大阪・関西万博の「スシロー未来型万博店」で提供されていた、鹿児島県南大隅町の養殖カンパチが注目されている。天然資源に頼らず養殖されたこのカンパチ、持続可能な漁業を目指す独自の取り組みで「未来の魚」として期待される。
日本一のカンパチ産地を支える大隅半島
鹿児島県は日本一のカンパチ産地として知られている。主要な産地は垂水市、鹿屋市、錦江町、南大隅町といった、錦江湾に面した大隅半島の自治体。中でも南大隅町の沖合は、特に注目すべき養殖場となっている。
小浜水産グループ(本社・垂水市)の小浜洋志副社長は「南大隅、根占の漁場の特徴は潮流が速い。潮流が速いということはきれいな水が入れ替わるということなので水質が良く、魚の育ちが良い」と説明する。
「完全養殖」に取り組み10年 資源保護に貢献
この養殖場で育てられているカンパチには大きな特徴がある。鹿児島産カンパチの約8割は、自然界で育った稚魚「天然種苗」を使用して養殖されている。しかし、天然種苗は国内で十分な量を確保できず、多くを輸入に頼っているのが現状だ。
一方、小浜さんのカンパチは垂水市で生産された稚魚から人の手で育てられた「完全養殖」だ。限りある水産資源を守るため、「人工種苗」を使う「完全養殖」を広げることが「持続可能な漁業」のためには急務とされている。
小浜さんは時代に先駆けて10年前に完全養殖を始めた。当初は稚魚が全滅することもあったが、消毒などの管理を徹底し、現在では7割ほどを出荷できるまでになったという。

コスト削減が思わぬ効果 品質向上と環境改善
小浜さんのカンパチ養殖には、エサやりにも大きな特徴がある。きっかけは「赤字」だった。
「コストが全然合わなくなった。生産コストを下げるしか方法がなくて、エサ代が経費の7割を占める業種なので」と小浜さんは振り返る。
そこで小浜さんが試みたのは、エサやりの回数を半分に減らすことだった。苦肉の策とも思えるこの方法、実はカンパチの習性にぴったり合っていたのだ。「連続して給餌をすると吐き戻しもけっこう見えて、それを自分たちの目で確認しながら適切なタイミング、成長速度を追いながら時間をかけてやってきた」

回数を減らす分、エサの質にはとことんこだわり、「魚にとっていいもの」を与え続けたところ、エサ代は安くなったのに、おいしいカンパチができあがった。また、エサやりの回数を減らすことは環境にもメリットがあった。「残餌やふんが海底にたまって赤潮が発生したりするが、ここ最近、錦江湾は赤潮の被害もなく、環境も良くなってきている」と小浜さんは説明する。
「未来に続く寿司 味も良い」スシローでも高い評価
この取り組みに注目したのが大手回転寿司チェーンの「スシロー」だ。10月13日に幕を閉じた大阪・関西万博の「スシロー未来型万博店」では、「あしたのサカナ」として「秘蔵っこ鹿児島カンパチ」の名で提供された。

スシローを運営するFOOD&LIFE COMPANIES・小澤魁人さんは「元々天然になかった魚を使っているので、これが持続性のある養殖の形になる。その形に注目して、カンパチでは珍しいので『未来にも続いていく寿司』というメッセージを込めた。小浜さんのカンパチは非常に脂乗りが良くて味もある」と評価している。
世界を見据えた未来の養殖へ
現在、小浜さんのカンパチは首都圏に出荷されており、地元で食べられる機会がないが、2026年春頃には小浜さんが育てたアカバナ(カンパチが成長したもの)が、スシローで提供される予定だという。
養殖の未来を見据える小浜さん。「全部、私のグループを人工種苗、未来への魚に変えて、それを全世界に出荷するのが最終的な目標」と語る。
大隅から世界へ。日本一のカンパチ養殖の現場で水産資源を守る地道な取り組みが続けられている。
(動画で見る:「スシロー未来型万博店でも提供! 「完全養殖カンパチ」の秘密に迫る」)
