9月15日は敬老の日、特集は94歳、元気いっぱいの現役理容師です。長野県小諸市の理容院にハサミを握り続けて70年以上のベテランおばあちゃんがいます。お客さんとのやりとりが生きがいで、体が動く限り続けていきたいと意気込んでいます。その元気の秘訣は毎日の暮らしにありました。


慣れた手つきで髪の毛がカットされていきます。ハサミを持つのは、10月、95歳になる小林その子さん(94)。小諸市にある小林理容院で、ハサミを握り続けて70年以上。今も元気いっぱいの大ベテランおばあちゃんです。

小林理容院・小林その子さん:
「喜んで(仕事を)やっています。いろいろなお客さんと接することができるから喜んで(仕事を)やっています」

小林さん:
「結構、(髪)伸びましたわね」

常連客・山崎さん:
「伸びた?」

この日、カットに来ていたのは常連客のひとり。近くに住む山崎克也さん(78)は、子どもの頃から小林さんに髪を切ってもらっているといいます。※(「崎」のつくりは「立」に「可」)

長年の経験で体に染み込んだ散髪の腕は、94歳でありながら年齢を感じさせない手際の良さ。

山崎さん:
「(小林さんは)みんなに愛されているんじゃないですか。小林さんじゃなきゃいやだという人がたくさんいるようで」

シャンプーが終わると山崎さん、何も言わずに頭を洗髪台へ。

山崎さん:
「いつものことですから(笑)」

小林さん:
「割と仕事しているときってお客さんと話しないんだよね。割とみんな黙ってるよね(笑)」

山崎さん:
「始めにこのくらいって言えば大体慣れたもので、その通りにやってくれますよ」

長年の付き合いで生まれるあうんの呼吸。言葉がいらない安心感を心地よく感じる客も多いようです。

小林さんが理容師の道に進み始めたのは、17歳の時。養父であり小林理容院を始めた小林常治さんが病で倒れ、店を残すために跡を継いでほしいと頼まれたことがきっかけでした。

小林さん:
「お父さんが軽い中風(脳卒中)になって、やり手がなかったから、私にどうしてもやれと言って」

長野市にある通信制の理容学校で2年ほど学び、理容師免許を取得。引退した常治さんに代わって店を守ってきました。

28歳の時には、長野市の理容院で見習いをしていた昌平さんが婿入りして結婚。2人の子どもにも恵まれ、昌平さんと2人で店を続けてきました。

小林さん:
「自分が好きだったせいか、これやだなってことはなかった。やっていればいろいろな人にお話しできたりするから、いいなと思ってズルズルと(続けてきた)(笑)」

昌平さんは2008年に亡くなり、2人の子どもも離れて暮らしていて、店は1人で切り盛りしています。

小林さん:
「(昌平さんには)『1人でも無理しないで頑張ってやれよな』って言われた一言だけ。それでもよく続けてやってこれた」

常連客の山崎さん。理容院ならではの「顔そり」も小林さんにお願いしました。

肌を傷つけないように、シェービングレザーの丁寧な動きもお手の物。あごの周りだけでなく、目と眉の間の産毛なども手際よく処理していきます。30分ほどでカットと顔そりは終了。

山崎さん:
「すっきりしましたよ、いつも通りね。この歳でこういう目の周りとか、素早くやってくれるから技術的にも衰えていないし、すごいと思いますよ。このままね、元気が続く限りやっていただければ」

小林さん:
「動くうちはやりますよ。仕事となるとちゃんとするだね。あとは、ふらふらしてるんだけど、よくしたものでね」

1人で理容院を営む94歳。元気の秘けつを聞くと、日常生活にあると言います。

急な階段もスイスイ。小林さんの家は2階にトイレがあります。洗濯機やお風呂があるのは地下。今度は階段を下ります。一日に何往復も上り下りをすることで丈夫な足腰を維持できているようです。

小林さん:
「苦にならないよ、トイレ行ったり他の用事で上ったり下りたり。運動のつもりで、ちゃっちゃっちゃ」

健康の秘けつは食事にも。お昼の食卓に、手作りのロールキャベツ、買ってきた漬物など、実に6品のおかずが並びました。

栄養バランスが偏らないよう、複数のおかずを用意して、何回かの食事に分けて食べるようにしています。

小林さん:
「こうやって出しておいてね、好きなだけ食べて、また冷蔵庫入って、次また出てくる。いっぺんには終わらない」

食事の最後に飲んでいたのは、自家製の甘酒。栄養が豊富だからと一日に2回は飲んでいます。

小林さん:
「ごちそうさま、いただきました」

もちろん、理容師としての仕事自体も健康のもと。客との会話や、散髪の細かな作業に頭を使い、生きがいにもなっていると小林さんは言います。

それでも、年々ハサミやカミソリを持つ力が弱まっているのを感じていて、今は1日に2~3人のお客さんの対応をするので精いっぱいです。

後継者はおらず、小林さんが店の最後の理容師。常連客からは「店を続けてほしい」との要望も多く、できるだけ頑張りたいと意気込んでいます。

小林理容院・小林その子さん(94):
「『元気で気を付けてね』なんてお客さんにいうと、お客さんが『俺は大丈夫だけど、ばあちゃん頑張ってくれ。今度来る時まで頑張って、元気でいておくれ』なんて逆に言われる。だから動けなくなるまでやって、動けなくなったら(やめる)。頑張ります」

長野放送
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