富山県は観光客の「入り込み数」は増えているものの「宿泊者数」は伸び悩んでいる。いわゆる「素通り県」からの脱却を目指し、県内各地で夜や早朝に楽しめる観光コンテンツの磨き上げが進んでいる。
■全国39位の宿泊者数 「通過型」観光地からの脱却へ
今年1月、アメリカの有力紙ニューヨークタイムズが発表した「今年行くべき52か所」に富山市が選ばれ、国内外から注目を集めている富山県。県が今月発表した観光統計によると、昨年の観光客入り込み数は3842万人に上った。能登半島地震の影響もあり前年比1.3%減少したものの、北陸新幹線開業前の2014年からの10年間では2番目に多い数字となっている。
しかし、宿泊者数は376万人と伸び悩み、全国では39位にとどまっている。北陸新幹線の敦賀延伸効果もあり、昨年は福井県の順位を下回った。観光客は訪れるものの、宿泊地として選ばれていない「素通り県」「通過型観光地」の実態が浮き彫りになっている。
県は宿泊者数を403万人(27万人増)、観光消費額を2250億円(435億円増)とする新たな計画を策定。「点ではなく面として観光スポットがあれば滞在時間が長くなり、宿泊したいと考える方も増える」と観光戦略課の久崎みのり課長は話す。
■「ナイトタイムエコノミー」で魅力を増す各地の取り組み
夜間の観光や飲食などの活動の場を増やし、経済を活性化させる「ナイトタイムエコノミー」が注目されている。夜や早朝にしか体験できない魅力的なコンテンツを提供することで、観光客に宿泊してもらおうという戦略だ。
「日本のベニス」とも呼ばれる射水市を流れる内川沿いの新湊では、昨年3月から週末限定でナイトクルーズを開始した。川から港へ、新湊大橋をくぐり、海王丸パークへと向かう夜の船旅は昼間とは違う街の表情を見せている。
木彫りの里として知られる南砺市井波では、今年4月にアメリカの旅行雑誌が発表した「世界の静かな場所50選」に選ばれた。瑞泉寺では昨年から「ナイトミュージアム」を開始し、夜間のライトアップで昼間とは異なる彫刻の緻密さを堪能できる。
「昼間は逆光で見えないんですよ」と解説するのは彫刻士の野村清宝さん。「素晴らしい井波彫刻の中でも最高傑作と呼ばれる彫刻がこの中にある。150名井波彫刻の職人がいるけれど、ほとんどの人が親方から『太子堂を見て来い』と。これは井波彫刻の手本、教科書です」
このほか、黒部峡谷鉄道のトロッコ電車では今月からナイトツアーが始まり、高岡の雨晴海岸では早朝の景色を貸切タクシーで巡るツアーも実施されている。
■「推し旅」の魅力を発信することが鍵
航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんは「何か人を惹きつけるような1つのきっかけが大事。目的を持った旅、そこの土地で何を楽しむかを考えた上でルートを決める『推し活ならぬ推し旅』が中心になってきている」と指摘する。
また、鳥海さんは「各個人における推しを富山県内でどれだけ作れるかがカギになる。ネット時代、魅力的なコンテンツがあっても消費者に届かなければ予約の段階までいかない。どうPRしていくかが大事になる」と話す。
金沢が北陸の旅行の中心となっている中で、北陸新幹線の福井延伸により「金沢+もう1か所」として富山と福井のどちらを選ぶかという競争も生じている。富山に行く「目的のあるなし」がより重要になってくるという。
「北陸3県での観光や食の魅力の差別化」「インバウンドと国内観光客へのアプローチの使い分け」「この宿に泊まりたいという宿泊施設の充実」が今後のポイントとなりそうだ。