少子高齢化の影響で、骨髄移植のドナーが減少する懸念が高まっている。そんな中、アートを通して「命のつながり」を伝えようと動き出した一人の女性がいる。自身もかつて移植医療で命を救われたバレエ講師の挑戦を追った。

命をつなぐアートイベント

広島・廿日市市のダンススタジオ。バレエ教室を主宰する三木まりあさんは、2025年7月に「アートリンク」という団体を立ち上げた。10月12日、地元の商業施設「フジグランナタリー」で開かれる初イベントに向け、仲間たちと舞台の稽古を重ねている。

初イベントに向け、仲間と動きを合わせる三木さん(左)
初イベントに向け、仲間と動きを合わせる三木さん(左)
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「子どもから大人まで、踊りや音楽など幅広いアートを通して、人と命のつながりを自然に感じてもらいたい」と三木さん。

10月12日に開かれる初イベントのポスター
10月12日に開かれる初イベントのポスター

イベントは観覧無料。献血活動や骨髄移植の紹介を交えながら、堅苦しくない形で命の大切さを伝える。

13歳で襲った病…「ドナーは神様」

三木さんがアートイベントに込める思いには深い原点がある。
3歳でバレエを始め、バレリーナを夢見ていた13歳の時、突然「急性骨髄性白血病」と診断されたのだ。

急性骨髄性白血病で入院していた頃の三木さん
急性骨髄性白血病で入院していた頃の三木さん

「腰がすごく痛くて、熱も出て…学校に行けなくなりました。抗がん剤の副作用として吐き気や脱毛がひどく、絶望でした」
治療には骨髄移植が必要だった。3カ月後、ドナーが見つかり移植は成功。三木さんはその時の思いをずっと大切にしている。
「ドナーは神様のような存在です。神様が私の中に入ってきて、私を生かしてくれている気がします」
移植から十数年、ドナーの存在は三木さんの人生を変えた。症状が軽い時は再びステージに立てるようになった。
「自分が救われた経験を、次の誰かへつなぎたい」
2024年7月、三木さんが開いた初の発表会で配られたのは骨髄移植のリーフレットだった。

高齢化の影響で減りゆくドナー登録者

現在、国内で臓器や骨髄などの移植を待つ人は約1,800人。年間3,600~3,700人が移植治療を受けているという。

年代別ドナー登録者の割合。40歳以上が約6割を占める
年代別ドナー登録者の割合。40歳以上が約6割を占める

移植医療の現場を支えるのは「骨髄バンク」に登録する約56万人のドナーたち。しかし、そのうち約6割が40歳以上だ。日本の総人口の年齢構成を見ると、最も少ないのは0~4歳の約386万人、最も多いのは50~54歳の約980万人。骨髄バンクに登録できるのは54歳までなので、今後この“ボリュームゾーン”が上の世代に移ると、移植医療を支えるドナーの数がさらに減る恐れがある。

広島大学病院・血液内科の一戸辰夫診療科長は「残念ながら日本は、毎年40歳以上のドナーが抜けていくと登録者数も減ってしまう危機に直面している」と指摘する。

“分けてあげる”思いを持って

三木さんたちの挑戦は、その危機を乗り越えるための一歩でもある。
「献血も移植も“分けてあげる”という思いが大事だと思います。楽しいイベントを通して、その思いを自然に持ってもらえれば」

ART LINK 代表理事・三木まりあさん
ART LINK 代表理事・三木まりあさん

今も骨髄移植を待つ患者にとって、ドナーは希望そのものだ。
「助からないのに移植はやらない」という医師の言葉に勇気づけられた患者もいる。この夏、慢性骨髄性白血病の急性転化を告知された患者は、感情を抑えつつ「子どもの成長をもう少し見たい」と語った。

骨髄移植を受けた13歳当時の三木さん
骨髄移植を受けた13歳当時の三木さん

誰かの勇気が、誰かの命を救う。
「ドナーがいなかったら今の私はいない。命をつないでくれた恩人だと思っています」
ダンスと音楽と移植医療。三木さんたちの活動は、“命をつなぐ勇気”を広げている。

「アートリンクフェス」
▷日時:10月12日(日)10:00~16:00
▷場所:廿日市市「フジグランナタリー」1階 特設会場

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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