物価高騰が続く中、平均15%という大幅な賃上げを実現したIT企業が宮崎市にある。地方にありながら、首都圏と変わらない給与水準を実現しているという。「賃上げ=コスト」ではなく「社員の成長が会社の成長」と掲げ、「人への投資」を理念に掲げる戦略に迫る。
宮崎の賃上げ、全国平均下回る

連合宮崎の調査によると、2025年3月から8月末までの104組合の平均賃上げ額は月1万1265円、平均賃上げ率は4.31%となり、初めて月1万円を突破した。しかし全国平均を見ると平均賃上げ率は5.25%で、宮崎は全国平均を0.94ポイント下回っているのが現状だ。
平均15%賃上げを実現したIT企業
こうした状況下で、実に15%もの賃上げを実現した企業が宮崎市にある。アミュプラザみやざきにオフィスを構えるIT企業「クラフ」だ。

同社はWebアプリなどをサイバー攻撃から守るサイバーセキュリティ事業を展開し、約150人が働く。2024年10月から2025年9月にかけての平均賃上げ率が15%に達した。(同社は9月決算)

クラフ 金内忍取締役:
賃上げを意識しているというよりは、社員の成長に伴った賃金上昇があるからこそ、そういった水準になっている。企業では賃上げ=コストという言い方をするが、クラフは社員の成長が会社の成長。
理念は「人への投資」
創業8年目を迎えるクラフは、3年前に「年齢給」から「成果給」に切り替えた。

入社3年目 松岡大樹さん:
仕事の成果がそのまますぐに給与に反映されるというのは、頑張ったらこれだけもらえるようになるのかもなと思える。モチベーションにはつながる。

同社の企業理念は“人への投資”。給与アップに加え、新人には1年間の教育期間を設けるなど、人材育成にコストをかけている。徹底的に人を育てる環境作りが功を奏し、売上高は毎年伸び続けているという。

クラフ 金内忍取締役:
教育コストは大企業で1〜2%と言われているが、これに対して4〜5%をかけている。育てるコスト、成長につながるための源泉は非常に高い水準。

また、評価制度を明確にすることで、社員のモチベーションアップを図っている。
入社3年目 松岡大樹さん:
毎月上長と面談をしていて、1年後、3年後、5年後の自分の目標とする役職、給料も設定しているので、それに向けてどういった動きをしていけばいいかということを話している。(給与が)上がらなくなったとかで不満に感じることは少ない。
首都圏と変わらない給与水準

8月に東京のゲーム業界からクラフに転職したばかりの品田篤志さんは、エンジニアの採用担当として働いていた経歴を持つ。宮崎での給与について尋ねると「結論から言うと(首都圏と)ギャップは感じていない。水準もさほど変わらない」と断言した。
宮崎にいながら首都圏と変わらない給与を実現できる背景には、顧客が全国にいるというIT業界ならではの強みがある。その一方で、厳しい競争にさらされるため、社員には全国水準の技術が求められる。
地方創生のモデルケースを目指す
同社は業績向上に向けて、今後の賃上げにも前向きな姿勢を見せる。

クラフ 金内忍取締役:
根源となる社員の成長に対して、どれだけ会社が向き合えるか。(昇給は)10%とは言わず、20%、30%やれる年度があってもいい。

クラフは賃上げを継続し、5年後の2030年までに社員を現在の約150人から1000人規模に拡大する計画だ。

クラフ 金内忍取締役:
日本では今、人手不足と言われて人口が下がる中で、地方は可能性がすごくある。モデルをいかに作って展開していくかというところに意義がある。宮崎でやれたモデルを違う地方に展開することで、日本の生産労働性が下がっていくところをカバーしていく企業になりたい。

人材獲得競争が激しくなる中で、賃金アップに加えて、入社後の社員一人一人への人材育成にどれだけ費用をかけられるかも、企業の成長を左右する局面となっている。
(テレビ宮崎)