日本で最多の原発が立地する福井。関西電力の美浜原発では21年前、11人の死傷者を出す蒸気噴出事故が発生した。関電の幹部らは2025年8月9日、現地で黙とうを捧げ、再発防止を誓った。その美浜原発では現在、関電が新たな原発の建設のための地質調査の再開に向けて準備を進めている。2011年の福島第一原発事故以降、初めての動きとなる。

事故を機に「安全の誓い」を刻む

美浜原発3号機で蒸気噴出事故が起きたのは、2004年8月9日。タービン建屋内で2次系配管が破損し、熱水と高温の蒸気が噴出。作業員5人が死亡し、6人が重傷を負った。
 
この事故では、運転開始以来28年間、一度も配管の検査をしていなかった関西電力のずさんな管理体制が浮き彫りに。この事故をきっかけに原発の高経年化対策、いわゆる老朽化対策が大きな課題となるなど、原発の安全性に対しての議論が高まった。

破損した配管(2024年撮影)
破損した配管(2024年撮影)
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事故から21年がたった2025年8月9日、関西電力の森望社長らが「安全の誓い」が刻まれた石碑の前で黙とうを捧げた。

2025年8月9日
2025年8月9日

事故発生の1年後に、社員の目に入るようにと正門横に建てられた石碑には、次のような誓いの言葉が刻まれている。
  
【安全の誓い】
平成十六年八月九日、ここ美浜発電所三号機において 二次系配管が減肉管理の不備により破損に至り 十一名の方が被災されました
この事故の犠牲となり尊い命を亡くされた五名の方々に衷心より哀悼の意を捧げるとともに 事故の反省と教訓を深く心にとどめ 二度とかかる事故を起こさないよう 会社一丸となって取り組むことを誓います
 
平成十七年八月
関西電力株式会社

安全の誓いが刻まれた石碑
安全の誓いが刻まれた石碑

敷地内では原発“建て替え”の動き

美浜原発をめぐって関西電力は、敷地内での建て替えに向け、地質や地形などの調査を再開する意向を県や美浜町に伝えた。福島第一原発事故後に策定された原発の「新規制基準」に適合するかを確認することになる。
   
関電の方針を受け、中村保博副知事は「調査にあたっては、地元・美浜町に丁寧に説明しながら進めてもらいたい」と注文を付けた。
   
関電は、周辺住民に対しては直接説明すると共に、町民全体へはケーブルテレビなどを使って広報し、調査の詳細が決まったら全世帯を訪問して説明するとしている。

関西電力の森望社長
関西電力の森望社長

美浜原発は1号機と2号機の廃炉が決まり、稼働しているのは3号機のみ。その3号機も2025年12月には運転開始から49年を迎え、老朽化が進んでいる。
  
関西電力は、廃炉が決まった1号機の建て替えに向けて2010年12月には町内の山道で動植物の調査を、2011年1月には敷地内を含む発電所北側の約0.5キロ平方メートルでボーリング調査などを行っていたが、福島第一原発の事故を受けて中断していた。
   
いま、なぜ地質調査が再開されるのか。背景には将来、増加が見込まれる電力需要への安定供給や脱炭素社会の実現に向けて原発の新増設が必要との意見が出ているからだ。
   
政府は2023年2月、GX=グリーントランスフォーメーションの実現に向けた基本方針を閣議決定し“化石燃料をできるだけ使わない方針”を示したことを皮切りに、2025年2月に改訂した第7次エネルギー基本計画では「原子力を最大限活用していくことが極めて重要」とし、廃炉を決めた原発のある発電所内で建て替えを進める方針を示している。

美浜原発
美浜原発

福島第一原発事故から14年。原発建設に向けた国内で最初の一歩となる。
   
「事故の反省と教訓を深く心にとどめ」どのように安全性の向上に取り組み続けるかも問われている。

福井テレビ
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