春の高校バレー長崎県大会は、男子・鎮西学院、女子・西彼杵の優勝で幕を閉じた。負けられない思いがぶつかり合い、男女ともにフルセットまでもつれこむ大激戦となった。歓喜の裏に涙あり。全国大会出場を達成できず涙をのんだチームがいることを忘れてはならない。
一番のファンでいてくれた母
男子準決勝のひとつ、大村工業と長崎南山の戦い。
長崎南山3年、中村隼人選手は、特別な思いで試合に挑んだ。
中村隼人選手:
お母さんは、試合を見に来るときもあったが来られない時も陰ながら応援してくれて。亡くなった時は寂しい思いでいっぱいだった。
母の英理子さんは2024年、乳がんで亡くなった。15年間闘病を続けながら、応援に駆けつけたり、弁当を作ったりと中村選手の一番のファンとして支えた。
母に優勝する姿を見せたいと懸命にプレーしたが…大村工業にストレート負け。決勝進出は果たせなかった。
悔しさに涙を流す長崎南山の選手たち、そして中村選手。
長崎南山の狩野裕樹監督は、中村選手がスタメン復帰できるかわからない中でも諦めず、最後まで頑張ってきた姿を見てきた。
「この悔しさを忘れず、もう一回自分自身を高めてチャレンジしなさい。そして成功をつかむ。お前たちなら絶対できる」。
狩野監督は、選手たちに最後の声をかけた。
中村選手は「思うようにプレーできなかったけど、“最後までバレーを続けさせてくれてありがとう”という気持ちでいっぱい」と話す。
「これから大学生活になるが、次は自分が親孝行する番だと思っている。お母さんには自立できるように頑張るから天国で見守っていてほしい」と、母への気持ちを語った。
「小山を春高に連れていく」
女子の決勝戦は、西彼杵と聖和女子の戦い。
聖和女子には「絶対に負けられない理由」があった。それは、3年生の小山選手の存在だ。
小山選手は8月、遠征での練習中にチームメイトと接触して左足のじん帯を断裂。春高県大会に出場することができなかったのだ。
ケガをしてしばらくは試合も見たくないほど落ち込んでいたという小山選手。しかし、チームのみんなが「小山に春高の景色を見せるから」と言い続けてくれたことで、前向きな気持ちを取り戻した。
コートの外から献身的にチームを支え、声をかける小山選手に、選手たちは「小山に恩返しをしたい」と口々に語った。
チームの目標はただ一つ。「小山を春高に連れていくこと」。
「負けられない」意地と意地
女子決勝戦が始まった。
聖和女子と対戦する西彼杵は、恩師・井上博明さんを4月にがんで亡くしている。お互い、並々ならぬ思いで大会に臨んだ。
互いの意地と意地がぶつかり合い、勝負の行方は最終セットへ。終盤まで真っ向勝負が続く。
「さあ強気!最後、気持ちよ気持ち!さあいこう!よし!」。小山選手の仲間を信じる声がコートに響き渡る。しかし…
フルセットの末、西彼杵が2年連続2回目の優勝。聖和女子は春高に一歩届かなかった。
小山選手は後輩たちの肩を抱きながら、声をかけ続けた。「大丈夫。よく頑張った。大丈夫、ありがとう。来年勝ってね、絶対」。
永江智咲主将は、試合中、小山選手のエールが力になっていたと話す。「予選で敗れてしまったので小山に対して申し訳ない。でも、相手にブロックされて落ち込んでいる時にベンチから小山が『大丈夫』と声をかけてくれて、私の耳にもしっかり入ってきてすごいパワーになった」。
小山選手は「試合後、コーチに“ごめんね”と言われた時に負けたんだと実感して、自分が出られなかった悔しさや、もっと何か出来たんじゃないかという思いが出てきた。みんな最後まで全力で戦ってくれたから後悔はないし、最後まで私のために戦ってくれてありがとうと伝えたい」と、チームのみんなに感謝の気持ちを語った。
3年間の集大成を出し切る
男子決勝は2年連続で同じカードに。2025年度の県内の主要大会を全て制してきた大村工業と、春高連覇を狙う鎮西学院の対戦だ。
大村工業のキャプテン北村悠樹選手。中学時代は陸上部に所属しながらバレーを続け、今では名門校のエースに成長した。3年生の今こそ、前年の雪辱を果たして東京のオレンジコートに立ちたいとチームを引っ張る。
2025年度の県内の大会で1セットも落としていない大村工業。春高でも圧倒的な強さで頂点に駆け上がると、誰もが思っていた。
しかし、鎮西学院の勢いが予想を覆した。鎮西学院が全員バレーで躍動し、2セットを連取。
しかし、ここから大村工業が意地を見せる。北村選手を中心とした攻撃で2セットを奪い返し、勝負は最終セットへ。
14対13、鎮西学院がマッチポイントを迎えた場面で、大村工業北村選手のサーブ。
しかし…ボールはネットを越えず、鎮西学院が勝利。大村工業は敗退した。
北村選手はその場で泣き崩れた。「最後は、自分がエースでキャプテンなので攻めようと思ったが、自分の力不足が出た」と北村選手。
北村選手:
ごめんな勝たせられなくて。ごめん…ごめん。
チームを背負って戦ってきたこの1年。春高出場は逃したが、その涙と経験は次のステップへの力となっていく。
北村選手は、「大学でもバレーボールを続けようと思っている。大人になってからも社会に出てからも、後輩たちの思いを受け取って努力していきたい」と力強く語った。
歓喜の裏に涙あり。バレーボールに打ち込んだ全ての高校生の情熱を受け止め、長崎県代表の2つの学校が2026年1月5日、新春の全国大会に挑む。
(テレビ長崎)
