上野の定番大衆酒場「たる松」
「泰明庵」をあとにした2人が、続いて訪れたのは、台東区上野駅から徒歩2分の場所。この場所は、落語家にとっては鈴本演芸場もあり、身近な町だ。

上野の大衆酒場といえば「たる松」という人も多いほど、長年愛される店で、上野店のほか、近い場所に本店もある。

この「たる松」の開店は70年以上さかのぼる1954年で、戦後の復興期、日本酒の美味しさを知って欲しいと、樽の中で香りと旨みが増した樽酒を看板商品にするなど、樽酒に合わせたい様々なおつまみが自慢の店。
おふくろの味はキャベツ炒め
植野さんが師匠の実家、海老名家の食卓について聞くと、「おふくろの味で『ハンバーグ』って出るよね、羨ましいと思うの。お袋も一つ一つ作りたかったと思うんだけど、忙しくてできなかったから。お袋の中では親父が売れてきたら、『グラタンを作りたい』『アップルパイを焼いてみたい』とかいくらでもあったと思うけど、親父が54(歳)で死んじゃって…。
『おふくろの味ってなにか』って時に浮かぶのが“キャベツ炒め”。お袋が作ったキャベツ炒めは最高にうまい。キャベツを買ってきて、ザクザクと切って炒めて塩コショウ、でたまに豚バラとか赤ウインナーが入る時がある」と思い出の味を語った。

さらに父親については、「かっこいい人だよね。自分の親父を“素直にかっこいい”って言えるんだよね。僕は17歳までしかいられなかったけど、憧れもあるのかな…。多分長く付き合っていたら、“面倒くさいな”とか“鬱陶しいな”と思うところが、17歳で消えてしまったから…。本当はこうやって酒も飲みたいんだ、親父と…。だから自分のせがれとは成人式で2人っきりで飲んだ。『もし親父と飲めていたら、どこに連れてってくれたんだろうな』って探すよね」と胸の内を語った。