高齢化で防犯ボランティアの担い手が減少する中、広島県警が新たに結成したのは“犬のパトロール隊”。日課の散歩を通じて地域を見守る「広島ワンパト隊」の活動に密着した。
散歩の時間が「パトロール」に変わる
広島市佐伯区で暮らす永冨友美さんの家には、2匹のトイプードルがいる。
好奇心旺盛で人が大好きな「コロ助」と、恥ずかしがり屋の「佐助」。この2匹こそ、広島県警が10月に結成した「ワンワンパトロール隊」略して「ワンパト隊」の新米隊員だ。

テレビ新広島の岡野キャスターが永冨さんの自宅を訪問。
「はじめまして、TSSの岡野と申します。新たに隊員になられた方ですか?」
永冨さんは笑いながら答えた。
「私じゃなくて、この2匹が隊員です」
「ワンちゃん?リアル犬のおまわりさん!」
鼻を利かせてゴミ拾いも!?
活動の基本は、いつもの散歩。
「1日に少なくとも3回は散歩に行っています。長いときは2~3キロ歩くので、どんどん突き進む感じです」

歩きながら、不審な人がいないか、街に変化がないかをチェック。いわば、お散歩しながら地域を見守る「ながら見守り」である。

コロ助が突然、何かを見つけた。
「何をくわえているんでしょうか」
「ゴミです。ゴミも拾ってくれるんです」
一方の佐助は、公園で地面のにおいを念入りに嗅いでいる。
「この公園はペットの散歩でにぎわうので、いろんなワンちゃんのにおいが残っているんです。野良猫も結構います」
犬ならではの目線と嗅覚で異変を察知し、地域を守る。そんな能力に県警は期待している。
きっかけはSNS、県内115匹が入隊
永冨さんが「ワンパト隊」の存在を知ったのは、9月にSNSで見た募集告知だった。
「もともと散歩が好きなので、2匹が地域のパトロールを“クンクン”しながらできたらいいなと思って応募しました」
取材の途中、突然、玄関へと駆けだした2匹。ドアの向こうにいたのは不審者ではなく、夫の隆弘さんだった。人の気配に敏感なところも防犯活動に生かせるかもしれない。

10月17日、佐伯区でワンパト隊の発足式が開かれた。広島県警生活安全総務課の竹重幸司課長は語る。
「普段の散歩を通じて、地域の安全・安心を醸成していただければ」

ワンパト隊の認定証を受け取り、コロ助と佐助も誇らしげな表情。この日までに県内で115匹が入隊しており、今も仲間を募集中だ。
永冨さんは微笑みながら言う。
「地域の皆さんの役に立てるように、2匹が貢献してくれたらうれしいです。がんばります、2匹が」
減り続ける「防犯ボランティア」
ワンパト隊発足の背景には、児童の登下校などを見守る「防犯ボランティア」の減少がある。

県警によると、2010年に約5万1854人いた登録者は、2024年には2万9762人にまで減少。この15年で約4割減った。要因として、人口減少と高齢化による“なり手不足”があげられる。
地域を見守る目を減らさないために――。県警は「散歩」が防犯活動になる新しい仕組みとして、犬たちに希望を託した。
ワンパト隊への登録は、広島県警のホームページから誰でも申し込むことができる。
さらにユニークな“昇段制度”も。隊員犬は1年間の見守り活動を委託され、委託回数を重ねると「新隊員」から「達人」「師範代」、そして「師範」へ階級アップしていく。
新米隊員のコロ助と佐助は、地域の平和のため、今日も鼻を利かせながらパトロール中だ。
(テレビ新広島)