日本有数のミカンの産地・和歌山県では、猛暑の影響でミカン畑に異変が起きている。

“現在の産地では、今世紀末にミカンが作れなくなる”というショッキングな試算があるというのだ。

果樹研究の専門家:ミカンの適地が、そのまま適地として残る割合は、もう0%ということだ。

しかし人気が高まっているある果物が、ミカン畑の救世主になるかもしれない。

ミカン畑の異変とその救世主を徹底取材した。

■寒くなったらミカンの季節 しかし猛暑の影響で「木が弱っている」

一気に寒くなったこの季節、子供たちがやってきたのは、いまシーズンを迎えているミカン狩りだ。

収穫量が21年連続、日本一の和歌山県では、連日多くの人がミカン狩りを楽しんでいる。

しかし、ミカン農園では、ある“異変”が起きていた。

森農園 森美彰さん:この辺なんて、かなり厳しいですよね。全体的に葉っぱが少なくて、ダメージが大きいかなと。

(Q.何のダメージを受けている?)
森農園 森美彰さん:暑さのダメージかな。

なんと、猛暑の影響でミカンの木が弱っているというのだ。

全体的に葉っぱが少なくて、ダメージが大きいミカンの木
全体的に葉っぱが少なくて、ダメージが大きいミカンの木
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■ことしの猛暑で収穫量は例年の6割 ため池は枯渇

(Q.ことしはこの木から収穫は?)
森農園 森美彰さん:ないです、ないです。この辺一帯、収穫はほとんどないです。来年も収穫は期待できないのかな。

こちらの農園では暑さの影響で、ことしの収穫量は例年の6割程度。

特にことしはため池が一時、枯渇するなど影響が大きかったという。

森農園 森美彰さん:違う池から水をタンク積んで何往復もして水を入れた。人力なので限界がある。水不足が来年のミカンに影響してくる。もうどうしようもない(気候は)コントロールできないので、(暑さ対策など)こちらが対応していくしかないのかな。

実はミカンの収穫量は年々減少していて、後継者不足や暑さなどの影響によって、ピーク時のおよそ6分の1にまで減少。

ミカンの収穫量は年々減少 ピーク時のおよそ6分の1に
ミカンの収穫量は年々減少 ピーク時のおよそ6分の1に

■今世紀末には現在の生産地でミカンが作れなくなる ショッキングな発表

さらに農業分野の研究機関「農研機構」がことし、衝撃的な発表をした。

それは、地球温暖化の有効な対策をしなかった最悪の場合、「今世紀末には現在の生産地で、ミカンが作れなくなる」というもの。

農研機構 果樹茶業研究部門 杉浦俊彦さん:(ミカンは)年平均気温が15度から18度の範囲で作られてますので、気温が非常に高く上がるというシナリオだと、ミカンの産地・現在の適地が、そのまま残る割合は0%。

温暖化が進むとミカンの生産地は気温が低い地域へと北上し、現在の産地では栽培が困難になる見通しだということだ。

今世紀末には現在の生産地で、ミカンが作れなくなる
今世紀末には現在の生産地で、ミカンが作れなくなる

■ミカンの代わりに!? 「森のバター」アボカド

そんな中、注目されているフルーツがあるという。

農研機構 果樹茶業研究部門 杉浦俊彦さん:ミカンが作れないほど、気温が高くなってしまう所では、そこはもう亜熱帯地域になってるということになりますので、アボカドなんかは比較的作りやすいです。

中南米が原産で「森のバター」と呼ばれているアボカド。

美容や健康にも良いビタミンやカリウムが豊富で、「世界一栄養価の高い果物」としてギネスにも認定されている。

刺身で食べたり!サラダに入れたり!ドリアの中にも!アボカド料理のレパートリーは多種多様だ。

ダイニングバー『サントロペ』 太田黒進司オーナー:いろんな可能性があると思いますね。わざわざアボカドが食べたくて訪ねて来られる方もいます。

現在、日本では大半がメキシコなどからの輸入に頼っているが、国内の生産も増えていて、収穫量は8年間でおよそ170倍に。

「森のバター」と呼ばれているアボカド
「森のバター」と呼ばれているアボカド

■スーパーで1個1500円 人気品種「ベーコン種」

そこで取材班は、昔からアボカドが栽培されているという和歌山県海南市へ向かった。

ことし8月に「伝統のみかん栽培」が世界農業遺産に認定されたこの地域で、ミカンと共にアボカドを育てる農家のもとへ。

早速、斜面を登って案内してもらうと…。

橋爪農園 橋爪道夫さん:(アボカドの)ベーコン種です。
(Q.何年前に植えたんですか?)
橋爪農園 橋爪道夫さん:40年前ですね。

あった!アボカド。収穫時期ということで、多くの実がなっていた。

(Q.和歌山でもできるんですね)
橋爪農園 橋爪道夫さん:和歌山でも海岸に近い所。この海南市・下津は両方が海に囲まれている。温暖な地域で冬場を過ごせたら、できるようになる。

この農園ではスーパーなどで見かけるごつごつした皮の「ハス種」に加えて、寒さに強く、滑らかで薄い皮が特徴の「ベーコン種」も育てていて、特にベーコン種は人気だという。

橋爪農園 橋爪道夫さん:すごい人気やね。このアボカドのベーコン種は。問い合わせが毎年殺到している。スーパーで1個1500円ぐらいで売れる。

(Q.味は違う?)
橋爪農園 橋爪道夫さん:味が全然違う。クリーミーやね。プリン食べるような感じで食べられる。脂肪分が乗っているので、非常にうまい。

ごつごつした皮の「ハス種」、滑らかで薄い皮が特徴の「ベーコン種」
ごつごつした皮の「ハス種」、滑らかで薄い皮が特徴の「ベーコン種」

■110年前に日本にやってきたアボカド 静岡や愛媛でも「日本一」目指す

およそ40年前にアボカドの栽培に乗り出したという橋爪さん。

和歌山県によると、多くの人に苗木を提供して栽培を広めていて、“アボカドの先駆者”とも呼ばれているという。

(Q.国産のアボカドはいつから?)
橋爪農園 橋爪道夫さん:和歌山県に入ったのは結構早い。今から60~70年前から入ってきている。

アボカドの歴史などについて書かれた本によると、アボカドは110年前に初めてアメリカから持ち込まれたが、寒波によって枯れてしまった。

その後、和歌山県内の農家らが栽培に成功したという。そのため和歌山県では、ミカンだけでなくアボカドの収穫量でも長年上位となっている。

そんな中、ミカンの収穫量で和歌山県に負けている静岡県と愛媛県が、アボカド栽培に力を入れ始めていて、「アボカド産地日本一」を目指している。

橋爪農園 橋爪道夫さん
橋爪農園 橋爪道夫さん

■成功するには“アボカドの研究が必要” ミカン王国の救世主となるか

各地の“ミカン王国”で活発になっているアボカド栽培。

橋爪さんはこうした取り組みが成功するには、「日本の風土に適したアボカドの研究が必要だ」と話す。

橋爪農園 橋爪道夫さん:“どこでもできる”、“温暖化やからトロピカルフルーツやから大丈夫”そんな考えじゃ、なかなか(うまく)いかない。私でものたうち回っているんで、難しくて。

“ミカン王国”に危機が迫る中、アボカドはその救世主となれるのだろうか。

(関西テレビ「newsランナー」2025年11月18日放送)

橋爪農園 橋爪道夫さん
橋爪農園 橋爪道夫さん
関西テレビ
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