お年寄りの生活を介護保険以外の有料サービスで支援する高齢者向けの“なんでも屋”、『レンタル孫』が広がりを見せている。民間サービスは、自費負担だが、身体の状態を問わず利用できるのが特徴だ。“家族の代わりに”高齢者をサポートする現場に密着した。

“何でも屋”の老人介護サービス

高齢者の生活全般における手伝いや付き添いサービスを請け負う『レンタル孫』。福岡市を中心に営業を展開している。

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午前8時、福岡市内の事務所から 代表の集孝博さん(34)が向かったのは、80代の女性の依頼者宅。「体調はどうですか?」とその日の体調を確認した後、集さんは、箱から飲み薬を取り出す。薬の飲み忘れがある女性は、離れて暮らす家族からの依頼で週に2回、薬の介助サービスを受けている。

「飲めましたね、OK!大丈夫ですね」。女性がきちんと薬を飲んだことを確認すると、女性の家族に向けたメモを記入。

これで1件目の仕事が終了だ。「また、来ます」『待っとくよ』と言葉を交わし集さんは、次の依頼者宅へ向かった。

『レンタル孫』のサービス内容は、高齢者やその家族から電話やインターネットでの依頼を受け、実際にスタッフが訪問して様々な手伝いをする。

高齢者の介護や医療現場に精通している20~40代の男女14人が登録している。集さんが抱えるこの日の依頼は5件。息つく間もなく次の訪問先へと急ぐ。

依頼者との世間話も重要な仕事

次の依頼者は、転んで肩を痛め、今も手が痺れて力仕事ができないという80代の女性。家の断捨離をしているので、手伝って欲しいというのが依頼内容だ。「捨てるモノがたくさんある」と話す女性。とにかく捨てる予定の棚の中の本を整理して欲しいという。

集さんは、「捨てます?どうします?上に持って行く?」と1つ1つ女性に確認しながら荷物を仕分けしていくが、棚から懐かしいアルバムが出て来て、思わず作業の手が止まることもしばしば。

「1953年って書いてある。凄い年期が入ってる」(集さん)。「旅行に行ったときの写真かな。昔行った旅行の写真ですね」(女性)。なかなかはかどらない。

「いつもこんな感じで話しながらやっているから、あまりスムーズに作業が進んでいかない」と集さんは笑うが、依頼者と世間話をすることも、高齢者の孤独を和らげる大事な仕事なのだ。「こういう手伝いをしてくれる方がいらっしゃるから私が生きていける。“孫”だから、ちょうどいいくらい!」と依頼した女性は、『レンタル孫』の存在を高く評価している。

1か月に100件以上の仕事依頼

集さんが『レンタル孫』を始めたのは4年前。介護士として施設や病院で高齢者と関わる中で感じた“気づき”がきっかけだった。「ゴミ出しができないとか、料理ができないとか、そういう理由で家に戻れない方を見てきたので、お手伝いというか、手助けになればと思い事業を始めた」と集さんは、起業した思いを語る。

仕事を始めた当初は少なかった依頼も『庭仕事の手伝い』や『食事の同行』『スマートフォンでのネットショッピングの仕方を教える』など、日々、様々な高齢者の依頼を引き受けていくうちに、今では1か月に100件以上の仕事が入るようになった。活動の範囲も福岡市全域から近隣の那珂川市や糸島市などへと広がってきた。

午後2時過ぎ。次の依頼者は、福岡市内の団地に住む70代の女性。病院の付き添いを希望している。

増えているゴミ出しの依頼

杖を手にした女性が、ゆっくりとした足取りで階段を降りて来た。

「1人じゃちょっと…行けなくはないですけど。タクシーの乗り降りや階段も上り降りが怖い。心配」と話す女性。集さんとの付き合いは、3年以上になる。今では冗談を言えるほどの仲の良さだ。タクシーに乗って、一緒に市内の歯医者に向かう。

約2時間後。治療を終えて女性と一緒に自宅へ戻る。一緒に階段を登り、部屋まで送り届けて仕事は終了。と思いきや、急きょ、買い物を頼まれスーパーへ。集さんの会社では、こうした突然の要望にも、できる限り応じているという。

午後7時過ぎ。集さんは、この日最後の依頼者の元へ。部屋を訪れて集さんが手にしていたものは…『燃えるゴミ』。「玄関でゴミ袋を受け取って、そのまま外のゴミを出す所に持って行くまでの代行になります」と話す集さん。エレベーターのない団地やアパートに住んでいる高齢者から、ゴミ出しの代行といった依頼も増えているという。

料金は30分の利用で2000円。以降10分ごとに500円ずつ加算されていく。ゴミ出しの代行は、1回500円から引き受けている。「困りごとがある高齢者の方が、私の手伝いで、住みたい家に長く住み続けられるというのは喜ばしいこと。スタッフも募集はしていくが、『働きたい』とか『高齢者に何かしたい』という若者は絶対にいるはずなので、『レンタル孫』という組織を困っている高齢者を繋げるプラットフォームにすることが、今後の使命というか役目になっていく。高齢者は、介護という言葉に凄く抵抗感があると私は思っているので、『孫を借りませんか?』っていうくらいの軽い気持ちでお手伝いを頼んで欲しい」と集さんは抱負を語る。

高齢化が進む中、介護保険の対象にならない小さな“困りごと”に寄り添うサービスが、これからますます必要となりそうだ。

(テレビ西日本)

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