2025年11月に東京で開催される聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」。
日本では初開催となり、26日までの12日間に70から80の国や地域から選手団など約6000人が参加。陸上やバスケットボール、サッカーなど21競技で熱戦が繰り広げられ、「デフスポーツの魅力や価値を伝え、人々や社会をつなぐこと、共生社会の実現」などがテーマとなっている。

その陸上競技の日本代表に、島根・松江市にある松江ろう学校に勤務する2人の先生が選出された。教員と現役選手の二刀流、同僚として切磋琢磨しながら大舞台での飛躍を目指す2人の姿を追った。

デフリンピック日本代表内定で祝福される2人
デフリンピック日本代表内定で祝福される2人
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母校で教鞭をとる走幅跳の代表 生徒たちのあこがれの存在に

2025年5月、松江ろう学校の2人の先生が、東京で開かれるデフリンピック陸上競技の日本代表に選ばれた。
代表内定から2か月が経った7月、小学部6年生の社会科の授業で教壇に立っていたのは、須山勇希さんだ。

松江ろう学校 須山勇希さん
松江ろう学校 須山勇希さん

雲南市出身の須山さんは、松江ろう学校の卒業生だ。中学時代に陸上を始め、今回のデフリンピックでは走幅跳の代表に内定した。
2024年7月の世界デフ陸上で7位入賞、2025年5月の日本デフ陸上では優勝を果たした実力者だ。大学を卒業したあと、2年前から母校で教鞭を執っている。

走幅跳の世界大会でも活躍
走幅跳の世界大会でも活躍

「今も勉強中なので、もっともっと分かりやすくできればなと思うことが毎日あるので」と教員生活2年目を迎えた須山さんは謙虚だが、児童からは「分かりやすくて、すぐに納得できる。デフリンピックに行くことはすごいなと思いました。憧れの人の1人なので、そこを目指していきたいです」と慕われている。

 底抜けの明るさが魅力 メダル期待の短距離スプリンター

子どもに囲まれる足立さん
子どもに囲まれる足立さん

もう1人の日本代表は、足立祥史さん。
東京デフリンピックの400メートル、4×100メートルリレー、4×400メートルリレーの3種目の代表に内定している。
松江市出身で、陸上を始めたのは中学時代だ。2024年7月の世界デフ陸上では、日本代表として4×100メートルリレーに出場。大会新記録での優勝に貢献し、デフリンピックでもメダルが期待されている。

世界デフ陸上 優勝に貢献
世界デフ陸上 優勝に貢献

教員生活は5年目、中学部と高等部の社会科を担当する足立さん。
休み時間には、大勢の子どもたちに囲まれる人気者だ。同僚からも「子どもにすごく人気ありますね。学校全体がエネルギー溢れるというか」と評される。

子どもと同僚から信頼の厚い存在
子どもと同僚から信頼の厚い存在

「コミュニケーションを取って、おふざけをして色々な楽しい思い出、悲しい思い出を一緒に作ることにとてもやりがいを感じています。それが子どもたちにとって将来役に立てば良いなと思っています」と足立さんは語る。

互いに刺激を与え合う2人…仕事も陸上もストイックに

同じ学校で働く2人の選手は、互いに刺激を受け合っているという。

「足立先生がこの学校におられることで、陸上を一緒にやっている先輩がいるというのはすごく支えになるなと思います」と須山さん。

同じ職場で刺激を受けあう2人
同じ職場で刺激を受けあう2人

一方の足立さんも「須山先生は仕事も陸上もストイックに取り組んでいる姿をよく見るので、自分も頑張らないといけないなと思って、身を引き締めて頑張っている途中です」と語る。

仕事終わりに練習
仕事終わりに練習

午後5時、仕事を終えた2人は陸上競技場へ。競技場が使用できる午後7時までの限られた時間の中でトレーニングに励む。コーチはいないが、アドバイスを送るなどしてここでも2人は支え合う。

健常者とともに大会に出場 トラブルを糧に工夫重ねる

走幅跳に出場した須山選手
走幅跳に出場した須山選手

7月に松江市で開かれた国民スポーツ大会の県予選、健常者も出場する大会だ。
走幅跳びに出場した須山選手、その経験をいかしたスピードに乗った跳躍が武器で、自己ベストを更新する6メートル89をマークし優勝した。

短距離に出場した足立選手
短距離に出場した足立選手

短距離に出場した足立選手。完璧なスタートで前半はレースを引っ張ったが、終盤に減速…2着に終わった。
実はレース中に、左耳につけていた人工内耳が外れかけるトラブルがあったためで、「そこを気にしてしまい、ちょっとスピードが落ちてしまった」と残念がった。
スタートのピストル音を聞くために装着していた人工内耳だが、これが外れそうになり、走りににも影響が出てしまった。

「スタートランプ」
「スタートランプ」

デフリンピックなど聴覚障害者の大会では、「スタートランプ」と呼ばれる装置が導入され、LEDの色の変化を見てスタートのタイミングを判断できるため、人工内耳や補聴器を装着する必要はない。
ただ健常者も出場する大会では、機器が高価なことや操作に技術が必要なこともあり、スタートランプの導入が進んでいないのが現状だ。

300メートル競走で実力を証明
300メートル競走で実力を証明

「選手の心理的な負担の軽減のためにもランプはほしいですね」と話す足立さん。
それでも気持ちを切り替え、続く300メートルではリベンジ、優勝を果たした。
デフアスリートである自分が活躍することで、スタートランプの普及をはじめ、障害のある選手の活躍の場が広がればと考えているという。

こうした中、足立選手は携帯のアプリを活用して、簡易的なスタートランプを自作してデフリンピックに備えている。
足立さんによるときっかけは、スタートランプでフライングをして失格したことがあったためで、ランプを使った練習を積み重ねようと、工夫を重ねている。

自作の「スタートランプ」で練習
自作の「スタートランプ」で練習

デフスポーツを通し聴覚障害者を取り巻く社会環境の改善願う

そしてデフアスリートである自分が活躍することで、スタートランプの普及をはじめ、障害のある選手の活躍の場が広がればと考えている。
「スポーツで頑張る聞こえない・聞こえにくい選手でも自分らしく競技に集中できるように、健常の聞こえる人たちと対等に戦えるように、スタートランプという社会の仕組み、設備が必要だと思っています」と語り、生きやすくなる社会の実現に貢献したいという思いを強くした。

デフアスリートとして研鑽する2人
デフアスリートとして研鑽する2人

須山さんも「障がいがある、ないに関係なく、自分の好きなこととかやりたいこととかを諦めずに最後まで頑張り続けることの大切さや楽しさを伝えていけたら」と思いを語る。

「最後まであきらめない」姿をと語る須山選手
「最後まであきらめない」姿をと語る須山選手

東京デフリンピック2025は、11月15日に開幕。教員と競技の二刀流で挑む2人の先生は、それぞれの思いを胸に最高の舞台での活躍を誓っている。

(TSKさんいん中央テレビ)

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TSKさんいん中央テレビ
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