夏から秋にかけて収穫される「夏イチゴ」。この夏イチゴを秋田を代表する作物にしようと秋田・潟上市で産地化に取り組んでいる男性がいる。一般的には公開されることのない栽培データを生産者や研究者などと共有することで、いち早い産地化を実現しようと意欲的だ。
イチゴ栽培に本腰入れるために移住
潟上市昭和の農業用ハウスで栽培されている「夏イチゴ」。NTT東日本の子会社・NTTアグリテクノロジーの中戸川将大さん(41)が中心になって栽培に取り組んでいる。
中戸川さんによると、クラウン(親株の株元)の太さが、親指くらい太くなってくると生育が良いのだという。

2025年はかなり太くできているので、生育は順調で前年よりも良いようだ。
夏から秋にかけてが収穫時期の夏イチゴ。1つの苗から約75個の果実が採れ、7月中旬から11月までは毎日収穫できるようになる。
中戸川さんは元々、データや情報技術を活用した「スマート農業」を推進する事業を担当していた。県内のイチゴ生産者とスマート農業の実証を行っていく中で、生産・販売の重要性を強く感じ、2022年に家族とともに千葉から秋田に移住した。

NTTアグリテクノロジー・中戸川将大さん:
秋田で何か実証をやろうというと、NTTが来ていっときだけ実証をやって帰っていくイメージを持たれる人が多い。そうであれば自分がしっかり腰を据えて、地域を本当に変えたい、地域のためになることをしっかりやっていきたいという思いで移住した。
昼夜の寒暖差に強い風 秋田は適地
農業は未経験ながら2024年4月に夏イチゴの栽培をスタート。現在は2棟の農業用ハウスで夏イチゴ2品種を栽培していて、計2.7トンの収量を目指している。

中戸川さんは、「夏場の秋田は、日中は暑いが夜になると気温が大幅に下がって寒暖差がうまくできる。風が強くてエアコンがなくても涼しい状態をつくれる」と話し、秋田の環境は夏イチゴの栽培に適していると感じている。
『秋田夏響』ブランド化へ官民タッグ
国内で生産されるイチゴは通常、11月半ばから6月ごろにかけて収穫するため、夏には出荷量が極端に少なくなり、多くを輸入に頼っている。

夏場に市場に供給できるイチゴの生産地を目指して、県内では2023年から生産者とNTT東日本グループが連携し、夏イチゴ『秋田夏響(なつひびき)』のブランド化を進めている。

2025年4月には、県産の農産物を使った加工品の開発・販売などを手がける会社が『秋田夏響』を使った商品の販売を始めた。
また、行政も夏イチゴの産地化に向けて支援に乗り出した。県は2025年度の補正予算に、新たに「夢ある秋田産食料供給力向上支援事業」として5000万円を計上。対象品目には夏イチゴが含まれている。
栽培マニュアル公開し最速で産地化を
産地化に向けた動きが活発になる中、中戸川さんは栽培マニュアルの公開を進めている。
『秋田夏響』は、2021年に誕生した新品種『夏のしずく』をブランド化して名付けたイチゴで、栽培方法がまだ確立していない。中戸川さんは、生育環境や作業の記録を秋田夏響の生産者をはじめ、県や潟上市、県立大学などに公開している。2025年度中には県を通じて栽培マニュアル動画も公開する予定だ。

これまではデータを公表しないのが一般的だが、中戸川さんは「秋田県を産地にしていくには1人でやっていくと1年で1回しかデータが取れない。データを公開してみんなで知見を集めていけば、1年で何十回栽培したのと同じ効果を出すことができるので、最速での産地化を目指せると判断して公表している」と話す。
誰でも一定の品質を保って生産できるように栽培マニュアルを普及させ、秋田を夏イチゴの産地に。秋田ブランドの確立に向け、勝負の2年目を迎えている。

中戸川さんは「販売分野においても県内の皆さんの期待に応えられるような取り組みもそうだが、県外・海外と販路を広げていくことによって『秋田夏響』というブランドを秋田県を代表する作物にしたい」と熱意を注ぐ。
(秋田テレビ)