秋田市にある美術大学の学生がアメリカの美術大学の学生と共同でガラスアートの制作に挑んだ。芸術を学ぶ者同士が互いの感性に触れ、刺激し合いながら作品作りに励んだ2週間。言葉の壁を越えて共に作品と向き合う学生たちの姿を追った。
秋田公立美大で日米の美大生が初交流
6月11日、秋田市の秋田公立美術大学にある工房に、ものづくりデザイン専攻の学生たちと、アメリカの美術大学「ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン」愛称・リズディの学生たちの姿があった。

リズディで教員を務めるショーン・サルストロムさんが、かつて秋田公立美術大学で働いていた縁で、初めて学生同士の交流が実現した。

秋田を訪れたのは1年生から大学院生までの14人。仙北市や由利本荘市、男鹿市など県内各地を巡り、秋田の文化や自然に触れた。

ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン ジョリン・ジェンさん(1年):
秋田杉でできたベンチや橋を見た。そういう空間が人にとって使いやすい公共の場所として機能しているのを見て、自分の作品にも取り入れたいと思った。
展覧会に向け感性をぶつけ合う
学生たちは、秋田市の旧松倉家住宅を会場にガラスアートの展覧会を企画し、この日はどんな作品にするのかグループに分かれて話し合いながら制作を進めていた。

ガラスのボウルのようなものを作っているグループに、どんな作品をイメージしているのか聞いてみると、メンバーの1人で秋田公立美術大学の藤澤穂香さんが「ガラスのボウルを作って、ゲストがその中に私たちが作ったものを入れ、下からライトを当てて天井に映し出される景色を楽しめるような作品を作ろうと決まった」と教えてくれた。
リズディの学生の中にはガラス制作初心者もいたが、ガラスアートを専攻する公立美大の学生が優しくアドバイス。はじめは緊張気味だった学生たちだが、芸術を学ぶ者同士、言葉の壁を越えてすぐに打ち解けたようだ。

ジョリン・ジェンさん:
大好き穂香さん。彼女は経験豊富で忍耐強く良い先生で、彼女の仕事ぶりから多くのことを学べるので一緒に制作できるのがとてもうれしい。
秋田公立美術大学・藤澤穂香さん:
作品の作り方や入り方、考え方がいろいろあって、うまくは聞き取れないけれどすごく刺激になる。自分にはない考え方。
ランチは“箸”で 日本の伝統工芸にも挑戦
午前の活動が終わるとみんなで一緒に学食でランチタイム。

リズディの学生たちも上手に“箸”を使って麺料理を味わっていた。こうした何気ない時間を通じて、学生たちは一層仲を深めていった。
昼食後、リズディの学生たちは「蒔絵」に挑戦。日本の伝統工芸にも親しんでもらおうと、公立美大の教員が体験会を企画した。

おわんに思い思いの図柄を施す作業。漆を均一に薄く塗るのがポイントだ。
リズディの学生たちにとって漆は初めて目にする素材。興味津々の様子で、一筆一筆丁寧に作業を進めていた。
歴史ある建物でインスタレーション作品発表
県の有形文化財に指定されている秋田市の旧松倉家住宅。

江戸から明治の暮らしを感じさせる建物の空間を、学生たちが制作したガラスアートが彩った。
展示されたのは、空間全体を作品とする「インスタレーション」と呼ばれる手法を使った4作品だ。

『痕跡』と題した作品は、来場者が部屋に置かれたガラスの小石の中から好きなものを選び、隣の部屋の好きな場所に置くことで、その名の通り“痕跡”を残すことができる。

『息』と題した作品は、吹きガラスの技法で作った“泡”を部屋の至る所に配置することで、家具や空間が呼吸をしているかのように表現。かつてこの場所で暮らした人たちの存在を感じさせる作品だ。

秋田公立美術大学・北山偲文さん(4年):
一人一人良さがしっかりあって、一人一人がいなかったらこういう作品ができなかったと思う。本当に出会えてよかった仲間。
ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン レイ・ワイントローブさん(4年):
本当に仲が良くなって、言葉を交わさなくても互いを理解して作品作りができた。
約2週間にわたって共に制作に励んだ秋田とアメリカの美大生たち。互いの感性に触れ、刺激し合った経験は、かけがえのないものになったようだ。
(秋田テレビ)