北九州市若松区にある『響灘緑地グリーンパーク』。その中の人気エリアのひとつ『ひびき動物ワールド』には、国内最多の飼育頭数を誇るカンガルー広場がある。
ここには、或る特殊な能力を持つ“スーパー飼育員”がいるという。早速、訪ねた。

それぞれ違うカンガルーの顔
カンガルーの飼育員をして5年になる植村祥伍さん。植村さんが持つという特殊な能力を見せてもらった。

カンガルー広場を歩き回りながら「この子は、ムラサキです。その隣は、カップです。こちらが、フェニックス」とスラスラと名前を呼ぶ植村さん。
取材した記者は「全然、分からないです。顔を見ても分からない。同じ感じに私は見えるんですけど、違うんですよね」と首を傾げる。植村さんとともにカンガルーに近づき、それぞれの顔を見るのだが、全く違いが分からないのだ。
植村さんによると「顔が違います。人の顔が違うようにカンガルーの顔も違う。それを見分ける」のだという。
植村さんが持つ特殊能力。それは91頭いるオオカンガルーの顔を1頭ずつ、完璧に見分けられる能力なのだ。

カンガルーを見分ける“基本は目”
記者が、無作為に指差してカンガルーたちの名前を尋ねてみると植村さんは「マイタケです」と即答。

機器を使い、それぞれの背中に埋め込まれた個体識別のマイクロチップを確認すると「8897マイタケ」。正解だ。

植村さんは、いったい顔のどこを見ているのか?尋ねると「基本は目」だという。
植村さんの能力について、同じ園の飼育員の桝永蒼さんは「すごいです。顔だけで識別は難しい。特殊能力だと思います」と舌を巻く。

他の飼育員は、毛の色や毛並み、体にできた傷などで判別しているが、植村さんは『顔』だけで判別しているのだ。

植村さんに最も可愛いカンガルーを尋ねると「容姿端麗で整っています。この子です」と教えてくれたユウガオ。
「垂れ目なんです。目が他の子と違うんです。キラキラしています」と植村さんは笑った。
子どもの頃から憧れていた飼育員
大学卒業後、教師として働いていたものの29歳の時に転職した植村さん。「到津の森公園の前園長と話す機会があって、飼育員への気持ちが高まって転職を決めました」という。
もともと、子どもの頃に飼育員に憧れていて、その夢が大人になってからも頭の隅にずっとあったそうだ。

北九州市の動物園『到津の森公園』の飼育員を経て、5年前から現在の『ひびき動物ワールド』でカンガルー担当の飼育員として働いている植村さん。「好きこそ物の上手なれ」。日々、カンガルーの顔を見て個体識別チップで確認し、照らし合わせを繰り返すことで全てのカンガルーの顔を1年ほどで覚えたという。

植村さんが、おばあちゃんカンガルーと紹介してくれたのはクレオ。カンガルーの平均寿命は15歳のなか、クレオは21歳。人間でいうと100歳を超えている。顔の特徴は彫りが深いことらしい。
一方、母親の袋からちょっとだけ出ている赤ちゃんカンガルー。名前は、来園者の投票で決めるので、まだない。袋の中を覗くと、お昼寝中だったようだ。
止まらない“カンガルー愛”
「ずっと見ていても飽きない動作とか、カンガルーにしかない魅力とか、それを来園者にも感じて欲しい。来園者にも観察して頂いて、ぜひ名前を覚えて“推し”見つけてもらいたいです」

“カンガルー愛”が止まらない植村さんに、カンガルーの顔を認識できる能力がどんなことに役立つかを尋ねると「前日に体調が悪そうだったカンガルーの状態を翌朝に来て、すぐに確認できることやチップを読み込む手間が省けるので、ちょっとだけ迅速な健康管理には役立つというだけで、他には役立ちません」とあっけらかんと笑った。
(テレビ西日本)
