毒餌での駆除が難しい
では、ワモンゴキブリはどうやって駆除すればいいのでしょう?ちなみにクロゴキブリの場合は、殺虫スプレーや市販されている燻煙殺虫剤を使えば簡単に駆除可能です。チャバネゴキブリの場合は殺虫剤に対する耐性を持っている個体も存在するので、プロの駆除業者は業務用のベイト剤や、ブロフラニリドという新しい殺虫成分の入った薬剤を使います。
ベイト剤とは餌に遅効性の殺虫成分を混ぜた毒餌のことで、これを食べたゴキブリが巣に戻って死ぬと、その死骸や糞を食べたほかのゴキブリたちも連鎖的に死滅します。コロニーをつくって暮らしているチャバネゴキブリを駆除するには、巣を全滅させることが可能となるため、ベイト剤による駆除法が適しているのです。
ワモンゴキブリもチャバネゴキブリ同様、コロニーをつくって暮らしているのだから、ベイト剤を使えば駆除可能と思われるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。なぜなら体が大きく食欲旺盛なワモンゴキブリは、1匹でベイト剤をチャバネゴキブリ以上に大量に食べてしまうからです。巣ごと全滅させようと思ったら大量のベイト剤が必要となり、多額の薬剤費用がかかってしまいます。

コストの面からベイト剤をあきらめて別の薬剤を検討しますが、つい新しい商品を頼りがちです。新成分であるブロフラニリドの殺虫剤を使ってみました。ところが、成果は全く得られませんでした。体が大きい分、効き目が遅いのかと思いましたが、待てども効果が実感できないので、あきらめました。後にゴキブリの研究者が学術発表の場で、ブロフラニリドでは目に見える効果が得られなかったと講演されていました。
店舗の天井裏に150匹以上も
こうした理由から、ワモンゴキブリの駆除は駆除業者にとって悩みの種だったのですが、私どもは天井裏に「残留噴霧処理」という駆除法を行うようになりました。残留噴霧とは、ゴキブリの通り道となっている壁際、床などに長期間効果が持続する殺虫剤を予め噴霧する駆除法で、薬剤がゴキブリの体に付着し、やがて体内に取り込まれて死滅します。
先日も都内の飲食店からワモンゴキブリの駆除を依頼され、天井裏に残留噴霧を行ったところ、想像以上の効果が確認できました。飲食店なので営業が終了してからの作業になり、深夜に薬剤を噴霧して明け方に店に戻ると、なんとそこには150匹以上ものワモンゴキブリが床一面にひっくり返って死んでいたのです。
今のところ都内に限っては、ワモンゴキブリの駆除依頼はビルの飲食店からのものがほとんどです。しかし、深夜に路上でワモンゴキブリが走り回っている光景を見るようになってきたので、地球温暖化がさらに進むにつれ、都内の住宅地にもワモンゴキブリが普通に出没する日がくるかもしれません。そうなったときに慌てないためにも、今回お話ししたことを頭の隅にでもいいので記憶しておいていただけると幸いです。
構成=中村宏覚
足立雅也(あだち・まさや)
害虫駆除や鳥獣対策を手掛ける「808シティ」代表取締役社長。