日本の主力ロケット「H3(エイチスリー)」。その“より軽量な”燃料タンクの開発に、福井・坂井市の繊維資材メーカーが挑む。宇宙産業に参入を果たしたのは、得意とする「炭素繊維」の技術。その強みや課題を取材しました。

創業88年で宇宙産業に参入

宇宙へ飛び立つ大型ロケットの部品は、物資の輸送量やコストの面から、軽いことがメリットになる。ロケットに搭載する燃料タンクも例外ではない。
 
燃料の液体水素を入れるためのタンクを“より軽いものにしよう”というプロジェクトに挑むのが、坂井市の繊維資材メーカー「丸八」だ。

丸八の菅原寿秀社長
丸八の菅原寿秀社長
この記事の画像(8枚)

創業88年、「炭素繊維」の技術を強みに、新たな挑戦に打って出る。
  
プロジェクト発表時の記者会見で、菅原寿秀社長は「炭素繊維は非常に軽くて強いのが特長で、まさに有効活用できる分野が宇宙。やっと、そこに手がかかった」と話した。

炭素繊維で多分野の製品を開発
炭素繊維で多分野の製品を開発

丸八は1936年(昭和11年)に創業し、当初は繊維機械の部品を製造・販売していた。
  
1970年代からは衣料用ニットの製造を始め、次第に自動車用のシート材を手掛けるように。2000年代に入ると、新しい素材の「炭素繊維」に乗り出した。
  
水素自動車の燃料ステーションに使うタンクやモータースポーツの車両に使われる部品、さらにはラケットなどのさまざまなスポーツ用品と幅広い分野の製品を手掛けてきた。

さまざまな分野で炭素繊維の製品を開発
さまざまな分野で炭素繊維の製品を開発

液体水素が漏れない厚さ4ミリのタンク開発

今回のプロジェクトのミッションは、現状、金属製のロケット燃料タンクを「炭素繊維と強化プラスチック」の材料に置き換えること。
  
最大のポイントは「軽さ」と、燃料を漏らさない「耐久性」を両立することだ。
 
社内で行われる開発会議では、さまざまな課題が―

開発会議の様子
開発会議の様子

「強度はいいけれど、液体燃料の漏えい…そこだよね、ポイントは」
「低温疲労による疲労、体力…そこは実験で確認する必要があるね」
  
最終的に目指すタンクの大きさは直径約5m、長さ8m。大きさの一方で「軽さ」を追求するため、タンクを形作るのは炭素繊維のみとする。
 
その厚み、わずか4ミリとする計画だ。 
  
丸八・将来開発部の中島正憲部長は「液体水素に対応する技術は、今回初めてチャレンジする。液体が漏れないようにすることが非常に難しい。さらに薄くしないと重くなりロケットを打ち上げる際に不利になるので、4ミリぐらいにしないと」と話す。

ロケット燃料タンクの構造イメージ
ロケット燃料タンクの構造イメージ

タンクを薄くするためにポイントとなるのが、炭素繊維の“巻き方”だ。
  
特殊な作り方で世界的な第一人者とされる、東京大学の生産技術研究所・吉川暢宏教授(福井市出身)が「設計」を担当する。
 
「スペースXのイーロン・マスク氏も(炭素繊維の)タンク製造を紹介しているが、ロケットには載せていない。やはり水素燃料が漏れるのが問題で、設計の技術でどうしたら“漏れ”を最少にできるか…ちゃんと打ち上げられる信頼性が一番」(吉川教授)
   
実現すれば“世界初”の製造技術で、タンクの重さは金属製の半分ほどになるという。

東京大学の生産技術研究所・吉川暢宏教授(福井市出身)
東京大学の生産技術研究所・吉川暢宏教授(福井市出身)

JAXAの基金事業に採択

実はこのプロジェクトは、4年ほど前から宇宙航空研究開発機構=JAXAと共同研究を進めていた。そして2025年には、JAXAの「宇宙戦略基金事業」に採択された。    
  
丸八の菅原社長は「宇宙分野はまだまだ決まったことがなく規格になっていない。難しいがしっかり進めることでビジネスチャンスになる」と意気込む。

JAXAの「宇宙戦略基金事業」に採択
JAXAの「宇宙戦略基金事業」に採択

4年後をめどに、まずは小型のタンクを製造し、基礎技術の確立を目指す。
  
「繊維に携わる仕事が、いま宇宙の仕事につながっている。福井・北陸は世界に冠たる繊維産業を取り戻すように、今度は宇宙の分野で福井から発信していきたい」(菅原社長)
  
実用化の見込みは約10年後。福井の技術が宇宙へ―その日に期待がかかる。

福井テレビ
福井テレビ

福井の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。