北海道東部に広がる釧路湿原で25日朝、土煙を上げて工事を進めるショベルカー。
特別天然記念物に指定されたタンチョウなど、希少な生物が多く生息する日本最大の湿原・釧路湿原の周辺でメガソーラーの工事が進み、その生態系が脅かされる事態になっています。
釧路湿原の周辺では今、大規模な太陽光発電施設、メガソーラーの建設が相次いでいます。
辺りは一面ソーラーパネルだらけ。
新たな建設も進んでいて、広大な面積の工事現場ではショベルカーが木を押し倒す様子や、大量の土砂をおろすダンプカーも確認できました。
現場から300メートルほどの位置にある研究所で希少動物の保全活動に取り組む齋藤慶輔代表に、現場の近くを案内してもらいました。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表:
すぐ隣、工事現場ですけど…見てくださいこれ。コンパネ(コンクリートパネル)浮いているのわかるでしょう。こういう所に土砂を埋めちゃってる。
25日朝の工事現場では、湿地とみられる地面の上に大きな板のようなものを敷く様子を確認。
また、8月2日には工事現場のすぐそばで餌を探すタンチョウの親子が撮影されるなど、生息地に近いところで工事が行われています。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表:
今年周辺で生まれたと思われるタンチョウのひなが、近いところでは事業地から150メートルの近さまで近寄って、定着してエサを取っている。彼らの生活をリスペクトして、今まで通りちゃんと自活できる環境を保全することが重要。
こうした状況に、アルピニストの野口健さんがSNSで「こんなことが許されるのか。メガソーラーは犠牲があまりに大きすぎる」「山奥でメガソーラーが建設されれば森林が伐採され、クマなどの野生動物がすみかを失い、人里に降りてきてしまうのは容易に想像がつく」と危機感をあらわに。
著名人からも批判の声が相次いでいるこの問題。
湿原の周辺でメガソーラー開発が相次ぐ中、釧路市は2025年6月、「ノーモア メガソーラー」を宣言。
希少生物の生息地が脅かされた結果、すみかを追われたヒグマなどが人里で被害をもたらす可能性もあるとしています。
では、なぜメガソーラーの建設が進んでいるのか。
釧路市市民環境部 環境保全課の西村利春さんは「釧路湿原国立公園内においては太陽光パネルの設置は進んでないが、周辺の地域で太陽光パネルの設置が進んでいる」と話しました。
今回の工事現場は、国立公園の外の民有地であるため規制がかからない区域。
この土地を購入した大阪の会社を取材すると、ガイドラインに沿った申請を市が受理したため、工事を進めていると答えました。
また、釧路市も受理したことを認めています。
それでは、湿原周辺で工事を進めることがタンチョウの生息に影響しないのでしょうか。
メガソーラーの開発会社からヒアリングを受けたという、タンチョウの保護を研究するグループの理事長・百瀬邦和さんは「タンチョウにとって営巣例はない。過去何年の間の我々の調査では、記録した例はない。餌場の一部は失われるが、それは大したことではない」と指摘。
しかし、希少動物の保全活動に取り組む齊藤代表は、「ただヒアリングを行っただけ。タンチョウについてもしっかりとした、必要十分な現地調査がなされていない。脆弱(ぜいじゃく)な湿地環境を埋め立てたら、取り返しがつかないことになる」と問題を指摘します。
番組の取材に対し、釧路市の鶴間秀典市長は「こういった太陽光発電をそろそろ止めなければ、自然が本当に狭まっていく」話しました。
釧路市は、希少生物の保全措置を義務付ける他、ソーラーパネルの建設を制限するため、許可制にするなどの内容を盛り込んだ条例を9月、議会に提出する予定です。