提供者=ドナーの臓器を必要とする移植医療。日本では、年間約1万5000人の人が臓器の提供を待っている。広島で心臓移植を受けた男性を取材した。

26歳で突然感じた体の異変…病名は「特発性拡張型心筋症」

今から4年前の2018年。森原大紀さんは当時、高校教師をしていた。かつてレスリングの国際大会で実績を残すなど、体力に自信があった大紀さん。突然、体に異変を感じたのは26歳の時だった。

森原大紀さん:
息ができなかった。普通に仕事をしていても動悸がすごくて、はぁはぁって

医師から告げられた病名は「特発性拡張型心筋症」。1万人に1人の難病で、どんどん病状は進行し、生きる道は心臓移植しかない。

この記事の画像(12枚)

「何を言ってるんだろう、みたいな。冗談だろうなって思っていました」と当時の心境を語る。病状が悪化する中、大紀さんは「バド」と呼ばれる補助人工心臓装置を体に埋め込み、心臓移植を待つことになった。

補助人工心臓装置とは、心臓に取り付けられたモーターをケーブルで外部バッテリーと接続し、24時間心臓の動きを助ける機械である。心臓移植を待つ患者の多くは、このような機械をつけている。大紀さんは、そのコントローラーとバッテリーが入った鞄と生活をともにしていた。

心臓移植までの平均的な待機期間は約3年4カ月。機械の故障は死につながる。大紀さんが補助人工心臓装置を付けて、3年が経過した。

「何かのきっかけで移植医療を知ってほしい」

日本で心臓移植を待つ人は年間約900人。その中で移植できるのは50人程度で、移植を待ちながら亡くなる人も少なくない。その移植には、提供者=ドナーの臓器が必要である。心臓を含むすべての臓器を合わせると、年間約1万5000人が臓器提供を待っている。

臓器の提供方法
○死後の臓器提供…腎臓、膵臓、眼球の3つが移植可能
○脳死後の臓器提供…心臓、肺、肝臓、小腸、腎臓、膵臓、眼球の7つが移植可能
○健康な人からの生体移植

臓器提供の意思表示は、以前は臓器提供意思表示カードだけであったが、今は運転免許証や保険証の裏側などでもできるようになり、「提供しない」と示すこともできる。
しかし、街の人に聞いてみると、無関心な現状を目の当たりにした。

(Q.臓器提供の意思表示について、するかしないか○を付けたことはありますか?)
A.ないですね。悩んでいて決めかねているというのが理由です

.何も書いてないです。普通の生活をしていたら、そこまで聞かないので

A.今は書いていません。あまり自分事と思えていない

人口100万人あたりの臓器提供者数を見ると、日本は先進国の中で圧倒的に少ない。その数は、移植医療が進むスペインの50分の1。

大紀さんも、病気になる前は臓器提供に無関心な人の一人だった。「自分自身もかつては知らなかった。何かのきっかけで移植医療を知ってもらうために、しっかり生き抜かないと」と語る。

大紀さんは、臓器提供の現状を知ってもらうために奔走した。母ゆう子さんと妻リンジーさんが支える中、講演会などの活動を行うようになった。

講演中の森原大紀さん:
いっぱい泣きました。なんでって思ってね。なんで自分がって...

補助人工心臓装置を付ける人は、24時間介助が必要だ。大紀さんを介助する母ゆう子さんは、複雑な想いも抱えていた。

大紀さんの母 ゆう子さん:
本人に元気になってほしい。でも、命をつないでくださる方がいるわけだし、その人にも家族がたくさんまわりにいらっしゃって、喜んでばかりじゃない。そこには、きっと悲しみもある。すべて万歳万歳、良かった良かったと言えるかどうか自信はない。

臓器提供には、誰かの死と、その家族の決断がある。大紀さんは、「今日が最後の日かもしれない」と覚悟して生活していた。大紀さんの補助人工心臓装置のケーブルは年数が経つにつれて劣化し、もう限界がきていたからだ。新しいケーブルに変えることは不可能だった。

追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスの感染拡大が移植医療にも影を落とし、臓器提供者は半分近くにまで落ち込んでいた。

待ち望んだ移植手術…ドナーから引き継いだ心臓が次世代へ命つなぐ

そんな中、大紀さんに提供者が現れた。待ち望んだ手術は約9時間に及んだ。大紀さんの移植手術は成功。ドナーの心臓が新しい人生をくれたのだ。しばらくの療養を経て、広島へ帰ってきた大紀さんのかたわらには、もう補助人工心臓装置が入った鞄はなかった。

森原大紀さん:
(コントローラーとバッテリーが入っていた鞄やケーブルが)なくなって、今、ここにドナーさんの心臓が動いています。

大紀さんは、手術後も移植医療を知ってもらうイベントを企画。「決して他人事ではない。多くの人に考えてもらいたい」と伝え続けている。

そして2022年。大紀さんは妻リンジーさんの出産に立ち会っていた。陣痛に耐える妻の手をにぎる。元気な産声とともに、新しい命が誕生した。
その場でおもむろに服を脱ぎだした大紀さん。生まれたばかりのわが子を抱きかかえ、そっと自分の胸に近づけて、ドナーから引き継いだ心臓に新しい命を重ね合わせた。

森原大紀さん:
臓器提供してくださった方のご意思であったり、ご家族のご意思がなかったら、たぶん僕はここにはいなかった。この子もこの世には生まれていなかった。より生きていることに感謝だなと改めて思いました。

大紀さんの妻 リンジーさん:
ドナーが新たな命を与えてくれました。何よりも感謝しています。私たちはこれから、家族で思い出をたくさん作っていくことになる。人生が変わっていく。(赤ちゃんを見つめながら)あなたも、これからいろいろなことができる。たくさんの可能性がある。

移植でつながった新たな命が動き出した。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。