山市の70代男性の自宅に検察官を名乗る男から電話があった。

「捜査に協力しなければ、あなたを逮捕します。持っている現金をインターネット口座に送金して資金洗浄しなければいけません」

男性はその後、無料通信アプリ「LINE」でのやりとりを求められ、指示に従って複数のインターネットバンキングの口座を開設。結果として1億8100万円を騙し取られた。

県内では今年に入りインターネットバンキングを利用した特殊詐欺が18件確認され、被害額は4億6000万円を超え、昨年の16倍にまで膨れ上がっている。先月にも同様の手口で1億600万円あまりの被害が確認された。
新手口の特徴と手段

県警組織犯罪対策課の横山武彦次席は「インターネットバンキングを利用した詐欺は気付かれにくい。被害額が大きくなりやすい。犯人から指示を受けながら口座を作るため、暗証番号も犯人が既に知っているケースもある」と警鐘を鳴らす。


手口と流れはこうだ。まず警察官や検察官になりすました犯人が、ターゲットにネットバンキングの口座開設を依頼する。口座開設の過程で犯人がログインIDやパスワードを聞き出し、その後いつでも口座にアクセスできる状態を作り出す。そして被害者名義で詐欺グループの口座に送金する。
この手口の特徴は、時間を問わず自在に送金できるため、銀行に不審と思われにくい点にある。
なぜネットバンキングが狙われるのか
ネットバンキングは便利な一方で、詐欺に利用されやすい特徴がある。
第一に、開設が簡単である。銀行窓口への訪問や印鑑は不要で、アプリで個人情報を入力するだけですぐに開設できる。
第二に、第三者の介入が難しい。口座開設も送金もすべて自宅でスマートフォンを使って完結するため、周囲の人が詐欺に気づく機会が少ない。
第三に、振込上限額が高い。ATMは10万円が上限のケースが多いが、ネットバンキングは500万~1000万円と高額な設定になっている。犯人にとっては何度も振込を行う必要がなく、リスクが少ないのである。
防止策と注意喚起
大手の三井住友銀行では元警察官や専門家からなる「金融犯罪対策チーム」を結成し、口座への不審な入金や送金がないか24時間体制で監視しているが、銀行によって対策の強度に差があるのが課題となっている。

県警組織犯罪対策課の横山次席は「捜査機関がインターネットバンキングを作ってお金を振り込んでくれということは絶対にない。そういう電話があったら詐欺」と注意喚起する。

また最近は、警察や検察などの捜査機関を名乗る人物がLINEでのやりとりを求めるケースも増加している。県警は「捜査機関がLINEなどのSNSで連絡することはない」と強調。警察官などを名乗る人物から「捜査対象になっている」と言われた場合は、相手の名前や所属を確認し、家族や警察に相談するよう呼びかけている。
(富山テレビ放送)
