自身の学歴詐称問題をめぐり、市議会の百条委員会から“卒業証書”とされる資料を出すよう求められていた伊東市の田久保眞紀 市長は7月18日、提出を拒否する“回答書”を出しました。“回答書”に記された拒否する理由に正当性があるのかなど、多数のテレビ番組に出演している菊地幸夫 弁護士に聞きました。
伊東市の田久保眞紀 市長は市の広報誌や報道機関に提出した経歴調査票に「東洋大学法学部卒業」と記載する一方、実際には除籍されていたことがわかっています。
ただ、田久保市長は“卒業証書”を市の職員などに見せていたことから、地方自治法に基づき設置された市議会の百条委員会は田久保市長に対して“卒業証書”とされる資料を7月18日午後4時までに提出するよう請求していましたが、田久保市長は同日夕方、中島議長などと面会し、“資料”の提出を拒否する旨を記した“回答書”を手渡しました。
地方自治法に基づく百条委員会は、特に必要があると認められる場合には関係者の出頭や証言、記録の提出を請求することができ、正当な理由なく拒んだ時には6カ月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金を科されるほか、虚偽の陳述をした場合も3カ月以上5年以下の拘禁刑となるなど刑事罰が規定されていますが、田久保市長の“回答書”には拒否する理由として憲法で保障された自己に不利益な供述を強要されない権利などが列記されて、菊地幸夫 弁護士は「法的な権利という意味では提出しない正当な理由として成り立ち得ると思う」と話します。
その上で「警察・検察に対しても黙秘権を行使することは十分考えられるので、捜査機関に対しても卒業証書なるものの提出を拒否することだって考えられると思う。その場合は強制捜査として捜索差し押さえをするかどうか、また大きな事になってくるのだと思う」との見解を示しました。
(Q.提出拒否をした田久保市長の理由と対応どう見る?)
菊地幸夫 弁護士:
まず、市長の卒業証書に対する評価が今までと変わったと理解しています。今までは卒業証書は「自分は本物だと思っている」との趣旨を話していたと思う。
本物ならどこへ出しても恥ずかしくないはずなのですが、ところがきょう提出しない理由というのが「この卒業証書を出してしまうと自分が不利になる可能性がある」と。いわば黙秘権を使う、不利な供述は強要されないというような理由を考えてみると、出しては“まずい”ものと卒業証書に対する見方、言い方が変わったと私は理解している。
その上で、黙秘権を使って出さないことに“正当な理由がある”という主張を構成してきたのだなと理解している。
(Q.自己に不利益な供述の強要とは?)
菊地幸夫 弁護士:
私たちは、例えば警察の取り調べで自分に不利だと思うことは言わなくても良いという黙秘権という権利が憲法で保障されている。これを使うということ。
基本的には、これは警察による取り調べとか刑事手続きにおける権利なのだが、今回の百条委員会のような行政上の手続きでも黙秘権というのは準用される。そういう行政上の手続きでも使っても良いのでは、とよく言われている。それを使おうということ。
(Q.市長の対応は正当か?)
菊地幸夫 弁護士:
自分がこれ(卒業証書)を提出すると不利ということで、黙秘権として提出しないという理由であれば、確かに憲法をはじめとする法律が認めている権利。法的な権利という意味では提出しない正当な理由として成り立ち得ると思う。
(Q.百条委員会に対して証言も拒否できるのか?)
菊地幸夫 弁護士:
証言も自己に不利益な供述は強要されない、証言はしないという対応が考えられる。
(Q.“卒業証書”が何だったのかについては警察に委ねられるのか?)
菊地幸夫 弁護士:
自分な不利な証拠と、市長の考え方が変わっているのではと思う。本当に警察や検察にそれ(卒業証書)を提出するのかどうなのか。これは、将来はまだわからないということになる。
(Q.百条委員会は手を出せないのか?)
菊地幸夫 弁護士:
仮に出頭しても供述を求められない、関係ないところはしゃべるかもしれないが、肝心なところ、自分が罪に問われそうなところは「供述はしません」ということが考えられるので、百条委員会は核心部分に関しては空転することが予想される。
(Q.市長側の弁護士のやり方や方針はどう映るか?)
菊地幸夫 弁護士:
依頼者がなるべく不利にならないよう黙秘権を使うというのは考えられるが、今まで市長の主張というのは「私は卒業証書を持っている。私の中では本物だ」という主張だったので、今度の作戦というのは「これは外へ出してしまうと罪に問われるかもしれないものである」と転換するという意味ではもろ刃の剣で市長にリスクを負わせる面も否定できない
(Q.市長側の主張が180度変わったということか?)
菊地幸夫 弁護士:
(卒業証書が)本物だというのなら、なぜ出せないのか?と当然こういう疑問になるわけだが、出せない理由が「出してしまうと私が罪に問われるから」ということは180度変わったと見ても良いと思う。
(Q.あとは市長の“人”としての対応ということか?)
菊地幸夫 弁護士:
出して“まずい”ものというなら、どうして最初からそう言わないのか?最初は「私の中では本物だと思っている」という言い方をなぜしていたのか?当然そういう批判は来てしまうと思う。
(Q.警察・検察の対応を見るしかないのか?ポイントは?)
菊地幸夫 弁護士:
今のところは公職選挙法違反、虚偽事実の公表というところで告発が出されていると思うが、卒業証書が外へ出して、公にしてしまっては罪に問われるおそれがあるということになると、“私文書の偽造および行使”というより重い罪に嫌疑が出てくるということなので、そちらにも波及していくのか、そこが注目ポイントだと思う。
(Q.見極めるのは警察や検察ということか?)
菊地幸夫 弁護士:
捜査機関が判断することになると思う。百条委員会に対して黙秘権を行使したということになると、警察・検察に対しても黙秘権を行使することは十分考えられるので、捜査機関に対しても卒業証書なるものの提出を拒否することだって考えられると思う。その場合は強制捜査として捜索差し押さえをするかどうか、また大きな事になってくるのだと思う。
(Q.百条委員会による刑事告発はどうなるのか?)
菊地幸夫 弁護士:
正当な理由があるかどうかという点でいえば、黙秘権の行使ということで一応理由がつくので、百条委員会として告発する材料には正当な理由がないということで難しくなったと思う。
(Q.今後をどう見るか?)
これからの主要な舞台は捜査機関の動きになってくるのではないかと思う。市長は辞職を表明していることもあるので。百条委員会の方も証言拒絶なり、記録提出(の拒否)に正当な理由があるということであれば、ある程度空転せざるを得ないので、警察、その後の検察に今後どういう動きが出てくるのか、注目点はそちらに移っていくのではと思う。